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黒鷲の旅団
18日目(5)めー

「ようこそブラショヴへ。
 良ければゆっくりして行っておくれ」

 特に戦闘も無く都市ブラショヴに到着。
 出迎えたのは、貴族の青年と護衛の騎士達。
 どうもこの青年、リュドミラの兄らしい。

「まさかお兄様自らお出迎えなさるなんて。
 供が居るとは言え、危険です。
 また命を狙われるやも……」

「ははは、リュドミラは心配性だな。
 例え危険でも、ずっと鳥籠の中では息が詰まるよ」

 第1公子ヴィンフリード。
 一見すると柔和な印象の優男なのだが。
 しかし、厳しい政争を生き抜いて来たのだろう。
 肝の据わった人物の様だ。

 さて、屋敷に向かうという段階になって、待ったの声。
 門の衛兵達から、魔物を通すのかと。
 恩人の従者だとリュドミラの援護もあるのだが。
 しかし、亜人はともかく魔物従者。
 市民が怖がる、混乱を招くのでは、という。

 城内の部下の反対意見こそ、権力で黙らせるにしても。
 魔物従者を招いて、市民を混乱させる。
 対立派閥とやらが付け入る隙になるだろうか。

 空間魔法。市街のマップを表示。
 比較的混乱が無いルートを、と模索して。
 ふと気付いたのがポータルの位置だ。

 ポータル。神人用の転移システム端末。
 自宅の異空間と出入りするゲートにもなっている。
 これがどうも、城内にも1つあるらしい。

 街の入り口のポータルで自宅側に移動。
 別動隊が城まで行って、ポータルの転移先を登録。
 然る後、城のポータルで呼び出したら行けるかな。

 という事で、ご招待早々で悪いが、一旦自宅に戻る。
 人数も人数だ。昼食の用意にも時間が掛かるだろう。
 少し時間を置いて訪問させて貰おう。

 イェルマイン隊が20人。俺達がトゥーリカを除いて50人。
 トゥーリカは俺の皿から摘まむから良いとして。
 しかしラミア、アラクネは人間2人分ぐらい食べる。

 と、少しざわつく騎士達。
 そこに、俺の洞察スキルが働いた。

 従者は賓客待遇出来ない、というのであれば。
 俺の方を従者待遇にして欲しい。
 そんな事は出来ないとリュドミラ。
 良いんだよ。タダ飯ってだけでも助かるから。

 待遇については、あちらで検討して貰うとして。
 俺達は街の入り口のポータルから自宅に戻る。

「あっ、お帰りなさい!」
「おかぁーりー!」

 自宅の敷地に入るや、駆け寄って来るリータとラケル。
 ラケルは得意げにニワトリの卵を見せて来る。
 お前さんが集めたのか。後で食べような。

「めー!」

 めー?と言って、卵を守る様に引っ込める。
 んー……ああ、そうか。

 これはヒヨコさんにならないタマゴだ。
 うちは雌鶏しか居ないから、無精卵しかないハズ。
 食べても可哀想じゃない奴だから。

「うー? じゃー、あーゆ」

 あげると言ってくれている様なので、受け取ろう。
 コッコ隊のタマゴを守ろうとする。ラケルは優しい子だ。
 リータも野菜を沢山収穫してくれた様だ。偉い偉い。
 頭を撫でると笑顔が返って来る。

 子供達が馬を厩舎に繋ぎに行く。
 フレスさん達が来てくれて、状況説明。
 昼食はシュテルンの公子公女に呼ばれている。
 あとレーネの身内、吸血鬼達の住居を用意しなきゃならん。

 ひとまず金が要るので、魔法特許の売上報告から。
 Sクラス19件。温泉魔法が順調に売れている。
 Aクラス46件。縫合・除細動魔法が中心。
 Bクラス39件。主に攻撃魔法から。
 Cクラス31件。にわかに売れ始めた?

 売り上げとして2035万。
 別館を建てるには2000万からで、足りたか。
 あとは遮光カーテンだが。

 ドリス商店と通信魔法で遣り取り。
 遮光カーテン……って概念は無いか?
 仕立屋カーラと相談してくれる様だ。
 重ねて厚くする所から試してみるのだとか。

 吸血鬼達の住居については何とかなりそうだ。
 日中は移動させられないので、通信。
 都合がついたら迎えに行くと伝える。

 新規の特許申請。断熱、温熱、溶断魔法。
 ん、溶断魔法は既に申請が出ているのか?
 溶鉱魔法の出所、ダイダロスさんの一派だろうか。
 他方、生活魔法は相変わらずニッチな様子。
 断熱・温熱魔法の特許申請は通る模様。

 さて、昼食に向かおうかという所。
 ヘリヤとシャンタルも一緒したいと言い出して。
 それなら、フレスさんもご一緒に。

 神人のポータルは、神人と従者向けの便利システム。
 家主と仲間なら、一度行った所なら転移出来る。
 お客さんは入った所からしか出られないのだが。
 しかし、一時的にでもパーティを組めば大丈夫だ。

 リータとラケルも連れて行こうか。
 先にお便所済ませておいて、短時間なら大丈夫だろう。

 ラケル、コッコも連れて行きたいと。
 えー……コッコは、めーだな。
 すまんけど、お留守番させてください。



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