黒鷲の旅団
17日目(4)異世界養父と辻斬り未遂
「ふん、なるほど。尋ね人か……」
冒険者ギルドで神人の剣士キャスティーナに出会った。
フィリッパの両親の手配書を見せると、受け取ってくれた。
公主に頂いた領地に張り出してくれるという。
「しかし君もお堅いねえ。
女の子ぞろぞろ引き連れて、揃って清いお付き合いだと。
可愛いんだろう? 1人や2人、手を出したりとか」
恩を売って関係を迫るなんて、フェアじゃないだろう。
子供達も慕ってくれてはいるが、少し冷静でない気もする。
そうだ、うちの子達にも疑う事を教えておかないと。
『とてもタイミングよく助けに来た王子様』は疑わしい。
例えばチンピラに絡まれた所を助けてくれた。
チンピラを陰で雇って、けし掛けたんじゃないのか。
何で都合よく助けに来た。助けに来られた。
世の中、偶然よりも必然の方が頻度が高い。
大体……自分を親の立場に置き換えてみろよ。
例えば命の恩人だからって、大事な娘を簡単に嫁にやるか?
感謝はするが、それとこれとは別だ。
下心があって助けたんじゃなきゃ、ありがとうで良い。
それだけ?とか抜かすなら、金品で十分だ。
可愛い女の子を助けてワンチャンあるかもって?
異世界勇者よ、寝ぼけるな。うちの娘は嫁にはやらん。
「ぶふっ! ふひゃはは!
いや、すまん。なるほど。失礼な事を言ったか。
どうやら君は思っていた以上に『お父さん』らしい」
膝を叩いて笑うキャスティーナ。
まあ、親代わりが務まれば良いと思っているよ。
本当の親には敵わないだろうけれども。
さて、協力依頼ついでに情報交換。
新しい剣技は無いかとキャスティーナ。
暗黒剣や音速剣は彼女に教えて貰ったんだった。
俺が派生させた技を見て貰う。
燕返しは持っているが、横一文字は未所持だと。
伝授。スキルレベルが30必要。魔法と同じだ。
幸い残存スキルポイントは潤沢。
特許魔法の伝承からも、売上と併せて得られている。
スキルポイントを配分。
ギルドの裏手で技を伝授。伝授していると、
「あれ、一昨日のオッサンじゃん」
「え、剣も使えるんだ?」
タマゴ泥棒一味。じゃなかった。
冒険者スティグマイト一行。
タマゴは無事に納品出来たらしい。
そうなると、回収して返すのは最早叶わんか。
今頃は、どこぞの貴族の腹の中だろう。
「キャスティーナ様! 御越しでしたとは」
膝を付くのは女サムライのエトワール。
そんなせんでも良いよと手を振るキャスティーナ。
2人は師弟関係にあるのか?
逆にエトワールからは、俺も弟子かと聞く。
「教えた事もあるが、今は私が教わっている。
真空斬りではなく横一文字だと。
放てる姿勢が限定されるが、速い」
言いながらキャスティーナ、構え。
左上から右に払って真空斬りとやら。
すぐに納刀して横一文字を繋ぐ。
横一文字の衝撃波が真空斬りに追いついた?
練習用の的をX字に斬って見せる。
……こっわ。何その技。
「ふふん、今まさに派生した。『虚空連斬』だと。
それぞれ単発より威力がある様だ。悪くないな」
即興で新技を作っちゃうのか。
俺だって似た様な物だろうと言うキャスティーナだが。
体捌きは小理屈の組み合わせみたいには行かないからな。
「ふっふ。まあ、武芸者も頭は使わんと。
このエトワールも鍛錬バカ。いわゆる脳筋でな。
鍛錬不足のインテリ兼業剣士と、どちらが上やら」
少し遠回しに煽るキャスティーナ。
ハッと顔を上げて刀に手を掛けるエトワール。
いや、待て待て待て。手合わせとかしないぞ。
「問答無用! いざ尋常に、勝負!」
刀を抜いて迫って来るエトワール。
ホントに脳筋か。人の話を聞きやしない。
エトワール、レベル91。俺、レベル39だ。
剣だけで斬り合ったら、まず勝負にならないだろうし。
だからって、魔法アリだとか言われても。
幾ら裂空スキルで真っ二つだとしてもだ。
その真っ二つになった後はどこへ飛んで行くんだ。
街中で燃料気化爆発魔法なんて使えんぞ。
あんたの勝ち。あんたの勝ちだから。
言っても聞かない。刀を振り回す。
冷静じゃないな。分かっているのか。
ここは道場じゃないし、刀は真剣だぞ。
「逃げるか、臆病者! ぶふっ!?」
設置、時限発動。温泉魔法。
間欠泉をモロに食らって、エトワールは引っ繰り返る。
その隙をついて俺は逃げ出した。
通りへ出て振り返り……追っては来ないな。
キャスティーナがエトワールの頭を引っぱたいている。
通信魔法からキャスティーナ陳謝。
2度目が無いのなら、憲兵には通報しない。
『けっ!? あ、あ……私……?』
『今頃気付いたのか、馬鹿者。
同意も無く斬り掛かったら、試合じゃなくて犯罪だ。
……煽った私も悪かったがな』
どうやら話は落ち着いたらしい。
弟子の教育はしっかり頼むよ。
俺は魔女協会に戻ろう。
子供達と昼食が待っている。
と、歩き出して気が付いた。
メイドさんの募集を出し損ねた。
今更、戻る気にもなれないな。
今日の所は出直そう。
ひとまずラケルの世話は、魔女さん達に依頼する。
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