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18日目(6)3番目の第1公子

「うわ、でけー……」
「ホントだ。デカ……大きいね」

 見上げるイェンナとユッタ。他の子達も。
 思わず口が開いちゃう子がチラホラ。

 ポータルからブラショヴに戻り、リュドミラ達の屋敷へ。
 屋敷……というか、城と言うべきか。
 いざ着いてみると、うちよりデカいんじゃなかろうか。

 ただその、デカい屋敷、ではあったのだが。
 食堂に全員は入らない様子。
 待遇についてもまだ決めかねていた様で、提案。
 もう、いっそ中庭で食べてはどうか。

「あはっ、面白そうだ。
 キャンプなんて5つの頃以来だよ」

 リュドミラは渋るが兄さんが乗ってくれた。
 中庭にテーブルと椅子を持ち込んで昼食会。
 足りない家具を作り出すジュス姉さん。
 工作の腕前は鍛冶に留まらず、か。
 流石は創造の魔人といった様相。

 ジュスの仕事を興味深げに眺める公子なのだが。
 その少し後ろにアンヌ、イェンナ、ティルア。
 公子と全く同じ動作をしている。
 真似っこ遊びは相変わらず流行っているのか。

 あんまり偉い人で遊ぶなよー?
 と、公子もアンヌ達に気が付いた様で。
 しかし怒るでもなく、わざと難しい動きをしたり。
 逆にアンヌの真似をしようとしたり。
 この人も結構いたずら好きの様だ。

「お兄様は羽根を伸ばし過ぎです」

 口を尖らせるのはリュドミラ。
 賓客の前だから……いや、俺は気にしないけれども。
 むしろ、子供達と仲良くしてくれると助かる。
 配下連中には、亜人や魔物を忌避する感情もあるだろう。
 上が率先して友好を図ってくれると下を宥めやすい。

 昼食は、屋敷の料理人が5人。
 5人で80人分相当とか、ちょっと手が足りない。
 俺達からも2品3品提供しようか。

 中庭の端に仮設の調理スペースを作らせて貰う。
 石柱魔法からカマドを1つ設置。
 加えて焚き火が幾つか。鍋を火に掛ける。
 保存していたグリフィン肉で唐揚げ。
 収穫した野菜でサラダや炒め物を作る。

 今度はリュドミラが興味深げに覗き込んで来た。
 調理している傍ら、話を聞いてみる。

 彼女やヴィンフリードの境遇について。
 ヴィンフリードは長兄だが、しかし第1子ではない。
 上に姉が2人居て、それぞれ母が違うという。

 男子の第1子が後継者、という前提があるが。
 女子への継承権を認めさせられれば、長女が後継者になる。
 長女、第1公女アーデルハイト。第1后妃アンネマリー。
 彼女らを推す連中の派閥が、目下最大の政敵。

 また、男子が後継という前提であれば。
 ヴィンフリードさえ除けば、第2公子が継承一位。
 第2公子ディートリッヒ。その姉、第2公女エーデルガルト。
 更にその母、第2后妃エリザベータの派閥。
 こいつらは何度かヴィンフリードの暗殺を企てている。
 公にはなっていないが、リュドミラには確信があるのだと。

 いっそ失脚でもすれば、暗殺は免れるだろうが。
 しかし、彼を推す派閥はそれを許してくれないだろう。

 ヴィンフリード、リュドミラの母、第3后妃アデライーダ。
 彼女自身は穏やかな性格らしい。
 しかし、その身内がコネで要職に就いているらしく。
 派閥を形成して対抗意識を燃やしている。

 燃やしている……けれども、優勢とも言い難く。
 毒見役や何かで、侍女が何人か命を落としている。
 派閥の構成メンバーも、威勢は良いが智も勇も不十分。
 口ばかりではなく実績を積み、味方を増やさなければ。

 その、実績を積むという一環として、街道調査。
 味方というのが俺か。俺と魔女達の魔法。
 魔法を覚えたいのは、兄を謀略から守る為。
 話を聞く限り、最低でも解毒魔法は欲しいな……

「あ、取った!」
「毒見、毒見ぃ〜」

 子供達が皿を運ぶ間を行き交いながら。
 ちょこちょこ摘まみ食いをしているヴィンフリード。
 あんたが毒見しててどうすんだ。
 リュドミラも怒るやら呆れるやら。

 何を考えているんだと……ふと、読心魔法。
 ヴィンフリードの内心は、楽観視ばかりでもない様だ。

 初恋が、毒見で死んだ侍女の1人。
 父よりも慕った剣の師を、激戦区に追いやられて亡くした。
 自分が死ねば妹は継承競争から遠ざかれる。
 厭世感、軽い自殺願望と、重めの自己犠牲を患っている。

 大したレベルでない読心魔法。
 それでも読み取れたのは、喉まで出掛かっているからか。
 誰かに打ち明けたくて、しかし口にし難い思いと立場。

 まあ、そうだな……身内でも権力志向の奴が怖い。
 彼が妹の為に死のうというのなら。
 無気力にでも生かす為に、妹の方を殺しかねない。
 死なない程度、いい感じに失脚出来れば良いんだろうか。
 どんな失脚だろう。すぐには思いつかない。

 取りあえず、リュドミラの解毒魔法習得だ。
 フレスさん達が来てくれている。
 食後は魔法習得の儀式をお願いしよう。



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