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黒鷲の旅団
18日目(4)ここで会ったがリュドミラちゃん

「……何してんすか、旦那ぁ」

 追いついて来たイェルマイン達。
 何をと聞かれても、こっちが聞きたい。

 シナイアの砦、門の前。
 リュドミラの命でと拘束された俺達、黒鷲団。
 逃げないし子供なので、と、子供達は勘弁して貰ったが。
 俺だけ縄でグルグル巻きにされてしまった。

 まあ、無理も無いか。
 俺達には無損害で700人倒した前例がある。
 何かしら警戒されてしまったのだろう。

 衛兵は、城壁の上に4、門の前に10人足らず。
 ヘルヴィがユッタに何か耳打ちして。
 ユッタ、城壁の上の衛兵を見上げる。
 撃ったりするなよ。様子見だよ、様子見。

 衛兵が何人か、リュドミラ公女を呼びに行った。
 今少し様子を見よう。

 突破出来ない数ではない、とヘルヴィの主張だが。
 必ずしも無傷でとは行かないだろう。
 余計な怪我人を出したくない。

 しかし、矢弾の確認、敵の位置の把握。
 淡々と反撃・制圧準備をする子供達。
 頼もしくも末恐ろしいな。

 少し遠くに探知反応、緑。リュドミラかな。
 物凄い勢いで近付いて来ている。
 飛ぶ様な速さで近付いて来て……

「愚か者−っ!」

 本当に飛んだ。

 リュドミラちゃん、ドロップキック。
 見張っていた衛兵の一人が腰を強打してコケる。

 リュドミラは鬼の形相。
 乗馬用の鞭で、残る衛兵隊をペシペシ叩く。

「誰が捕縛しろと言いましたか!
 私の恩人ですよ、恩人!」

 ペシペシするけど、リュドミラちゃん。
 恐らくは、上手く説明出来ないんだろう。
 何がどう恩なのか分からん衛兵隊。
 だから対応に困っているんだ。

 平たく言うと、公女お漏らし隠蔽大作戦。
 概要を説明した途端に機密が漏洩するからな、これ。

 そんな事情も知らず、不憫な衛兵隊……

 違うな。不憫じゃない。
 鞭打たれて、どこか嬉しそう。
 打たれてない奴が羨まし気。
 何だ、ドMの溜まり場か。

 ドMを眺めていても仕方ない。
 リュドミラを宥める。大丈夫だから。
 捕縛っても子供達に縄は免除して貰ったから。
 ぐるぐる巻きは俺だけだから。大丈夫だから。

「それが一番問題な……ああ、ええと。
 とっ、とにかく、無礼仕りました。
 お礼とお詫びがしたく、御同道頂けますでしょうか」

 砦より少し北、ブラショヴ。
 彼女が部下と駐留している屋敷があるという。
 道中は公国騎士団が巡回しており、比較的安全。
 戦闘が無ければ、そう時間も掛からず着くだろう。

 それに、砦には神人向けのポータルは置いていないらしい。
 戦略拠点前で出入りされても守り難いだろうか。

 ジュス姉さんの用事、鉱物資源の入手。
 この辺も、大きな街に行けば流通があるだろう。
 ここで折り返すのも何だし、行ってみよう。

「やあ、無事だったかね」

 少し行くとイグナシオ達の隊商の姿。
 面倒に巻き込んでも悪いので、先に行って貰っていた。
 そもそも大した関係じゃない。薄情とは言うまい。
 ユッタ、ジルケ、サンドラ。そんなに膨れないでおくれ。

 イグナシオも、それなりに気に病んでくれたのか。
 入り用な物があれば取り寄せてくれるという。
 しかし、物品では受け取りに手間が掛かるかな。
 ひとまず情報だ。情報を貰おう。

 イグナシオの情報。
 この街道にトロール以上の魔物が徘徊している。
 これは今に始まった事ではないらしい。

 闇の気配が溜まり易い地形、という事か?
 それは考え難い、とマイナさん。

 聞けば、ダンジョンの様な閉鎖空間ならともかく。
 開けた場所では闇の気配も徐々に薄まって行く。
 さながら汚染物質の様な印象だな。

 闇の気配を呼ぶのは、死体……だけではない?
 流血、犯罪行為、悪意だとか。
 清浄と真逆の行いが闇の気配を呼ぶ事もあるという。

 街道。闇の気配に満ちた街道。
 何か悪意を含んだ流通がある、だろうか。
 この界隈の魔物の強さは気になる。

 リュドミラ達も近衛の騎士達と共に調査している様だ。
 しかし、なかなか成果を得られていない。

 各砦・関所の上役も、怪しい奴は見ていないと。
 どうかな。彼らも金でも掴まされていないか。
 その辺の監視も兼ねて、彼女は砦に赴いた様だ。

 ともすれば、調査の邪魔をしてしまっただろうか。

「いえ、こちらも行き詰っていましたので。
 よろしければ、先生のお知恵などお貸し頂きたく」

 知恵はともかく……先生?

 どうやらリュドミラちゃん、最初に捕虜に取った折。
 俺が言った言葉の中から、何かヒントを得らたしい。
 あと、魔法とかも覚えたいと。

 まあ、それも良いだろうか。
 質問があれば受け付けよう。

 親は子に、師は生徒に育てて貰う所もある。
 リュドミラの問いと、回答の模索。
 その中でまた、子供達に教える事が見つかるかもしれない。

 さて、まずはブラショヴまで。
 昼食をご馳走してくれるというので、頂こう。
 ついて来るイェルマイン達。なかなかチャッカリだ。

 しかし、この人数で押し掛けて大丈夫なのか?



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