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17日目(12)お帰り弩兵隊長

「すみません……緑の光点が、あの。
 森の方に、友軍の反応が見えたので」

 野営地に戻り、馬と子供達を休ませながら。
 1人で飛び出してしまったレーネに話を聞いた。

 探知魔法の効果を共有している結果。
 レーネは森の中に友軍反応を見たという。
 なまじ探知範囲が広いのも考え物だな。

 確かに友軍、レーネの身内が居たとしたら。
 どうしているのか気になる所ではある。

 だが、部隊を放り出して隊長が突貫するのはマズイ。
 今回は副長のペトリナまでついて行ってしまった。
 目上は部下の命を預かっていると、忘れてはならない。

「はい……すみません。
 そうです。そうでした。私は隊長なのに。
 ごめんね……ごめんね、ペトちゃん……」

 言いながらレーネ、ペトリナをハグ。頬をすりすり。
 そういうのがペトリナのアレな感情を煽っている様な。
 やってる方は、単に可愛がっているだけかも知れんけれど。

 まあ、ともあれ。理性だけで行動出来ないのも人類だ。
 戦時でなし。目立った損害も無い。
 問責はともかく懲罰は無しとしておこう。

「いえ、そんな……どんな罰もお受けします。
 おじさま、叱って。愚かなレーネを叱って下さい」

 罰を望むレーネだが、ダメだ。
 反省の途中で罰を与えても、対策意識が疎かになる。
 既に後ろめたく思っているのが、充分な罰ではないか。

 一度失敗したからと言って、悪い子だなんて言わない。
 レーネは大人びているが、俺から見たらまだ子供だ。
 子供なのだから、いや、大人だって失敗する。

 勿論、失敗しない様に気を付けるけれども。
 失敗しないを前提にすると、失敗した時に崩れる。
 失敗しないのが大人なんじゃない。
 失敗しても持ち直せるのが正しい大人なんだろう。

 失敗は失敗だった。次はどうするか。
 対策として『次は気を付ける』では危う過ぎる。
 人の衝動は簡単には止められない。

 家族に会いたい気持ちを抑えられない。
 ならば、追っても大丈夫な様に対策を練ろう。
 索敵。状況確認。行くか行かないかの判断。
 指揮の引継ぎ。あるいは全員で行くのか。
 いや、それ以前に、まず声を上げる。相談する。
 やる事は色々あるハズだ。

 と、部隊の瓦解はそれで防ぐとして。
 もう1つ、しなきゃならん話がある。

 前提として、レーネはどうしたい?
 家族、吸血鬼の氏族と合流して、その後。
 また吸血鬼達との生活に戻るのかどうか。

 ハンターに故郷を焼き出されたと聞いている。
 俺も出来る限りの支援はするけれども。
 家族は側にいて欲しいというかも知れない。
 そんな時、お前さんならどうする。
 家族と行きたいか、俺達と旅を続けたいか。

「あ、あ……私、外されて、しまう……?」

 不安げな、悲しげな顔になるレーネ。
 そうじゃない。考え過ぎだ。
 どういう方向に持って行くのか、纏めたい。
 急に聞かれても困るとは思うけれども。
 家族が近くにいる。遠からず決めなきゃならん。

「おじさまは、どうしたら良いと思いますか?
 拾って頂いた命です。仰る通りにします。
 邪魔だと仰るなら、私は……」

 俺は……いや、レーネの意志が一番だと思うが。
 迷いがあるなら、あくまで参考までにな。

 レーネが居てくれた方が助かる、と思っている。
 戦闘面で、指揮能力で助けてくれている。
 あまり手が掛からず……今日はまあ、例外だな。
 皆のお姉さんをしてくれる1人。
 お前さんが居てくれて、いつも助かってるよ。

 レーネはぽろぽろと泣き出して。
 しかし笑顔になって、はにかんで。
 クールなダンピール少女の百面相。

 何より聞きたかった言葉、か。
 必要だと言って欲しかったのだろう。

 本当の家族の様には行かないかも知れないが。
 それでも一緒に居たいと思ってくれるなら、居ておくれ。
 まだまだ助けて欲しい。まだまだ教えたい事もある。

 レーネは少し黙っていたが、言葉を纏めていた様だ。
 意を決し、涙を拭いて顔を上げ、宣言する。

「私は……家族に会って無事を確認して。
 それから……それから、ここに戻って来ます。
 ここにはおじさまや、私を求める仲間達が居て。
 そして私自身が、ここに居たいから」

「やった! 行かないってさ!」
「イェー!」「お帰りー!」

 駆け寄って来るのは弩兵隊員達。
 ペトリナとティルア、ツェンタ、アイリス、テルーザ。
 銃士隊、弓兵隊も集まって来る。
 見守っていたそれぞれに笑顔が浮かぶ。
 レーネが実家に帰るのではと、心配していたのだろう。

 レーネの居場所は、まだ俺達の輪の中で。
 だから、お帰り、だな。

 情と義務感の両面から、レーネの決意が固まって。
 それじゃあ、俺も頑張らないと。
 ご家族が反対する場合は説得する。
 同行の許可を取り付けないといかん。

 先の戦闘で、銃声を聞いたかも知れない。
 偵察の1人も寄越すかも分からん。
 接触して来るかどうか、まずは一晩待ってみよう。



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