黒鷲の旅団
16日目(1)命を頂いて
「おはよ……」
「はよー……」
朝食時。まだ子供達のテンションが低い。
食もあまり進まない様だ。
カリマとアイリスが抱き付いて来る。
頭をごしごし擦り付けて来る。
診断。精神にステータス異常。憂鬱状態。
まだ火竜の事を引き摺っているのだろう。
戦って、殺しているオオカミ、キマイラ、グリフィンとか。
そんな奴らも、誰かのお父さんかも知れない。
そういう想像力自体は大切な事だと思うのだが。
迷いや躊躇いを抱えたまま戦うのは危ない。
ああ、よし、話をしよう。
みんな、食べながらでも聞いてくれ。
生存競争に向き合う、という事。
相手の命を頂いて、食らって、また明日へと繋ぐ。
可哀想に思うのは構わない。
ただ、だからといって自分をくれてやらないで欲しい。
生きる事は必死だ。相手も、俺達も必死なんだ。
ありがとうでも、ごめんなさいでも良い。
非情になんか、ならなくて良い。
しかし生き抜いて。どうか、みんな生き抜いて欲しい。
「殺すの、怖いって思った。ごめん」
ごめんで良いんだよ、アイリス。
怖くていい。でも、躊躇うな。
「怖いのに立ち向かうのが勇気だもんな」
「おっちゃんは一番立ち向かってるもんなー」
マルカとイェンナ。お手本なんておこがましいが。
俺が先頭で撃つから、みんなも続いてくれるか?
あと半時したら進軍再開する。
食べられるだけ食べて、装備の点検を。
まだ迷いもあるだろうが、まずは街まで無事に帰ろう。
ユッタがパクパクっと唐揚げを口に放り込む。
ツェンタがクロスボウのレバーを確かめる。
通信で矢弾を買っているのはフェドラか。
レーネも俺に続いてか、何か声を掛けて回っている。
頭から水を被っているのはフレヤ。
気合を入れ直しているのだろう。
隣のジェマは水しぶきに迷惑そうだが。
それでも、いつもの顔つきが戻って来た様に見える。
毛布は馬車へ回収。食器は洗浄後に転移魔法。
石柱魔法の陣地は崩壊魔法で崩していく。
よし、みんな、忘れ物は無いかな?
パタパタっと足音が響いて、子供達が整列する。
先頭には俺、すぐ後ろにサンドラとアンヌ。
その左右後ろに、3小隊ずつが雁行陣状に2列。
間に挟み守られる形で馬車を配置。
広く展開し、街道を外れて開けた草原を行く。
閉所に入るならまた陣形を変えよう。
馬車の左右にはディエナとヴァラン。
後方右側にはベルナ、左側にはエンヌ。
人間のお金が欲しい様なので、雇用を延長した。
報酬は1人10万。街まででも援護をお願いします。
「あたしらはどこに入れば良いかしら?」
アラクネのネーラさん……何だって?
従者入り希望者が出ている?
ネーラさんの他、ラミアのルミリナ、ラーナ、ノルガ。
リザードマンのライナスとレナード。
ハーピーのロヴィリス、セレスタ、イスメーネ。
コロボックル一家からモニクとヘーゼル。
焼き出されて住居を失った、森の住人達。
森林資源が壊滅して、食糧難は免れない。
戦闘力皆無のコロボックルでも、出稼ぎがしたい。
出来る事は何でもするので、食事の面倒を見て欲しいと。
まあ、面倒を見れなくもないだろう。
アラクネのネーラを仮の隊長役に。
うちは遠射主体なので、とりあえず弓を配る。
アラクネ、ラミア、リザードマンは良いとして。
困ったのはハーピー達。手が翼なので武器を持てない。
後で何か考えるが、ひとまず上空から物見を頼む。
もっと困ったのはコロボックル。小人さん。
モニクとヘーゼルの姉妹。
魔法も無く、妖精と違って空も飛べない。
何が得意か。返答は家事とか裁縫。手先が器用なのかな。
爺さん達について貰って、装備の点検とか頼もうか。
「では、気を付けてな。次も敵でないことを祈るよ」
「手紙書くんだよ」「生水飲んじゃダメよー」
トレントさんや、残りのコロボックル達と別れ。
俺達は進軍を再開する。
まずは火竜討伐跡地へ向かおうか。
節目として、火竜さんとお別れしよう。
立派な火竜なので、天国へ入れて貰えますように。
行軍開始。俺を先頭に足音が続く。
ぞろぞろずるずる。ぱたぱたざかざか。
随分と賑やかになって来たな……
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