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黒鷲の旅団
16日目(14)積み重ねて来た物

「いやホント、旦那が心得をくれてて良かったっすわ」

 イェルマグ隊麾下のエリックら少年兵達。
 彼らもまた、貴族による差別や陰口の洗礼に遭った。
 身構えていたから、まだ心の傷は浅い様だが。
 それでも、見るからにゲンナリしていたという。
 子供達だけでも休ませてやりたい、か。そこは同意する。

 ……俺は俺で休みたかったんだけれども。

 従者チームは兵舎で夕食を。
 しかし、神人叙勲者は貴族達と一緒に立食パーティ。
 この采配が、どうやらイェルマインからの嘆願らしい。

 お堅い貴族に混じって、お堅い夕食を頂く羽目に、か。
 俺か子供達が生贄に、と言われたら、確かに俺だなあ。

 子供達は近衛隊達が見ててくれると言うので任せよう。
 イェルマグ隊はお姉さんチームが参加。
 マグダレーナが先に連れて行った。俺達も向かおう。

 俺の同行者はフレスさん、マイナさん、アンヌ。
 あと、子供達に通信魔法で映像を見せるトゥーリカ。
 貴族と神人で、中庭で立食パーティだ。

 会場に着くと、テケトーに交流しといてとイーディス公主。
 宰相達との打ち合わせが忙しい様子。

 テケトーに交流、が難しいんだけれども。

 交流。貴族連中との顔合わせ。
 公主側の賓客、叙勲者を貴族達に紹介するのが目的。
 こいつら私の仲間ね、という公主の認識確認でもある。
 しかし、当事者に委ねていても話が進まない。

 神人チームは腰が引けていて、神人同士集まっている。
 貴族連中も遠巻きに、珍獣でも見るかの様な視線。

 読心魔法なんぞ使わなくても察しが付く。
 対立派は下賤に関わりたくも無いだろうし。
 公主派も、どう声を掛けて良いやら。
 冒険者なんて、言い換えれば無頼の何でも屋。
 ちょっと怖いというのが本音だろう。

「あっ、教官殿!」

 貴族の女子グループから声を掛けられた。
 前に面倒を見た士官候補生、いや、もう士官なのか。
 今や捨て石ではなく、近衛隊麾下に組み込まれた様だ。
 幾らか部下を預かる身、役職名は十人長だそうで。
 まずは昇進したと、祝辞の1つも送ろう。

「子供さん達は来てないんですか?」
「結構上手くなったんですよ。ビックリさせたいなー」

 子供達が構えだの何だの指導したんだった。
 マリナとかも上手くなってるから、逆に驚くかも知れん。

「この男が子供使い!」

 唐突に、大柄な女性が寄って来てビンタ。
 しかしビンタを食らう前に、別の男が止めに入った。

「ヴァイゲル伯爵! 邪魔をしないで!」
「落ち着け。この人は違う……違うんだ」

 見た顔の男……そうだ、アルノーの親父さんだ。
 以前も身なりは良いと思ったが、貴族だったのか。
 伯爵。ルイトポルト・ヨーゼフ・ヴァイゲル。

 ……息子さんの事は、残念だった。

「いや、あの時は取り乱していてすまない」
「ちょっと、どういう事なの? 説明して」

 憤慨しているビンタのご婦人はどちら様か。
 ドミニク・マルスリーヌ・バルビエ伯爵夫人だと。
 バルビエ夫人は、子供を利用したビジネスを許せない。
 その感性自体は至極真っ当なものに思える。
 俺1人殴って戦争が無くなるとも思えないけれど。

「夫人、彼が『黒鷲』なんだ。子供達の支援を」
「子供使いはみんな同じよ。子供達を戦争に出して」

 俺は子供達を食い物にしているつもりは無いが。
 しかし、子供達を戦場に出しているのは否定出来ない。
 自己鍛錬の為について来ている子は例外としても。
 そうでない子には、確かに苦労を掛けているだろう。

 それで……伯爵夫人は、何をどうしてくれる。

『貧しい子供』と『戦場』が近くにある。
 戦場にでも出ないと食っていけない子供が居る。
 そこで子供を戦争に出さない為には、何が要る。
 子供を貧しくなくするか、戦争自体を無くすか。

 それで、伯爵夫人は何をどうしてくれると?

「食べ物でも何でも配れば良いじゃない。
 戦いの外で面倒を見てやれば良いのよ。
 貴方、お金は持っているんでしょう?」

「そうだよ、夫人。だから、それをこの人は実行した。
 魔女の炊き出し騒動を聞いていないのか?
 1つでも彼は行動した。しかし貴女はまだ口だけだ」

 ヴァイゲル伯爵に糾弾されて。
 バルビエ夫人は悔しげに引き下がって行った。

 彼女は分かっていないんだ、と伯爵だが。
 しかし子供の為に憤れる人間、という意味において。
 バルビエ夫人もまた、敵ではないのかも知れない。

 そんなやり取りもキッカケになったのか。
 他にも何人かに声を掛けられた。
 女士官達の実家より、両親やらが数組。
 中には治療した侍女ケーテやアントニーナの主も居た。

 宮廷なんて縁遠い物だと思っていたが。
 こうして見ると案外繋がりがある。
 この人脈もまた、俺が積み重ねた物か。

 通信が数件。眠い子が出ている。
 冒険の疲れがまだ残っているのだろう。
 面通しもボチボチだし、引き上げさせて貰おう。



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