黒鷲の旅団
16日目(12)ジルケ宣誓する
「あら可愛い。なんか感動しちゃったみたい。
微笑ましいハプニングは歓迎しましょ。
じゃあ、少し休憩入れましょうか」
公主が上手く場を取り持ってくれた。
今の内にユッタを落ち着かせる。
「誰かが押したんだよ。酷いよ」
悔しげに訴えるユッタ。
分かってる。お前が悪いんじゃない。
念話、通信。状況は。
先んじて会場を離れた者が居る様だ。怪しい。
探知魔法の反応も赤だったと、斥候ツェンタ。
ヘルヴィとヘレヴィが追跡を開始。
外のアンヌも先回りを試みている。
殺すなよ? 言いたい事は山ほどある。
休憩はもう少しか。
公主が寄って来て耳打ちする。
「大丈夫よ。私も見てたから。
伯爵、確かラングヤールだったかしら。
必ず落とし前はつけさせるからね。
ハインのアドリブが上手くて良かった。
場を納める手間が省けたわ」
公主がユッタの背中をポンポン叩いて。
繰り返し頷くユッタ。そろそろ大丈夫だろう。
気を取り直して、叙勲式を再開。
俺は子爵に就任する。
膝を付いて、公主が俺の両肩に剣で触れる儀式。
続いて余興として、ユッタ達。
俺が騎士の位を授ける事になった。
公主ではなく俺の騎士に。これは気遣いだな。
騎士は上役に従う。会社で言えば社員と上司。
例えば伯爵に従う騎士は、王侯に直接従う騎士じゃない。
そこへ命令を出したとすれば。
それは他社の人間をアゴで使う様な物だ。
他の貴族でも、俺を通さずユッタ達に命令出来ない。
世襲も無い準貴族だし、周りが渋る案件でも無い。
それでも渋る奴が居るとするならば。
それはうちの子に何する気だ、という話になる。
子供達の両肩に……と、抜身の剣で触れるのは怖いな。
刺突向け、派手な両手細剣メルパッターベモーを使う。
長いリカッソに首が納まってしまう。これは怖くない。
残る従者隊にも感謝の言葉を。
各隊から代表を呼び出し、並んで貰う。
イェンナ・シュタインベルク。
フェドラ・シュタインベルク。
ペトリナ・シェスターク。
ジルケ・ハイネマン。
家名の無い子、イェンナやフェドラ。
便宜上、俺の養子扱いとしておく。
君達も従騎士として、いずれ叙勲の機会を設けよう。
今後とも忠勤に励み……って、分かり難いか。
要は、先の3人と同じ様に感謝している。期待もだ。
これからも助け合っていこう。
「へへへ、任せとけって」
「ほらイェンナちゃん、お辞儀お辞儀」
「めめめ名誉あるお言葉。謹んでお受けします」
4人がお辞儀をして。
終わると思いきや、ジルケが前へ出る。
言いたい事があると言う。
公主も促してくれて……どうぞ。
『私達は貴方に受けた恩を忘れません。
みんな、貴方の為に命を投げ出す事を厭いません。
でも命を投げ出したら、貴方は悲しんでしまうから。
精一杯生き抜いて、命ある限り恩返しをします。
第2銃士隊代表、ジルケ・ハイネマン。敬礼っ!』
女の子のお辞儀ではなく。
びしっと敬礼をして見せるジルケ。
ジルケ、セリフは自分で考えたのか。
いつの間に、こんな立派になって。
おじさん感動で泣きそうだよ。
それと、もう1つ前の嘆願の内容。
フレスさん達はただ招いたんじゃない。
炊き出しの協力について、公主から感謝の言葉。
特に医療に特化したフレスヴェーナ派だ。
魔女協会を代表して、爵位ではないが栄誉勲章を頂く。
「やべえ、何か鼻出て来た」
「とうとう魔女が日の目を見る日が来たあ〜」
「あ、あ、あわわわわわわ……」
ヘリヤとシャンタル、うるうる。
フレスさんは口をパクパク。言葉が出て来ない。
ギコチナイ動作でお疑似して、勲章を受け取った。
「ふふん。何だか盛り沢山になっちゃったわね。
それじゃ、黒鷲のハインさん一行でした。
皆さま、拍手でお送りくださ〜い」
公主が退場を促して、俺達の出番は終了。
子供達の配置は、小さいから群衆の外側か。
カーペットの両脇に並んでいる。
見せ場だぞ。総員、2列縦隊!
ざざっと足音を鳴らす。
子供達がカーペット上に整列する。
公主様に礼! 揃った動きで一礼。
俺も公主に向いて一礼する。
……それじゃ、また後でな。
公主のウインクにウインクで返して。
俺達は会場を後にした。
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