黒鷲の旅団 >18日目(1)夜明け前の森で


黒鷲の旅団
18日目(1)夜明け前の森で

「むふ〜、ご主人様ぁ〜」

 え、あ……何!?

 ぼふん。隣に寝ていた女性が煙と消える。
 姿を現したのはトゥーリカだった。

「あはは、魔法切れちった」

 どうやら変身魔法で人間サイズになっていた様だ。
 変わらずイタズラ者だが、あんまりビックリさせるなよ。

「ごめんねー。だってほら、寒いから。
 一緒に寝たら温かいかなって」

 寒い。そうだな、少し肌寒いか。

 現在地、クンピナ開拓地帯。
 集落脇の広場で野営をしている。
 森の間、夜明け前。
 空は白んで来ているが、まだ日は見えない。

 もう少し寝たいというトゥーリカ。
 熱源として、灯火したランプを寝床の傍らに置く。

 俺は天幕を出て焚き火の前へ。
 少し頭の中を整理したい。

 おかしな夢を見た。
 いや、あちら側の現実だったか。

 確かヘクターとか言ったか。以前殺した悪党騎士の手下。
 現実側、暴走した機動兵器から、そいつの声がした。
 しかしコクピットは無人だったという。

 音声だけ? どこから?
 現実世界でゴーストだなんて、信じる柄でもないが。
 じゃあ、どこから何だという話になる。

 回収した機動兵器の残骸は、技術部の連中が解析中。
 まだ結果こそ出ていないので断定は出来ないが。
 機動兵器の制御AIの代わりに、死者の人格が入った?
 それはそれで、あまり考えたくない事態だな。

 どうやらヨルクも向こうに居るらしい。
 彼は鎮魂魔法で天に召されたハズなのだが。
 アンドロイドの電脳に入り込んでしまっている。

 死者の魂を管理しているのは、天国か何か?
 そこから吸い出されているのか。
 そこから打ち出されているのか。
 あちらから呼んでいる技術者でも居るのか。
 あちらへ行ってみたい神様でも居るのか。

 まあ、あちらの事はあちらに任せよう。
 こちらの俺、現在レベル42だ。
 仮に神様の仕業だとして、どうこう出来るとも思えん。
 今は出来る事を続けるしかないだろう。

 今日はシナイアに向かう。
 シュテルン公国軍の砦があるという話だ。

 レーネの家族は見つけたが、フィリッパの家族がまだ。
 行くだけ行って、手配書ぐらい置いて貰えると良いんだが。

 それと、ポータル。各拠点にあるという話だった。
 自宅にアクセスして、吸血鬼達を匿う住居を作りたい。
 ひとまず本宅の空き部屋へ。ゆくゆくは別館を建てる。
 そういう機能があるのは確認している。

 用意が出来るまで、吸血鬼達は森に潜伏する手筈だ。
 念の為、使い魔の証を人数分渡してある。
 従わせるつもりは無いが、方便だ。
 冒険者なんかとの戦闘は避けられるだろう。

「あ、おっちゃん。早いじゃん」
「パパさん、おはよー」

 少しして、カーチャとノイエが起きて来た。
 元孤児、教会暮らしは朝が早いらしい。

 よく眠れた? ちょっと寒いか。
 温泉魔法。足湯で一息。

 他の子達は大丈夫か。天幕を見て回る。
 少しズビズビ鼻が鳴っている様だ。
 天候か放射冷却か、昨晩より冷える。

 空調、結界、束縛。断熱魔法。
 指定範囲の熱の移動を抑制する。
 空調、結界、温風。温熱魔法。
 指定範囲の温度を上げる。
 先に作っておけば良かったな。

 天幕に断熱、温熱魔法を掛けて回る。
 鼻のズビズビいう音は聞こえなくなった。
 カーチャとノイエも天幕に戻る様だ。
 温かい? 面白がっている。

 俺は朝食の支度でも始めようか。
 所持品ストレージからフライパン。
 保管庫から転移魔法。肉、タマゴ。

 肉を燻製魔法で燻しベーコンに。
 ベーコンエッグにするにはタマゴが足りないだろうか。
 農耕魔法、キャベツ、ジャガイモ、タマネギ等。
 転移魔法。塩、ビネガー、食用油。

 マヨネーズを撹拌しながら、焚火の前でぼんやり。
 新規、断熱魔法……例えば、断熱膨張だとか。
 気象・天候関連の魔法があれば応用出来るだろうか。
 温熱魔法は医療系に活かせないかな。

 燻しベーコン入り炒め野菜。
 フレヤとジェマ、獣人向けにタマネギを避けた物が2皿。
 マッシュポテトはマヨネーズで味付け。
 一部過程では、粉砕・圧殺魔法なんかも利用。

 食事が出来て、子供達を見に行くと……笑ってしまった。
 あまりにも幸せそうな寝顔が並んでいる。
 余程、寝易くなったのだろう。
 みんなスヤスヤ。カーチャとノイエも二度寝中。

 これを起こすのは忍びないな。
 まあ、急ぐ旅じゃない。のんびり行こう。



前へ黒鷲の旅団トップへ次へ