黒鷲の旅団 >17日目(5)少女騎兵隊、準備中


黒鷲の旅団
17日目(5)少女騎兵隊、準備中

「はいやーっ!」

 手綱を握り、馬を飛ばすレーネ。カッコいい。
 乗馬にも適性があるとは器用な娘だ。

 昼食後、首都の北門を抜けて草原地帯へ。
 子供達と乗馬の練習中だ。
 イェルマイン達も指導を手伝ってくれている。

「あんまりグイグイしなくて大丈夫だよ。
 背中ピンとして。お馬さんに任せて。
 言う事を聞かせるんじゃなくて、お願いしますだよ」

 レーネに次いで飲み込みが早いのはマリナ。
 小さい頃、父親に乗せて貰った事があるそうだ。

 手綱グイグイは、負けん気の強いユッタやマルカだな。
 大人しげなノイエやテルーザの方が習得が早いか。
 落ち着いて。焦らなくて良いから。

「こうだぜ、嬢ちゃん。
 お馬さんお願いしますよーっと」

 竜騎兵イェルマイン、お手本。
 手綱を1回打って、後は馬任せに。
 側面に銃を向けながら流して見せる。
 草原に点在させた木の的を次々に射撃。
 ユッタの素直な拍手に顔が緩んでいる。

「やるじゃん、オッサン。
 エロいだけじゃないんだなー」

 マルカも親指を立ててニカッと笑う。
 イェロマインおじさん、苦笑い。

「パパさんは? パパさんはっ?」

 カリマが急かす。パパ、俺か。俺も見せろと。
 イェルマインほど上手じゃないと思うんだが。
 騎乗。愛馬は黒い軍馬。名前はまだ無い。
 馬、頼んだよ。流しで前進して貰う。

 射撃。拳銃でバースト撃ち。的2つに3連射ずつ。
 遠目の的に長弓。遠射。位置を変えて同じ的を射る。
 投擲はフラメア。馬に後足で立ち上がって貰う。
 前足を降ろす反動に合わせて投射。命中。雷魔法で追撃。

「やった! 全部当たりだ!」
「やー、流石は旦那。プレイヤースキルが違う」

 褒めちぎるマルカとイェルマイン。
 まだまだ。俺も慢心している場合じゃない。

 振り返ればフェドラの騎射。
 俺の当てた矢に継矢を試みている。
 距離200m超。1射。2射。こっち向いて手振り。3射。
 継矢にはなっていないが、矢自体には全部当てている。
 余計なアクション挟んでアレだ。

「フェド姉、狙ってる時の目がジェマみたい」
「そうだにゃあ。細くなるにゃ」

 ツェンタとジェマ。そうなのか?
 フェドラは普段、にこにこと細目がち。
 あまり眼球をじっくり見る機会が無かったな。

「や、やっと、少し……どわっちゃ!」

 落馬したのはアンヌ。大丈夫か。
 お前さんも手綱グイグイチームだな。
 魔人の怪力で操られ、馬がちょっとバテている。

 アンヌに聞く。魔人の目、瞳孔って?

「ああー、細くなる奴? 種族に寄るわよ。
 魔人と一言で言っても色々居るの。
 それより、指導? こっちも見て欲しいんだけど」

 アンヌの馬を活力魔法で補助。
 乗り方はイェルマインに見て貰う。
 置いてったりしないから、段々に慣らしてくれ。
 他に、乗れていない子は居るか?

 サンドラは乗り降りだけ苦手。
 乗ってしまえば、意外と大丈夫そうだ。
 ひょいっと乗るが暴れられるフレヤ。
 急に乗るからかな。馬に声を掛けてやったらどうか。
 ユッタ、マルカ……大丈夫だ。慣れて来た。

「ダメだ、勝てねぇ〜」

 教えに来た騎兵先輩、エリック達。
 レーネにぶっちぎられてヘトヘト顔。
 馬達も息を切らせている。走り過ぎかな。
 通信。レーネ、もう少ししたら戻っておいで。

「ただいま戻りましたっ!」

 早い。呼んだ途端すぐに来た。
 とてもよく懐いているのは、果たして馬かレーネなのか。

 さて、一応みんな乗れる様になったかな。
 アンヌも少しギクシャクしているが、何とか笑顔。
 花人騎兵隊の習熟は順調。
 リザードマン達もどうにか馬車を動かせると。

 一旦、騎兵の運用について確認しよう。
 戦場の華、騎馬突撃は、当面忘れて良い。
 勿論、強行突破の必要に迫られるかも知れんけど。
 恒常的に決死行をするつもりは無い。

 竜騎兵の運用として、カラコロールという戦術があるが。
 ハッキリ言って、あれは愚策だ。いや、策ですら無い。

 騎馬で敵前まで前進し、射撃。
 然る後、半回転して後退するのがカラコロール。
 この反転後退が無防備で、背後から射撃をモロに食らう。

 結局の所、竜騎兵は突破力に乏しい。
 カラコロールは苦し紛れ。
 突破出来ずに逃げ帰ったに過ぎない。

 では、どうするべきか。

 支援射撃を受け、抜刀突撃するのは前衛騎兵隊。
 俺達の主力は後衛騎兵隊。竜騎兵、弩騎兵、弓騎兵だ。
 機動力を活かし、射程外を逃げ回りつつの狙撃。
 あるいは敵の射線を避け、死角へ回り込んで包囲射撃。
 神出鬼没の狙撃手か、陸を行く艦隊の如くに戦おう。

 艦隊。お船。見た事が無い子も少なくない様子。
 そうだ、そのうち海も見に行こうか。

 午後2時の鐘が鳴っている。
 ぼちぼち授業チームを迎えに行こう。



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