黒鷲の旅団
16日目(10)美に美を纏い
「お、おお……うむ、そうか……そうか。
ああ、いや、失礼。よく参られた」
城に着くと、城門前に宰相ブランドナーの姿。
こちらを見て、繰り返し頷かれてしまった。
体裁を整えて来たのが好印象だっただろうか。
賓客が無作法だと、公主がまた貴族内で不評を買う。
顔に泥を塗られる程度、何とも思わない公主ではあるが。
それで気に病むのは、彼女自身だけではないだろう。
「いぇーい、お待たせー」
「お呼ばれしましたぜ〜」
少し待たせて貰い、フレスさん達と合流。
ヘリヤとシャンタルが浮かれている。
アダルティな黒いドレス姿。スリットが眩しげ。
サナトスは見過ぎだ。この脚フェチめ。
「あっ、あの……派手過ぎたでしょうか」
フレスさん、もじもじ。
いやまあ、大変お美しいですが。
変な虫がつかないか心配にもなる、かな。
「ハインたん的にはどっちよ?
フレスたんもマイナたんも綺麗になっちゃって」
まだ飲んでもないだろうに、絡んで来るシャンタル。
シャンタルたんも捨てがたいから、難しいなあー。
「いぇっへっへ! 言うね、このこの〜!」
シャンタルは露骨に喜んで、肘押しプッシュ連打。
可愛い先生ちゃんで弟子は大変だよ。
「おじさん! ほっこりおじさん!」
不意に声を掛けられた。
小さい、魔女……魔女ヴィヴィッドさん、だったな。
この世界の経験データを動画に編集、投稿している。
現実世界の方で少し顔合わせをしていたか。
今日は受勲者ではないらしく、動画目的か。
公主に取材を申し込んで、OKは出たという。
ヴィヴィッドの従者は妖精パステル。
この辺で妖精は珍しいのだろうか。
トゥーリカに興味を持った様子。少し話しておいで。
神人の受勲者は……俺、サナトス、ロッシィ。
イェルマインとマグダレーナ。
他にはパラディオン達。バリーやランスロットの姿も。
「しまった。ドレスコードだったか」
「ほらー。だから言ったじゃん」
「やー、でも、自由な格好つってたし」
礼装と言えるのはドレス姿のロードメイアぐらい。
冒険の恰好そのまんまの者も多い。
公主直々に自由と言ったなら、間違いではないか。
しかし……そういえば昔、企業の会合があってな。
自分らしい格好でお越しください、と案内されて。
いざ行ってみれば、参列者はスーツ姿ばかり。
護衛役の俺まで、慌てて近場の服屋でスーツを買った。
そんなハプニングを経験した事がある。
嫌がらせだか試金石の類だかは知らないが。
お偉いさんの言う『自分らしい格好』とは何か。
庶民が字面通りに受け取ってはいけないらしい。
今回の場合、画策したのは公主でないだろうけれど。
雰囲気に合わせたいが、とパラディオン。
様子を見よう、とランスロット。
騎士団長や近衛兵長の到着を待つ。
……あ、やっぱりダメだ。
騎士団長から正装。近衛兵長もドレス姿だ。
「ああ、うむ。そんな事だろうと思ってな」
声を掛ければ騎士団長、事態を想定済み。
スーツやドレスを貸し出してくれると言う。
ただ、子供服の在庫は少ない様で。
そこへ来て、うちの子達が準礼装相当。
非情に助かったと安堵してくれた。
「あ、でも、僧服は正装みたいな物ですので」
「えー、着てみようよ。あっちに負けてるよー?」
遠慮するのはランスの従者・女司祭オデット。
ロードメイアがこっちを指差しながら煽り立てる。
こっち。フレスさんとマイナさん。ヘリヤとシャンタルも?
「はぁー……スゲェ美人……」
「いいなー……」
バリー、フェンリルさん、見過ぎ。
騎士団長まで溜息。大丈夫か。
ヘリヤは面白がって脚チラリしない。
フレスさん、今更だから堂々として。
あんまりモジモジされると俺まで照れるわ。
各自支度を済ませ、騎士団と打ち合わせ。
待機場所は兵士宿舎ロビー。
城内、貴族サイドでないのは、やはり身分の差か。
「すまないが、お察しの通りだ。
冒険者諸君は、高位貴族から快く思われていない。
しかし、魔軍撃退にせよ、火竜討伐にせよ。
諸君の多大な功績は、決して身分で霞む物ではない。
どうか周囲の声など気にせず、叙勲を受けて欲しい」
冒険者ギルドとは不仲な印象の公主だったが。
それでも周囲を押し切っての叙勲式。
冒険者個々人については評価している、かな。
従者達は謁見の間で整列して待つ。
受勲者は騎士の誘導で順次、謁見の間へ向かう。
近衛兵長が従者達を引率して先行。
みんな気を付けてな。後でまた。
前へ
/黒鷲の旅団トップへ
/次へ
|