黒鷲の旅団
18日目(7)悪意の銃弾
「はい、これで除細動魔法を習得されました。
次は縫合魔法ですね」
フレスさん達による魔法習得の儀式。
魔法陣。作法。詠唱。
魔法神と守護聖霊がどうたらこうたら。
リュドミラが魔法を幾つか習得する。
護衛の騎士から少し、魔女の魔法なんて、との声。
シュテルン公国でも神聖教会は幅を利かせている様で。
しかし、当のリュドミラはあまり気にしていない。
そう言えば、異母兄ディートリッヒの前例もある。
国の繁栄の為なら、魔王の娘と婚姻する様な連中だ。
いや、彼自身は単に魅了されているんだったか。
それでも、公王はその婚姻を容認している。
悪評に勝る実利を伴うなら、それは切るに足るカードか。
俺としては、魔女への悪評自体を無くしてしまいたいが。
先に利益を見せる、というアプローチもアリだろうか。
偉い人が利益を見出して、反対意見を抑え込んで。
そんな一歩一歩の積み重ねだ。
ともあれ、リュドミラの魔法習得。
覚えたのは治癒、解毒、防毒、浄化、消臭、通信、転移、照明。
精神、神経、束縛、洗浄、調香、除細動、縫合魔法。
実に15種類。リュドミラは魔法に適性があるらしい。
加えて身体的なレベルも20台。箱入りにしては高いだろう。
一般人と違い、貴族。レベルを上げる機会があるらしい。
護身術の指導や、娯楽の一環としての狩猟等。
まあ、何人も居るとは言え、君主の血縁者。
レベル1で初陣に放り出すなんてあり得ない。
ちなみに……攻撃魔法は教えられません。
暗殺なんかに使われたら、教えた方にも責任が出る。
探し方・覚え方だけ教えるので、自分で研究してください。
「じゃあ、魅了の魔法とかダメですか?」
「あっはは! 誰に使うんだい」
「先生、あたしらも魔法ー」
リュドミラの代案にシャンタルたん爆笑。
ホントどうすんだ、魅了魔法。
授業が終わったと見てか、子供達も駆け寄って行く。
そろそろ次の魔法が欲しいのだろう。
「あちっ!」
ふとイェンナが驚いた様な声を上げて。
同時に、ぼすっ。何かが中庭の芝生に突き刺さった。
遅れて何か……銃声、の様な音。
「イェンナちゃん、血が!」
「え、うわっ!?」
イェンナ、右耳から出血。
撃たれた? 狙撃だと?
「イェンナが撃たれた!」
「えっ、どこ? どこから?」
色めき立つ子供達を落ち着かせる。
落ち着いて、ひとまず皆、建物の陰へ。
フレスさん、イェンナの止血を。
と、指示出しに振り返った所に次弾。
俺の義手の上を弾丸が跳ねた。
「今度はおっちゃんが!」
「守らなきゃ!」
ストップ。落ち着け。俺は無事だ。
まずは自分の身を守れ。
「あっち!」「あっちだ!」
「あああーう!」
花人達も厳戒態勢。障壁魔法を展開する。
テレパスで敵意でも感じているのか。
障壁を向ける方向に迷いが無い。
方位については彼女らを信じよう。
探知魔法。ディープサーチ・ナロウ。
ディープは深く遠くへ、ナロウは狭くだ。
上下左右の幅を絞って索敵。敵の位置を絞り出す。
教会……街外れに廃教会がある。
赤反応が1つ。遠見魔法で姿を探す。
高台は……尖塔。時計塔か?
見ていると、チカッと光った。
身を引いた途端、俺の足元で銃弾が跳ねる。
「反撃しなきゃ!」
「ダメ、ユッタ!」
銃を向けようとするユッタをアンヌが押し倒す。
ブツッと音がして、芝の上に鮮血が散る。
「いった……!」
「あ、あ、アンヌちゃん!」
「掠っただけよ。ああー、くそ」
アンヌ、側頭部にダメージ。傷は浅いか?
しかし今、明らかにユッタを狙って来た。
狙撃は専売特許、などと奢っているつもりは無いが。
それにしても、子供達を狙撃の的にするとは。
アンヌに追撃が来ないのは弄んでいるつもりか。
子供達を守る。守るのは勿論として。
鍛える。撃ち負けない様に。
最低でも、悪意に抵抗する力と知識が要る。
花人達が障壁魔法付きでカバーに入る。
アンヌとユッタ、もそもそと匍匐前進。
全員、物陰に入ったな?
まずはイェンナとアンヌの治療。
然る後、遠距離戦の授業と行くぞ。
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