黒鷲の旅団 >17日目(15)ヴァンパイア父さんの煩悶


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17日目(15)ヴァンパイア父さんの煩悶

「たのもうっ!」

 ロンネフェルト伯爵、再来。
 キリっとした面持ちだが、今更感が酷い。

 クラウディオ氏も同行し、状況を教えてくれる。
 協議は続けているが、意見が割れている様だ。

 まずは賛同派。ロンネフェルト伯爵、執事クラウディオ。
 レーネの世話役だったゼルマルやペトラ達。
 主にレーネの身を案じて、こちらの提案に乗る。
 こちらの状況を見定める為にも同行したい。
 また、逃亡生活に疲れ、共存の道を探りたいという。

 反対派。代表は伯爵の甥、グリュンタール。
 側近らしき忠臣フランケル、ホフベルク。
 人間には何度も痛い目に遭わせられており、信じられない。
 各地に潜伏している仲間達と合流を目指す。
 吸血鬼ハンターとの戦いを続けたい。

 その他大勢は態度保留。
 有力者は妙齢の女性ゲルダ、リヒャルダ。
 対立は本意ではないが、信用するのも難しい。
 賛同者に何事も無ければ合流しても良いのだが。
 今すぐ一緒に行くかと言うと、どうにも二の足を踏む。

「厚遇に対し、非礼は承知している。
 しかし、親を子を殺された者も多い。
 どうか分かってやって欲しい」

 格下であろう俺に頭を下げる伯爵。
 その表情には焦りの色が見える。
 魔人姉妹が脅威、あるいはレーネが余程心配なのか。

 今少し説得の時間が欲しい、とクラウディオ氏。
 無理に意見を統一しなくても良いでしょう。
 去る者は追わないし、断絶する必要も無い。
 ただ、反対派とは一時的にでも不干渉が約束出来れば。

 こちらの意図を伝える為、クラウディオが引き下がって。
 しかし伯爵はこのままついて来るつもりか。
 居残って、あれこれ聞いて来る。
 これまでレーネはどうしていたのか。
 俺達はどういう組織で、何をしているのか。

 見た所、少し身なりの良い冒険者チーム。
 しかし規模が大き過ぎるか。
 子供と魔物ばかりという編成も気になる。
 あとは女性率の高さ。ハーレム?またそれか。
 寸評される方も方だが、する方にも邪念が無いか。

 何か掲げるとしたら、1つ『子供達の為に』だろうか。
 恵まれない子供達と出会って、支援すると決めた。
 被差別者、半魔・半亜人の子供達。

 神聖教会の人間偏重は、元はどうあれ差別の温床だ。
 しかし巨大組織を相手に、正面から楯突いても勝ち目は薄い。
 まずは市民の信用を勝ち取りたい。
 日々鍛錬を兼ねて、怪物退治に勤しんでいる。

 レーネについては、随分と馴染んでくれた。
 友達も沢山出来た様だ。

 ハンターから自分を庇って負傷したフェドラ。
 副官として慕って来るペトリナ。
 変身仲間の半竜人マルカ、半堕天使ノイエ。

 変身、と聞いてハッと顔を上げる伯爵。
 詰め寄って聞く。あ、はい。そうです。
 目が赤くなって。コウモリ状の翼が生えて。

 しかし、暴走っぽかったのは最初の方だけか。
 この所は制御出来ている様な気がする。

 最初はペトリナの負傷に怒って発動して。
 狩人レイニさんのフォロー時には、自分から行った。
 村落防衛の長期戦では、流石に抑えが効かなくなったが。
 ノイエと競争した時は興奮もしていなかった様な。

 伯爵曰く、大人の吸血鬼でも変身の制御は難しいという。
 高揚感に流されて暴れてしまったりだとか。

 レーネは友達を、他者を思う気持ちがあって安定している?
 あるいはダンピール自体がス―パーヴァンパイアなのか。

「やはり……うちの子、天才ッ!」

 あ、はい。それで良いです。
 何か、変に理屈を捏ねるよりシックリ来た。

 ついでだから伯爵に、吸血鬼の生活について聞く。

 吸血。先にも述べたが、生野菜でも代替できる。
 ただ、植物より動物、動物より人間。
 高度な生き物から摂取した方が力が付く。

 伝承とかで聞く、処女の血を好むというのは?
 処女どうこうよりも、吸血対象の在り方の問題だという。
 例えば貞淑だとか、品行方正だとか。
 洗練された高い霊格の持ち主は、その血にも力が宿るのだと。

 それを好むだとか、どこで見分けるんだ。匂い?
 匂いというか気配みたいな物だと。
 人間の五感に当たらない感性。なるほど説明が難しい。

 日光が苦手。これは本当。
 力の無い吸血鬼だと、ものの数分で灰になってしまう。
 住居を用意したら、遮光カーテンとかも必要だな。

 クラウディオが戻って来て、どうやら話が付いた様だ。
 反対派が出立に掛かり、しかし伯爵への敬意は失っておらず。
 別れを告げたいというので、一度伯爵が顔見せに行く。

 行く前に……レーネの顔が見たいのだと。
 天幕に案内すると、もう寝ているか。

「レーネ、父さんだぞー……聞こえんかな」
「おじしゃま……むにゃむにゃ」
「……ふおーん」

 あ、ちょっと凹んだ。



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