黒鷲の旅団
16日目(13)清と濁

『ヘレヴィが捕まえたわ』

 デルフィアンヌから通信。
 位置は兵舎寄り。
 馬小屋の辺りか。

 子供達を連れてアンヌの所へ。
 見ると、ぐるぐる巻きにされた貴族の娘。

「あっ、こいつだ」
「ユッタの後ろに居た奴だ」

 ティルアとカーチャが覚えていた。
 ユッタを突き飛ばした犯人は女だったか。
 解析。女伯爵。
 イルメラ・ゲオルギーネ・ラングヤール。
 伯爵夫人ではなく、彼女自身が伯爵らしい。

「ぶっ、無礼者!
 私が何をしたというの?」

 式典の場を乱した。
 公主に無礼を働いたのはあんただろう。
 下賤だ何だと言って埒が明かん。
 自白魔法を投与。

 すると、喋らされている自覚が無いのか。
 偉そうな態度のままペラペラと喋り出す。

 まず、何故ユッタを押して転ばせたのか。
 目的は、事件。式典中に事件を起こす。
 不敬だ何だと騒いで逮捕者を出す。
 貴族への不敬は刑罰の対象だ。
 逮捕者が出れば賓客と公主が険悪になる。

 狙いは公主と賓客。
 冒険者側との仲違いだと。

 お高いお貴族様であれど。
 冒険者ギルドの影響力は無視出来ない。
 折角、一度不仲になった所だ。
 寄りを戻して貰っては困る。

 政治的抗争だな。
 対立派閥に揺さぶりを掛ける。
 それで、あんたにどんな得がある。
 そこまで対立派閥に入れ込んでいるのか。

 俺は、冒険者といえば冒険者だが。
 兼業傭兵で通している。
 ならず者といった印象も想像出来たハズだ。

 俺の子供にちょっかいを出す。
 バレたらタダでは済まない。
 そのリスクを全く考えなかったのか。
 リスクに見合った見返りがあるか。

 曰く、女伯爵ラングヤール。
 女の自分なら大丈夫。
 そう判断した理由があるという。

 女を助けて神聖教会にケンカを売った。
 敵方の公女を捕らえるも見逃したらしい。
 魔物でも女なら殺さないと聞いた。

 なるほど?
 幾つか過去の事例が噂になっていて。
 俺はフェミニストと思われている様だ。

 そりゃあ、辱める様な事はしないが。
 兜で顔の分からん様な女兵士もいる。
 既に何人撃ち殺したか分からん。
 治療したヘートヴィヒさんとかも。
 鎧を剥がすまで女と気付かなかった。

 女だから、は、要考慮だが。
 何かを約束する条件じゃない。
 女でも悪党は悪党である。
 危害を加えるなら対処する。

 他所の女より、うちの子達が大事だ。
 ユッタ達に危害を加えると言うのなら。
 他に止める手段が無いなら抹殺も辞さない。

 それを踏まえて……と。
 魔法も切れて来たかな。
 ラングヤールの顔が青ざめる。
 話した事を自覚した。
 もはや隠し立ては出来まい。

「抹殺……う、嘘よ。
 殺せるはずがないわ」

 どうかな。試してみるか。
 俺は拳銃を抜く。
 銃口を彼女に向ける。

「こ、こここ後悔するわよ!」

 そうだな。
 殺すだけ殺してから後悔しようか。
 人生、なかなか思い通りに行かないモンだ。
 後悔する事には慣れている。

「だって、強くて優しいって。
 騙したのね!?」

 俺は誰も騙していない。
 あんたに吹き込んだ奴の勘違いだ。

 情を捨てずに平気で生きて行けて。
 それでやっと強者なのだろう。
 しかし、俺は未だに弱者のままだ。
 次は何をされるか。
 あんたが怖くて堪らないのさ。

 大切な物の安全の為。
 情だって捨てる。
 撃てる、じゃないな。
 撃つしか選択肢が無くなって来る。

「こっ、殺さなくて、良いよ!」

 声を上げたのはユッタ。
 無暗に殺したくないのは分かるが。
 しかし、不安要素は残るぞ?

「約束して。
 もうしないって約束して。
 今度やったら私が撃つから。
 そ、それで良いよね?」

 涙目で繰り返し頷くラングヤール。
 一番の被害者が見逃すと言うのだ。
 仕方あるまい。

 対立派閥を辞めろなんて言わない。
 そちらにも信念なり都合なりあるだろう。

 ただ、二度と。今後一切。
 うちの子達を政治工作に巻き込むな。
 俺に対して、までは受けて立ってやる。
 せいぜいユッタに感謝しろ。
 命の恩人だからな。

 解放すると、ラングヤール。
 振り返りもせず逃げて行った。

「汚れ役なんて、私でも良かったのに」

 口を尖らせるユッタ。

 全ては段取りの中。
 脅しを掛けた上で助けてやる。
 ただ見逃したのではない。
『見逃してやった』テイにする。

 まあ、確約にもなるまいが。
 次から手出しもし難かろう。
 次やられた時、躊躇わずに撃てるしな。

 ここは俺が汚れ役で良いんだ。
 女なら許されるとか思われても困る。
 たまには怖い所も見せておかないと。

 さて。もう1人捕らえてあったかな。
 会場から逃げたラングヤール伯爵と。

「おっちゃーん。
 どうしよ、こいつ」

「はあ、はあ、もっとぶって……」

 ティルアとマルカが引き摺って来た男。
 顔に痣があるのはアンヌの暴行の跡だろう。
 息が荒いが、しかし顔が緩んでいる。
 こっちはただの変態さんだったか。

 解析。男爵。
 ダミアン・ユストゥス・ヘルモント。
 念の為、自白魔法。
 カリマの手を引いた動機。
 曰く、踏まれたかった……?
 俺には分からん趣味だ。

 異種族の女、特にエルフ相手に。
 何か願望を持った変質者らしい。

 思想やら政治的意図やらは無い様子。
 こいつは騎士団に引き渡して終わりだ。

 何か疲れた。
 晩メシ頂いて帰ろうか。



前へ黒鷲の旅団トップへ次へ