黒鷲の旅団 >16日目(11)ダメージコントロール


黒鷲の旅団
16日目(11)ダメージコントロール

『はい次、バリーさん。罪状は〜、っと』

『ちょちょちょちょ違う違う、ちげえっす!
 名誉! 名誉の日だから!』

 受勲式会場から爆笑。
 フレスさんが映像付き通信魔法で中継してくれている。
 雰囲気としては和気藹々と進行されている様だ。

「これなら入り易そうだね」
「いや、どうだろう。見てみろ」

 安堵のロードメイアにランスロットが指差し。
 映像の端、不愉快そうな貴族連中が居る。
 満場一致で楽しんでいるとは言い難い、か。

 公主は敵対貴族を挑発しているのかも知れない。
 玉座に深く、ぐで〜んと座った公主。
 余裕たっぷりの不遜な態度。
 敵方から見たら面白くあるまい。

 次、剣士キャスティーナさんが受勲。
 伯爵の位と領地の取得を告げられている。

 子供従者のキュラとキュネは、整列せず彼女の後ろ。
 執政官ヘイドルフが読み上げているのは、功績かな。
 一緒に騎士の位を与えられる様だ。

「へー、従者でも叙勲されるんだな」
「らしいぜ。うちのルキュアも推薦しといた」

 関心顔のバスターに、さらっと得意げなサナトス。
 ルキュアさんは息を飲んで、口を押えてボロボロ泣く。

「ちょっ、おま、早い! 気が早いから!」
「坊ちゃまにお仕えして幾星霜……ふおうううう!」
「ああーもー。鎮静。鎮静魔法くれー」

 はいはい、カルムカルム。鎮静魔法。
 いっそ泣かしといてやっても良いだろうけれど。
 あんまり化粧が崩れても良くないか。

「旦那あ、戻ったら呼んで来いって」

 イェルマインが戻る。子爵就任おめでとう。
 あと数人で俺の番。会場前で待機しろとのお達しだ。

 会場へ向かう途中、通信。
 みんな、異常は無いか?

『エメリナが尻触られて。
 フレス先生が腹痛魔法で追っ払った』

『マイナ姉ちゃんが義足に足かけられて。
 大丈夫。支えたからコケてないよ』

『カリマが腕掴まれて、連れてかれそうになって。
 アンヌが代わりについてったけど、大丈夫かな』

『大丈夫よ。怪しい奴は今、兵舎裏で伸びてるわ。
 縛って転がしとくから、後で回収しましょ』

 異常だらけじゃないか……
 みんな会場に注目している裏で、事件が多々起きている

 探知魔法も反応が密集していて見分けが難しい。
 場が場なので、目立つ事はしないと思いたいが。

「はい、次は……おおっと、来たわね。
 まさか貴族の中で炊き出しに並んだ人は居ないでしょうけど。
 市民の味方、黒鷲さん。ハインリヒさん、どうぞー」

 お声が掛かり、会場へ踏み入る。
 左右に整列した観衆。従者達や貴族連中。
 中央には赤いカーペット。
 この上を、公主の前へと進む。
 頭の中で作法を反復しつつ……

「あっ!」

 背後でユッタの声?
 ざわつく会場。心配そうな公主の顔。
 振り返ると、ユッタがコケている。
 列から転げ出て、カーペットの上に倒れている。

「何やってんだ、式典をぶち壊す気か?」
「不敬だわ。不敬よ」
「ははは。子供の遊び場じゃないんだぞ」

 貴族達の陰口。笑い声。
 悲しくなるユッタ。目に涙を浮かべている。

 すぐに駆け寄ってやりたいが。
 しかし式典が滞る。周囲からの評価が下がる。
 それはユッタの心の傷を広げてしまう。

 ……ユッタ。ユッタ・ハルストローム!

「あ、あっ……」

 名前を呼ぶ。ダメか。反応出来ない。
 念話魔法。ユッタ落ち着け。何とかする。

 マリナ・エーベルト!
 レーネ・ロンネフェルト!

「は、はい!」
「はっ!」

 列から飛び出すマリナとレーネ。
 ユッタを助け起こす。そのまま俺の後ろへ。

 分かってる。ふざけて通路に出たんじゃない。
 しかし周囲はそう受け取ってくれないだろう。
 通路に出る段取りで、ちょっと転んでしまった事にする。
 評価を、印象を『不敬』ではなく『失敗』に変えよう。

 公主の前で礼。後ろの3人も揃って礼。
 銃士隊長ユッタ、弓兵隊長マリナ、弩兵隊長レーネ。
 この者達の助力無くして、私の栄誉は無かったでしょう。
 公主殿下、この場で1つ嘆願を。
 どうかこの3人にも騎士の位をお与えください。

「え……お、おお、勿論。私からもお願いします。
 これからもこの国の為、頑張ってくださいね」

 砕け口調の公主が丁寧語になっとる。
 彼女も内心、緊張したのだろうか。

 安心か、困惑だろうか。
 ユッタは感情がグチャグチャになった様子。
 泣き出してしまう所を抱き上げる。

 よしよし。大丈夫。もう大丈夫だからな。
 これからもよろしく頼むよ。




前へ黒鷲の旅団トップへ次へ