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17日目(14)ヴァンパイア父さんの再会

「うおおおおおお、レーネ! おおお、本当にレーネなのか!
 ふおおおおん! レェェェエエエエネエエエエエエエエエ!」

 ………………うん、長い。

 号泣しているのはレーネの父、
 フランツ・ゲーアハルト・ロンネフェルト。
 娘をハグしてボロ泣き。
 イケメンダンディ親父が涙と鼻汁で台無しになっている。
 伯爵の威厳よりも父親の感情が先立ってるな。

「あ、あの、父上、鬱陶……じゃなくって。
 ちょっと落ち着いて。落ち着いて下さいって」

 戸惑うレーネ。ちょっと引いているか。
 人目が多いので照れもあるのだろう。
 レーネと父の再会を、他の子供達が生暖かく見守っている。

「あの運命の日、旦那様はずっと後悔しておいででした。
 一族の安全を優先している間に、お嬢様と逸れてしまわれた。
 しかして我らも追われる身。自由に探すワケにも行かず。
 各地を放浪する折、女の子ばかりの従者隊の噂を聞きましてな。
 買われて行ったお嬢様かどうか、まずは確かめねばと。
 こう、我々が接触の機会を窺っていたワケです」

 説明してくれるのは初老の男性の吸血鬼、クラウディオ。
 長命種の吸血鬼で年老いて見える。相応の年長者なのだろう。

 話し合いの約束を取り付けて、吸血鬼3人にお帰り頂いて。
 戻って来た時には30人強になっていた。

 レベルは70〜80が27人。100少々が、4人か。
 クラウディオ氏が300ちょい。
 あとロンネフェルト伯爵、530と。

 もしも、この手勢に雪崩れ込まれていたのなら。
 魔人姉妹が2人でも、同時に戦ったら捌き切れまい。
 ちょっとじゃ済まない損害が出ていただろう。
 話し合いに持ち込めて良かった。

 で、その話し合いだが……進まないな。

 クラウディオ氏、執事の様な役割だという。
 旦那様が落ち着くまで、一旦彼に話を通す。
 提案と状況説明をしたい。

 状況。レーネを攫ったのは盗賊の集団だった。
 恐らくは人買いに売り渡すつもりだったのだろう。
 しかし、別件から盗賊団は討伐された。
 討伐作戦の折、俺達でレーネを保護した。

「そうでしたか。まずは感謝を。
 それで、お嬢様は引き渡して貰えるんでしょうな?」

 そこで1つ交渉したい、と切り出して。
 吸血鬼達の目が鋭く光る。
 そう構えないで欲しいんだが。

 彼女の身柄を拘束しているつもりは無い。
 ただ、引き続き、お嬢様の力を借りたいと思っている。
 交換条件として幾つか提供できる物がある。

 大事な教え子の家族に、逃亡生活を続けさせるのは忍びない。
 住居を用意するので、移り住んで貰えないか。
 他の住人に危害を加えなければ、細かい事は言わない。

 あと、吸血は不可避なのだろうか。
 クラウディオ氏曰く、吸血鬼の性質はアンデッドに近い。
 生体エネルギーを生産できず、他者から取り込む必要がある。
 代替物として生野菜などでも生き長らえるというが。
 力を維持するには、月一でグラス一杯程度の血が必要だと。

 献血、かな。幸いにして造血魔法もある。
 子供達が噛まれるとすれば抵抗があるが。
 注射器とか輸血パック、みたいな……作れるだろうか。
 まあ、ウェルベック辺りに相談してみよう。

「我々は俗にいう吸血鬼だ。人間族の敵ではないのか?
 そこまでお嬢様の実力を買っていると?
 本当ならば好条件ではあるが……お嬢様の意志は」

「私は今の生活を続けたいと思っています。
 今まで同年代の友達なんて居ませんでした。
 それが、こんなに沢山……」

「おお、レーネ! すまなかった!
 寂しい思いをさせたのだな!」

「そっ、それに、私は隊長です。
 一族の長の娘たる私が、皆を置いて行くなんて」

「素晴らしい! 聞いたかクラウディオ!
 娘の成長が目覚ましいぞ!」

 いちいち挟まって来る親父さんが……
 いや、別に良いんだけれども。

 顔を見合わせる吸血鬼達。
 どうも態度を決めかねている様だ。
 人間を信用出来ないという意見も上がり、まあ分かる。

 お嬢様を預けてくれるなら、それで良い。
 移住自体は強要しないし、潜伏する場所をバラす気も無い。

「私は行くぞ! 私だけでも行こう!
 愛するレーネの為なら、例え陽の中、水の中!」

「ちょ、父上、灰になるおつもりですか」

「灰は無くともハイだとも!
 今日という日をどれだけ待ち侘びたか。
 おお、レーネ、我が心の太陽よ!」

 親父さんはちょっと冷静になってください。

 協議する、とクラウディオ氏。
 まずは返答を待つとしよう。



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