黒鷲の旅団
18日目(2)隊商の奴隷剣闘士
「わああ、ごめんなさい!
寝坊しちゃっ……あ、あれ?」
慌てて飛び起きて来たユッタ。
大丈夫、まだ3番手だよ。
ご飯用意してあるから、手と顔を洗っておいで。
暖房措置、天幕に断熱・温熱魔法。
寝心地が良過ぎたのか、みんな寝坊がち。
アンヌやヘルヘレ姉妹でも抗えなかった様だ。
先に起きているのはエメリナとテルーザ。
彼女らにはちょっと暑かったという。
人魚やニンフ、水棲系種族の血縁。
最適な気温が違うのかも知れない。
「はよー……」
「むっちゃ寝たっぽい……」
欠伸交じりのティルア、ツェンタが続く。
物凄くテンションが低い。
顔を洗って……大丈夫か?
眠い目のままフラフラと、洗い場を探している。
朝食。起きて来た子から順次、焚火を囲んで朝食だ。
俺は先に済ませたが、せめて近くに居ようか。
みんなの顔の見える所で銃器の分解整備をする。
マリナとマイナさんが一品追加、スープを作ってくれる様だ。
「やあー、ゆっくりだねえ」
昨日の隊商が通り掛った。
彼らは近くの開拓村で一夜を明かしたらしい。
俺達の近くに居なかったのは、吸血鬼の噂を恐れてか。
こちらの魔物従者隊を警戒してか。
まあ、嫌がらせして来ない分には気にしないが。
連中は狩人ではない。
新鮮な食材はなかなか手に入らない様子。
開拓中の村では、売る様な蓄えも無いか。
取り引きがしたいというので、応じよう。
隊商の一行。商人のイグナシオとヘラルド。
イグナシオの妻でヘラルドの妹、レアンドラ。
イグナシオとレアンドラの娘、ロベルティナ。
あと……奴隷だと。
鎖に繋がれた男達。レオン、ランド、ロック。
元は剣闘奴隷で、イグナシオが買い取ったらしい。
パッと見、屈強。精悍な顔立ち。痩せ衰えてはいない。
食事はそれなりに与えていると思われる。
ただ、恨めしげな眼差し。反抗心もありそうだ。
解析魔法。一番手のレオンがレベル58らしい。
凄腕で、勝ち上がったプライドもあったのだろう。
強そうだが、暴れたりしないのか?
イグナシオに聞く所、奴隷には……奴隷紋。
胸の上に、魔法の烙印みたいな物が付与されている。
主人に反抗すると効果を発揮、対象を苦しめるのだとか。
抵抗しても無駄、だとして。
それでも待遇には気を使ってやった方が良いな。
診察スキルがランドの状態異常を感知している。
詳しく診断。診断結果は食当たりだと。
治癒、抗生、解毒、浄血魔法。
一応は『処置済み』の診断結果を得る。
練習がてらだ。代金は取らないよ。
「医者先生だったとは驚きだが。
奴隷なんかにも情を掛けるとは。
そんなお人好しで大丈夫かね?」
「情を捨てない奴が強いんだっけ」
「捨てなくても大丈夫な人が強いんだよ」
首を捻るイグナシオに、ティルアとアイリス。
以前、そんな事を言ったとは思うが。
うろ覚えでも繰り返されると照れ臭いんだが。
しかし、そのやり取りを聞いてかレオン達。
探知反応の色が若干友好化した様子。
奴隷として社会的上位者に反発心はあるが。
剣士として強者には興味がある、といった所か。
その辺、俺もあんまり強くはないんだがな……
ともあれ、不幸な境遇の剣闘士達。
例えばと前置きした上で、身請け話を持ち掛けてみる。
奴隷のオークションで買ったらしく。
どうやら随分と高い金を出している様だ。
加えて、護衛役を買い上げてしまうワケで。
イグナシオ達の自衛手段も無くなる。
彼らも道半ばでは容易に手放せないか。
「街へ行って、他の逸材でも手に入れば考えるんだが。
居るとも限らんし、もっと高いだろう。
それに、特にレオンは娘が気に入っていてね」
まあ、仕方ないと言わざるを得ない。
出会う奴隷を全部買い取るワケにもいかん。
お嬢様のお気に入り、なら、あるいは。
代替わりの際にでも解放されるかも分からんか。
見た所、イグナシオも娘の事は可愛がっている様で。
それなら、そう酷い扱いはしない……と思いたい。
ともあれ、彼らとは街まで同行してみよう。
道中、商人視点での情報も聞いてみたい。
移動準備。役割分担。
子供達が速やかに天幕を畳んでいく。
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