黒鷲の旅団 >17日目(11)夕闇カラコロール


黒鷲の旅団
17日目(11)夕闇カラコロール

「カンショーチタイって何だっけ?」

 ツェンタの問い。緩衝地帯。
 仲の悪い国や軍隊の間にある、どちらの物でもない中立地帯。
 戦いに疲れて休戦する時なんかに、両軍の間に作ったりする。
 これが無いと、仲が悪いまま隣合わせだ。
 何かと小競り合いが起こり易いからな。

 俺達が今、馬を走らせているのも、その緩衝地帯に当たる。
 首都ブカレストから北、プロイエシュティに開拓地帯。
 更に北西はバイコイ、クンピナまで行って躊躇。
 俺達は一時、進軍を停止した。

 日が落ちて来ている。
 探知魔法に感。潜伏するモンスターが多い様だ。
 無理に突っ切ると損害が出る恐れがある。
 森に入らず、ここらで野営に掛かるべきだろうか。

「やあー、今から峠越えは止した方が良い」

 ふと、馬車の一団から声を掛けられた。
 地元民? トランシルヴァニアから来た隊商だと。
 ブカレストに商売に行った帰りだという。
 この辺りは、やはり危険なのか。

「昔はそうでもなかったんだがね。
 最近はどうも、闇の気配が濃い様だ。
 オーガにトロール、キマイラ、グリフィン。
 果ては吸血鬼を見た、なんて話もあってね」

「え、あ……レーネちゃんっ!?」

 フェドラの声に振り返る。
 嘶き。蹄の音。森へ向かって突っ込んで行くレーネ。
 吸血鬼と聞いて、確かめずには居られなくなったのか。
 家族かも知れないが、赤の他人、敵かも分からんのに。

 慌てて追って行くフェドラ、マルカ、ペトリナ。
 他の子はまだ戸惑っている。そのまま待て。
 全員で追うな。選抜メンバーを組む。
 アンヌ、フレヤ、ジェマ、俺と来い。

 ユッタ、マリナ、ジルケ、残りの隊を纏めて待機。
 ここらで設営に取り掛かってくれ。
 サンドラは何かあったら通信を頼む。

 馬車を内側へ。花人隊、周辺警戒。
 モンスターの先導者が来ないとも限らん。
 ジュス姉さんを切り札に残す。

 加速。加速と防御魔法。
 レーネを追って森の中へ。
 途中、追い切れなかったマルカ、ペトリナと合流。
 フェドラはまだ追い縋っているのか。

 ふと、暗い森の上に灯りが広がる。
 ユッタ達の援護射撃、照明魔法付与の矢弾か。
 辛うじてフェドラの後ろ姿が見えた。
 探知。左右から赤い点が複数。
 迎撃したいがレーネを見失うワケにもいかん。

 馬を走らせながら応戦する。
 左側面にオーガ4。頭部へ拳銃、バースト撃ち。
 先頭の1体が倒れるが、すぐに後続。
 牽制、マルカの火炎ブレス。
 フレヤの強射、ジェマ複数射。長弓で追撃。

 ふと、戦闘の音で我に返ったか。
 探知反応内、青反応。先を行くレーネの足が止まった。
 フェドラ、ペトリナが合流。青い光点が3つ戻って来る。

 しかし、まだ安心は出来ない。

 最後のオーガをフラメア投擲で刺殺して。
 次は右からトロール、反応が10以上。
 暗い森の中、モンスター達の巣窟。
 どうにも注意を引いているな。

 前方に氷花魔法フロストガーデン。
 氷の茨を発生させて進路を阻む。
 先頭数匹が負傷するも、残りは迂回して迫る。

 迂回して来るが、故に動きが限定される。
 良い的だ。氷花の陰から出て来る所を狙う。
 軽機関銃掃射。粉砕魔法付与のCISウルティマックス100。
 生き残りが引っ込むが、これがまた隙だ。
 次はツァスタバM93。対物小銃で氷花ごと撃ち抜く。

 不意に反対側。マルカの火炎ブレスが闇を照らした。
 新手が来ているか。応戦を始めている。

 振り返るや、オーガ。
 その側頭部に飛び掛かるのはレーネか。
 オーガの頭をサーベルで横から串刺しに。
 跳躍してまた馬上に戻る。

「すみません、取り乱しました!」

 レーネ、目が赤く光る興奮状態。
 それでも正気は取り戻したか。
 話は後だ。まずは戻ろう。

 フレヤ、フェドラを左翼。レーネ、マルカを右翼。
 ジェマ、ペトリナ、後方。アンヌには最後尾を任せる。
 反転後退。鋒矢陣形で強行突破を図る。

 ふと、銀色の毛並みが視界に入った。
 フレヤが人狼の力に覚醒した様子。
 手足が狼の体毛に覆われている。
 竜化したマルカに負けず劣らずの強射。
 目も光り出して、暗闇にも強そうだ。

 オーガを撃ち抜き、トロールを斬り伏せて。
 ゴブリンも散見するが、逃げ惑うだけだ。
 前方からも銃声。援護、牽制射撃。
 追って来ていた敵反応が遠退いて行く。
 一息。どうにか抜けただろう。

 レーネ、言わなきゃならん事は色々あるが。
 まずは無事で良かったよ。



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