黒鷲の旅団 >17日目(6)魔女の戒律と神人爺さん


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17日目(6)魔女の戒律と神人爺さん

「ありがとうございました。
 貴重なお話を聞かせて頂いて」

 マイナさん、ぺこりん。魔女協会受付にて。
 授業が終わって出て来る所の様だ。
 今日の講師は大魔女レイヴンヒルトか。

「あんたは真面目な良い娘だし、金だって頂いてるからね。
 礼というなら、あんたがハインちゃんに返してやりな。
 役に立って、こっちの評価も上がって、また金が来る。
 縁は広がるだけじゃあない。巡って戻って強くもなる」

 気の良いレイヴン婆さん。
 マイナさんを随分と気に掛けてくれた様だ。
 それとも、いよいよ本格的に魔女に育てる気か。
 魔法の他に、魔女の心得なんかも授けてくれたらしい。

 魔法授業はジルケが2級。
 マイナさんとフィリッパら5人、魔物従者隊9人が初級。
 魔法習得の儀式は、何を覚えられただろうか。

 ハーピーは魔力適正が低く、治癒系には手が回らず。
 まあ、通信・転移魔法を持ってくれただけ良しとしよう。

 コロボックルは錬成系統。アラクネさんは補助系にも興味。
 フィリッパは両親探しもあって、探知系を重視。
 ローダは土、テクラは火と、得意属性の攻撃魔法も所持。
 ヘルヴィ・ヘレヴィは基礎レベルが高いお陰で、色々。

 成果としては充分だろう。
 授業の方は楽しめたかな?

「魔法、強い。便利。でも、気を付ける必要あるな」
「そうね、ちょっと考えさせられたわ」

 野性味溢れるラミアさん達が真面目ぶる。
 快楽主義めいたアラクネさんまで神妙な顔。
 一体、何の話を聞いたんだ?

 口を揃えて言うには『魔女は恋をしてはいけない』だと。
 魔女の間にそんな格言があるらしい。

 魔女の得意魔法。幻惑や魅了、夢操、自白、洗脳魔法。
 そういった心を操る魔法を、自分の恋に使ってはならない。
 人の心を魔法で無理矢理縛ってしまったのなら。
 それはもう魔女じゃない。心を操る怪物だ。

 要は、恋に魔法を、魔女である事を持ち込むなと。
 恋をするなら対等に、魔法なんか無しで勝負をしろと。
 恋をする時は、自分が魔女である事を忘れろという事だ。
 魔法の悪用を戒める口伝の様な物か。

 さて、移動準備。ジルケ隊とマイナさんは騎乗。
 先に覚えたユッタ達がアドバイスに掛かる。

 ラミアさん、アラクネさんは馬車へ。
 身体が大きいので馬単体には乗れない。
 ハーピーさん達は戦闘時には飛行。
 普段は幌の上で待機して……

「嫌じゃー! 嫌じゃ嫌じゃー!」
「お止しよ、見っともない」

 ふと見ると、受付で誰か揉めている。
 見知らぬ爺さんと、細工師のミラベル婆さん?

 ミラベル婆さんは引退した魔女だそうで。
 時々、顔を見せに来る事があるらしい。

 で、そっちの爺さんはどうした。
 温泉魔法を買いに来た?
 しかし、魔女協会。女魔法使いの為の組織。
 男に魔法を売ったという実績を作りたくない。
 爺さんは売って貰えず、駄々をこねている。

 仕方ないな。今回は俺が伝授する。
 伝承時の取り分相当は、支援金として魔女協会に渡そう。

 100万受け取って、魔女協会に70万。
 爺さんに温泉魔法を伝授する。

「すまんのう、お若いの。
 これで理想の庭造りが進むわい。
 これはお礼じゃ。役に立つかは分からんが。
 良かったら使っておくれ」

 爺さん、俺に指南書っぽい本を1冊くれた。
 開いてみて……何、魔法の製本手引き?
 製紙、裁断、活版印刷、製本魔法だと。

 爺さんが自分で作ったんだろうか。
 記録や転写の魔法から派生、体系化している。

 後半には技術スキルの記載もあり。
 製紙、裁断、活版印刷、製本スキル。
 技術スキルはレベルを上げると知識も身に付く。
 工程を理解するのに必要という事か。

 しかし活版印刷。この文化レベルじゃ最先端だな。
 爺さん、これ……んん?
 顔を上げるともう、爺さんの姿は無かった。
 一体、何者だったんだ?

「神人、大魔道士マスターメイガス。
 禁呪級攻撃魔法、流星魔法の持ち主さ。
 今じゃ、ただの庭いじりが好きな爺さんだがね」

 と、ミラベル婆さん曰くだが……神人?
 神人は年を取らない、と思っていたんだが。
 年を取らない連中は長命種設定なのか。
 それともメイガス爺さんは最初から爺さんだったのか。

 3人の付き合いは長いのか?
 昔はイケメンで、ミラベルとレイヴンで奪い合ったという。
 魅了を掛け過ぎて、爺さんが一時頭がおかしくなったとか。
 あ、恋の話って経験談も込みか?

 あたしらも美人だったんだよ、とレイヴン婆さん。
 声は今だって可愛いよ。婆さんズ、大爆笑。

 まあ、年齢が何をするワケで無し。
 禁呪級攻撃魔法は脅威だが、爺さんは温厚そうだった。
 とりあえずは害が無いと思っておこう。

 さて、俺達もまた出発しないと。
 ハミルトンの店でコロボックルさんを預けて。
 そしたらまた北門を潜ろう。



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