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黒鷲の旅団
18日目(3)狭所に耐えて

「狭い! 狭いよ!」
「木が邪魔! 狙えない!」

 狭い山道、左翼側からモンスターが雪崩れ込んで来た。
 側面は木々が邪魔。前後はお互いが斜線を阻む。

 野良モンスターのクセに、とアンヌが毒づいた。
 隊列の伸びた、守りの薄くなった所を狙って来る。
 学は無くとも経験則だろうか。
 まったく、嫌らしい所を狙ってくれる。

 全員落ち着け。下馬。お馬さんから降りよう。
 馬はモンスターが居ない方に逃がしつつ。
 木々の間に防御陣、迎撃態勢。

 馬が逃げちゃうよ、とアイリス。
 大丈夫だ。後で呼べば戻って来るだろう。
 どうしても戻らなかったら、また買ってやるから。
 今は隊列を乱すな。自分達の身を守ろう。

 花人隊がツタを変形。大盾とパイクを手に前衛を固める。
 子供達がその合間から後ろからと、接近者を狙う。
 弓弩も含むが、およそ片面のテルシオ方陣の様相。

 人間同士だったら廃れて行ったテルシオだが。
 それは人間が、敵兵が銃弾1発ずつで死んでくれるからだ。
 厚く堅い皮膚を纏った魔物が相手では、勝手が違う。
 見てから倒すまで、足止め、ストッピングパワーが要る。

 トロールはともかくオーガ。デカい上に俊敏だ。
 散弾で面攻撃を狙う。神経・束縛魔法付与で応戦。
 散弾銃フランキ・スパス15。セミオートで良かった。

 ジルケが予備武器、散弾銃レミントンを用意。
 俺のサーブ・スーパーショーティをヘレヴィに貸す。
 サンドラがサポートに回って付与、束縛魔法。
 どうにか安定したと思ったら、右翼、反対から新手。

 銃士隊2つで左翼への迎撃を継続。
 トゥーリカ、指揮を半分任せる。
 ジュス姉さん、撃ち漏らしの対処を。
 弓弩隊、花人第2小隊、アンヌ、俺に続け。

 閉所で猛威を振るうのはアラクネ、ネーラさん。
 複数の足で木の間、地上を離れて陣取っている。
 更に腕1本、脚2本使って、ヘヴィクロスボウを装填。
 立体的な斜線からオーガを狙い撃つ。

 ハーピーズは上空からボウガン攻撃。
 矢は小さいが、魔法付与。閃光、昏倒、崩壊魔法。
 上空。意識の外からの攻撃。敵の混乱を誘っている。
 森の中でなければ炎系、延焼を狙ったんだが。
 練度が足りん。乱戦の縁を狙うのは無理だ。

 迎撃、迎撃。探知。通信。
 反対側、負傷者は居ないか。
 花人達から『あーう』の返事、6つ。
 前衛が健在なら持ち堪えては居るか。

「ぬゅおりゃ!」

 変なニュアンスの掛け声。
 背後から頭上を越え、宙をブッ飛んで行くオーガの巨体。
 何だ今の。ジュス姉さんが投げ飛ばした?
 頼もしいのは良いが、馬車に当てるなよ?

 やがて10分も粘ると、割に合わないと判断したか。
 生き残りが撤退を開始。追わなくて良い。
 阻害魔法で倒れている奴だけ、確実にトドメを刺そう。

 大したもんだ、と商人イグナシオだが。
 俺から見たら冷や冷やモノだった。
 子供達の強みは長射程。機動力。
 どっちも活かせない山道は、はっきり言って難所だ。

 今後に向けた課題が幾つか。
 長射程よりも速射性を重視した中距離射撃武器。
 いざという時の近接武器も欲しいか。
 咄嗟の受け身だけでも、体術訓練。

 怯まないだけの胆力は……以上の準備からだ。
 確かな鍛錬と下準備、経験、実績。
 それこそが、根拠のある自信に繋がるだろう。

 ちらと見ると、腕を組んで頷いているレオン達。
 熟練者も同感の様で、街に着いたら具体策を練ろう。

「私も戦ってみたい! レオン教えて!」
「お嬢様、まずはご主人様の許可を頂かないと」

 お嬢様、ロベルティナを窘めるレオン。
 レオンが分を弁えているから、まだ良いとして。
 お嬢様のお転婆ぶりは、父イグナシオも頭が痛い様だ。

 将来の夢は、シャルロッテ様みたいな姫騎士だと。
 爵位は金で買えても、剣で戦えるかは向き不向きだな。

「それでね、敵の捕虜になって。
 でも、素敵な男性が現れて助けてくれるの。
 王子様、冒険者……傭兵だったかしら?
 吟遊詩人の歌になってるの。ホントよ?」

 と、聞いていてユッタに脇を小突かれる。
 ああ、うん、元は捕虜に取った時の話だろうかな。

 シャルロッテの恋、については分からん。
 公女がまんまと捕まった、なんてのは醜聞であり。
 それを恋物語に仕立てて誤魔化したのかも。
 ともあすれば吟遊詩人、貴族に金を積まれている?

 まあ、恋物語はともかくとして。
 戦おうと思ったら、余程丈夫にならないと。
 お家のお手伝いにも根を上げる様じゃ無理だぞ。

 それだっ、と指差して、ニカッと笑うイグナシオ。
 頬を膨らませるロベルティナ。分かり易い親子だ。

 さて、馬を回収して行軍を再開。
 シナイアの砦とやらが見えて来て。
 堅牢な石造り、関所を担っている様だ。
 一度自宅に戻りたいが、ポータルはどこだろう。

「あっ、そ、そこを動くな!」

 接近した所、衛兵達に取り囲まれる。

 交戦の意志? 休戦は既に失効している?
 しかし、だとすれば対応が遅すぎる。
 もっと早くに矢の1本も飛んで来そうな物だ。

「動くなよ? 黒鷲団で間違いないか?
 リュドミラ様の命により、お前達を拘束する」

 ……え、何だって?



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