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黒鷲の旅団
16日目(3)テンパり・テンパランス

「ほほほほ本日はお日柄もよく、あばばばば」

 平伏する公主。見るからにテンパっている。
 おい、大丈夫か。どうした。

「け、けっ、結婚してくださいいいいい」

 ……は? 何だって?
 唐突過ぎて意味が分からない。

 側に控えていた騎士団長に事情を聴く。
 どうやら公主テンパりの原因は、俺の渡した槍。
 レア度の内訳が分かったらしい。

 レア度6:UR:ウルトラレア
 レア度7:P:プレスティージアス
 レア度8:T:トライアンファント
 レア度9:G:グロリアス

 と、続く様で。Gはグロリアス。
 UR、ウルトラレアの3つ上だと。

 過去のプレイヤー間で上等とされる、まずUR級装備。
 奪い合ってクラン全面戦争なんかが起きる事もあった。
 あるいは代金として城が建ったりするレベルの代物。

 これが、さらに3つ上になる。
 相場で金に換金したら、国庫なんか消し飛ぶという。

 具体的に幾らだよ。推定200兆。マジか。
 振り返ると魔人姉妹が揃って狼狽えている。
 お前さんらでも驚きのお値段なのか?
 ブランのディエナさんだけよく分かってない様だが。

「アンヌちゃん、それって凄いのかしら?」
「え、えっ、私に言われても……どう説明したら?」

 振り返り返すアンヌちゃん。それは俺も聞きたい。
 貢がれハニートラップ要員、ブランディエーヌ。
 この人に金銭感覚なんてどう教えろと。

 話を戻すが、推定200兆に対し、国庫残額60億程度。
 復興で消耗しがち、なのもあるのだろうが。
 しかし、そもそも桁が違うだろう。

 そこへ俺が代金を請求すると、詰む。
 公主ライフどころか国家運営が詰む。

 かといって、グロリアス級装備。性能もまた破格。
 手放すのは惜しい。敵側に渡るのは避けたい。
 俺に返すと、後でどこに行くか分からないのが怖い。
 実際、エンヌに1本あげちゃったし。

 ……で、結婚して共有財産にしようって?

 この娘は暴走すると、時々とんでもない事を言う。
 ともすれば、環境が良くないのかな。
 高レベル帯の悪い見本がウロウロしているんだろうか。

 公主を嫁に、なんて恐れ多い。あくまで献上品だ。
 お友達の印に、で良いんだよ。

「え、あ……う、嬉しいけど、でも200兆よ!?
 流石に何も返さないってのも……ねえ?」

 まあ、城が建つ値段の何倍だからな。
 知り合いの娘に別荘を何件も送る様な物、と考えると。
 何も要求しないのでは、逆に変な噂が立ちそうだ。

 なので、幾つか便宜を図って貰う。
 幾つか……無形資産を。
 まだ復興中で、金も物資も必要だろう。

 爵位を金で買う、なんて話があったと思う。
 出来れば子爵以上が欲しいな。
 冒険者ダニエルの実家に対抗したい。

「お、おお、全然おっけー。子爵だね。
 確か準男爵だから、二階級特進って奴?」

 二階……何か、殉職した人みたいになったんだが。

 次。請願権、なんてどうだろうか。
 封建社会でお上に嘆願出来る権利は大きい。

 そりゃあ、この公主は言えば話ぐらい聞くだろうけれど。
 それでも周りの貴族から、下賤云々と口を挟まれずに済む。
 具体的には、公主のサイン入り嘆願書を幾つか貰う。

 軍馬の手配。これは馬商人への口利き。
 馬は自分達で買うので、口利きだけ。

 えー、次。名誉。
 復興事業の成果を一部、俺の名義にして貰う。
 魔女に亜人種にと、支援者はまだまだ必要だ。
 売名行為も馬鹿にならない。

 あとは……領地は空きが無いか。
 領土が増えるか誰か領主が失脚したら、だな。
 その時は声を掛けて貰う。

 思いつくのは大体、そんな所かな。
 公主の資産を弱らせない形で、俺の権限だけ上げる。
 対立しているという貴族諸侯への弱みにもなるまい。

 請願権だって、無茶な要求はしないつもりだ。
 亜人融和政策の実施、なんてのも考えたのだが。
 嫌々従わせたのでは、結局、物陰で石が飛んで来る。
 差別云々は、人々の意識から変えないと。

「ん〜〜〜っ、よし! 分かった。あんがとね。
 それじゃあ今夜、盛大に叙勲式やるわ。
 子供ちゃん達も連れて来てよね。絶対よ。絶対。
 あと、何でも思いついたら嘆願してくれて良いけど。
 あたしを抱きたいとか書くなよー? んふふふ♪」

 書かねーよ。何そのスキャンダラス。
 火遊びどころか火だるまじゃねーか。
 誰だ、この娘に変な事を吹き込んでいるのは。
 ともすれば、環境が良くないのか。

 颯爽と白馬に跨る公主。
 ゴキゲンなのは国庫が節約で済んだからだろうか。
 騎士団と共に首都へと帰って行く。

 今夜、登城……急だが、まあ『アレ』は間に合うか。
 火竜さんにお別れして、俺達も進軍を再開しよう。



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