黒鷲の旅団 >17日目(9)ぼろぼろとぐるぐる


黒鷲の旅団
17日目(9)ぼろぼろとぐるぐる

「なんか、ここ……大丈夫かな?」

 開拓村……らしき場所に到着。
 ティルアが首を傾げるが、無理もない。
 家や畑が散在しているものの、荒れ放題だった。
 徘徊するモンスターに対抗出来ていないのか。

「おやまあ、先生じゃないかね!」
「やあー、医者先生。何だって、こんな所に」

 声を掛けて来たのは、ルディガーとジネット。
 炊き出しの時の患者で、元は物乞いだった。
 今は農民に見えるが……転機があったかな。

 話を聞くと、どうやら公主の難民対策の一環だという。
 難民や浮浪者を空いている土地に派遣して、農地開発。
 難民も自給自足が出来る様になれば、支援が要らなくなる。
 軌道に乗れば税収も期待できるワケだ。

 ただ、モンスターの掃除が上手く行っていない。
 例えば人食い鬼……鬼? ああ、オーガ。
 毛モジャで分かり難かったが、ツノがあったかな。
 奴らの一団が襲って来て、村の守り手が大勢食われたらしい。

 冒険者は、あまり居付いていない様子。
 ルーマニア地元冒険者は、北のシュテルンに良い思いが無い。
 イタリア本国の冒険者は、故郷側、西街道の方が大事。
 名うての冒険者達は、魔王軍対策で南が気になるか。

 俺達がここを訪れたのは、何の幸いやら。
 休憩しつつ周辺警戒。公主に連絡を取って援軍を頼む。
 後続が来る目途が立ったら進軍を再開しよう。

 休憩中の分担。サンドラは皆の調子を確認。
 各隊衛生担当に、不調者が居ないか聞いて回ってくれ。
 衛生担当が居ない第2銃士隊、花人隊は隊長で良い。

 マイナさんはアンヌと周辺警戒。警戒の練習だ。
 アンヌ先生、レクチャーをお願いします。

「ま、まま、任すててて!」
「行って参ります!」

 それぞれ意気揚々だが、この分担は苦し紛れだな。

 サンドラは戦闘でイマイチ活躍出来ていない。
 馬に乗りながらの魔法発動が軌道に乗っていない様子。
 何か役に立ちたそうだったので、仕事を振ったのだが……
 戦闘でどうするかも考えておかないと。

 マイナさんは、一部の子供達と折り合いがついていない。
 元々懐いていたマルカやカリマは良いのだが。
 レーネとギクシャク。イェンナやエメリナは素っ気無い。
 フレヤやヘルヘレは自分のが序列が上だと言わんばかり。
 フェドラさえ、面倒見役を奪い取って行く様な素振り。

 交流を深める切っ掛けがあると良いんだが。
 しかし一方で、ただ引き合わせてもギスギスしてしまう。

 後から入って来た大人の女。
 俺を取られる、なんて考えているんだろうか。
 父さんが急に新しい母さんを連れて来た、みたいな。
 ちょっと結論を急ぎ過ぎじゃ無かろうか。

 俺の母親は、暴力親父に俺と兄姉を押し付けて蒸発した。
 その俺から見て、マイナさんの自己犠牲は尊過ぎる。
 到底、変な気なんか起こせない。
 勿論幸せになって欲しいが、俺が幸せに出来るのかは疑問だ。

 まあ、俺の嫁だの所帯だのは置いといて。
 他に不満なのは、自分を目下に見るのが面白くない、かな。
 つい言い聞かせる様な物言いになってしまうマイナさん。
 しかし子供達だって、レベルや戦闘経験等で勝っている。
 マイナさんも、もっと実力を示せると良いんだが。

 ログを見る限り、マイナさんの戦績はやや消極的。
 元聖職者、殺生にまだ抵抗があるのだろう。
 タールに火をつけて敵を丸焼き……難しいかな。

 課題はサンドラ&マイナの戦績アップ。
 俺も騎兵の運用には不慣れ。何が出来るか把握しないと。

「「「せーのっ!」」」

 ドスン。何か凄い音がした。
 今の声はマリナ、ルーシャ、ローダ。
 振り返ると、3人の前に石造りの柱が転がっている。

 ……ん、石柱魔法?

 これはマグダレーナから聞いた話になるが。
 石柱魔法の要素は土、防御、錬成魔法。
 ローダの土、マリナの防御、ルーシャの錬成か。
 息を合わせて発動する事で、複合魔法を再現した様だ。

 続いてはマリナの強化魔法。3人で石柱を転がして行く。
 しかし重くて難航。石柱に浮遊魔法で援護しよう。

「あっ、父上……じゃなくて、あの」

 ルーシャ、いいよ父上でも。
 マルカのオヤジ呼びに倣って父上。
 好きに呼んでくれて良い。

 友好的に違いは無いが、呼び方と距離感。
 子供達のそれは一様ではない。

 カリマやマリナは俺を『パパさん』と呼ぶ。
 実の親は『父様』『お父さん』。区別している。

 ユッタとサンドラの『お兄さん』。
 多分、子供に見られたくない、せめてもの背伸び。

 イェンナは未だに『おっちゃん』と呼ぶ。
 この辺は、距離を置いていたりするんだろうか。

 ティルアも『おっちゃん』と呼ぶが……
 時々『お父ちゃん』と言いかけて止めている。
 彼女の場合は照れ臭いのかも知れない。

 子供達それぞれに距離を測っている。
 それを一緒くたに統制するのは難しいだろう。
 あまり押さえつけたくも無いな。
 ただ、仲良くあってくれたら。

 しかし、仲良くやっていく為に……
 まず、ぞれぞれが今、どう思っているのか。
 意識調査みたいなのも必要だろうか。

 さて、転がした石柱だが。
 なるほど、村の周りに防壁を作りたい様だ。
 石柱を並べて、マグダレーナが改めて錬成魔法。
 石柱を元に再錬成して、石壁を作っていく。
 小一時間もあれば、村の居住区ぐらいは囲めるだろう。

 公主に連絡。開拓村の救援要請。
 訓練中の騎士団を一部、こちらに向けてくれる様だ。
 そっちが追い付いて来たら、また行軍を再開しよう。

 それまでに、村の守り。外壁の構築を進める。
 外壁ぐるぐる。思考もぐるぐる。
 ボロい村は囲めば良いが、俺達の方はどうするか。



前へ黒鷲の旅団トップへ次へ