黒鷲の旅団
17日目(16)邂逅、空の狭間で
『ギャー! 被害甚大、被害甚大っ!』
『落ち着け! まだ3割ぐらいだろ!』
通信が混線している。
損害率3割? 結構食われているじゃないか。
いや、迎撃部隊に限定しての話か。
現実側、傭兵稼業。
暴走した機動兵器が街中に出現した。
進路ルート上に、うちの企業のビルがある。
本社施設部隊は対応に追われていた。
機動兵器。形状としては蜘蛛みたいな奴だ。
20mを越す蜘蛛なんてのが居ればの話だが。
ビル街や車、装甲車を蹴散らしながら進んでいる。
主武装は胴体上下の機銃。
脚に内蔵された多連装ミサイル。
既に戦車部隊なんかが向かったが、旗色が悪い。
相手の装甲は厚く、動きも速い。加えて光学ジャマー。
居ると思って撃つと虚像だったりする。
対応難度で言えば、異世界の火竜のが幾らかマシだ。
どこぞの企業の、開発途中、試作品。
情報開示はどうなっているのか。
商品化に向けて企業機密もあるだろうか。
それでも、少なからず市民に犠牲が出ているぞ。
このまま行くと、本社ビルはペチャンコだな。
地上の映像を見ながら、しかし焦りは感じない。
企業間紛争の続く時勢。一面焼け野原は経験済みだ。
今や企業の主要機関は地下にある。
市民、ビル上層階の連中も避難している。
郷愁ぐらいには駆られるかも知れないが。
立て直せるか否かで言えば、答えはイエスだ。
あとは、出所を突き止めて賠償請求ぐらいだが。
俺は地下行きのエレベータに乗りながら、フィロに通信。
出所の目星は……全く分からんとの返答が来る。
どこの企業か分かればハッキングも出来るだろうが。
責任追及を恐れてか、現状、名乗り出る企業が無い、か。
下手にちょっかいを出して興味を引きたくない。
いっそ他所の地域に行ってくれないかなー、だとか。
そんな考えが見え隠れする防衛部隊。
どうにも反攻作戦に勢いが無い。
連中も少なからず義体持ちだ。そうそう死なんだろうが。
しかし、余計な怪我をしたくないのは、分からんでもない。
俺としては、さっさと片付けてしまいたいかな。
主要機関は地下でも、流通経路は限りがある。
あいつを潰さないと輸送ヘリが、ヨルクの為の義体が届かん。
アンゼ達がブラウザから話し相手になってくれているが。
どこか不安げな顔が続く。あまり待たせたくはない。
通信。ハッチを開けてくれ。上から叩いてみる。
脚の一本も回収出来れば、後は技術部の仕事だ。
エレベータ、地下軍用施設に到着。
ほぼ同時期に返答。7分待てと。
俺は戦闘機に乗り込んで指示を待つ。
地下2千m。垂直滑走路。
真上に向けた戦闘機を電磁エレベータで空へぶん投げる。
昔のロボットアニメに着想を得たとかいう話だ。
それを実現する本社技術部は、恐らくバカの紙一重。
もしくは紙一重で真正のバカだろう。
翼下に爆装。機体下部に対機動兵器用レールガン。
チャフとフレアの追加コンテナ。
エレベータ接続。機首が空へ向けられて。
しかし、遥か上方。ハッチは閉ったままだ。
出撃の是非はともかく、ハッチ解放のタイミングか。
近過ぎてミサイルの雨を浴びるのも面白くはない。
今少しやり過ごす。カウント。10……20……30……
『ごめんなさい! すぐ出れる!?』
フィロから通信。どうした。
どうやら敵機の進路上に養護施設。
逃げ遅れた子供が? 避難誘導はどうした。
地上部隊の奴ら、後で説教だな。
垂直滑走路、ハッチ解放。
エレベータ加速開始。
機体が空へ向かって急加速する。
高度ー1500……ー1200……ー800……
アフターバーナー、フルスロットル。
エレベータ、接続解除。
……って、真下かッ!
ハッチの上を跨いで来る敵影。敵機動兵器。
爆装パージ。操縦桿を引く。
爆薬は慣性で飛んで、機動兵器の腹を打った。
機体はその脇をすり抜ける。
視界を空の青さが埋め尽くして。
しかし耳を覆う様なミサイルアラート。
HUD左下部、後方カメラ映像。
飛来するミサイル多数。
崩れ落ちる機動兵器も共に映っているのだが。
苦し紛れの全弾発射か。往生際の悪い。
チャフ、フレア射出。
レールガンが邪魔。パージ。
エアブレーキ半解放。急減速。
推力偏向、高速反転して機銃掃射。
Gが重い。義体じゃなければ潰れている。
210度の反転から急加速。
こちらを追い切れないミサイル群が空へ散る。
敵機動兵器は沈黙。
追撃して来る様子は無い。
やれやれ、だ。どうにか片付いたかな。
ミサイルの向かった先は海。
無理に追って撃墜する必要も無さそうだ。
『お、俺……俺、悪くない……悪くない』
誰かの声。通信。機動兵器の搭乗者だろうか。
自責からか泣きそうな声……はて。
どこかで聞いた様な声だが、誰だったか。
故意でないかも知れんが、被害もある。
事情は聞かせて貰うぞ。
通信。グレッグ……バリーと一緒か。
機動兵器のコクピットに居る奴を確保してくれ。
重要参考人だ。逃がすなよ?
機首を帰途へ。垂直滑走路。
下行きは墜落しそうで、あんまり好きじゃないんだが。
少しして、グレッグ達から返答。
『搭乗者とは確かなのか?』
『無人機じゃねーんすか、こいつ。誰も乗ってないっす』
……何だって?
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