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18日目(9)反撃は焼けた小麦の香り

「え、おやつ? おやつじゃないの?」

 ツェンタ、食いしん坊発言。
 おやつにもなるけど、それは後でな。

 乾燥、粉砕、撹拌、濾過、精製魔法より。
 新しく作ったのは製粉魔法。
 媒体に指定した素材から粉製品を生成する。

 小麦はリータが収穫しておいた物を転移魔法で回収。
 これに製粉魔法を施して小麦粉にする。

 小麦粉。まあ、おやつの元にもなるけれども。
 今これを作っているのは、攻撃に転用する為だ。
 ちょっと思い付きで試したい事が出来た。

 撃たれない位置に集まって、小麦粉を作って袋に詰める。
 20Kg入りを20袋もあれば良いだろうか。
 準備をしながら、子供達への授業を続ける。

 狙撃を受けて運良く、あるいは防備が十分だったとしよう。
 狙撃されるも生き延びて、さあ反撃という場面に至る。
 まず行うべきは、行方を眩ませる事。
 探し合いの状態に持って行き、仕切り直す。

 こちらの居場所が分かったまま撃ち返しては危ない。
 隠れているが、どこに隠れたか知られているんだ。
 顔を出した途端に撃たれるかも分からない。

 例えば……閃光魔法の使い手は少なくなかったか。
 隠密、透明魔法もあれば使って行こう。
 他に視界を遮るのは、黒煙、砂塵魔法。
 煙の元が十分なら、燻製魔法なんかで代替しても良い。
 出来ない事を嘆くより、出来る事から使える物を探す。
 そして嘆かずに済む様に、普段から何が必要か考える。

 身を隠して、見失わせて。
 位置を変えたら……はい、ちょっと待て。
 駆け出そうとするユッタをフェドラがキャッチ。
 豊満な谷間に顔から突っ込んでしまった。
 振り返るユッタは複雑そうな顔。
 気が急いているのは分かるが、話は最後まで聞いてくれ。

 ちょっと移動したぐらいでは、すぐ見つかってしまう。
 それに相手の方も移動しているかも知れない。
 慌てて動いて顔を出して、思った所に居ない。
 探している内に横から撃たれる、なんて事もある。
 作戦を立て、情報を集め、用意をしてから反撃に出る。

 作戦。例えば他に注意を向ける。
 今回はジュス姉さんが囮になってくれているけれども。
 向こうから見て、彼女しか見えないであろう現状。
 俺と子供達が移動しているケースは想定しているハズだ。
 別動隊が来るか否か。周辺警戒も続けよう。

 情報は偵察。ヘルヴィとヘレヴィ。既に向かった。
 通信魔法で状況を知らせてくれる。

『憲兵隊が来て、窓から撃たれているわ。
 入り口が塞がれていて中に入れないみたい。
 探知は……ヘレヴィは3人だって』

 どうも籠城を決め込んでいるな。
 転移手段もあるか分からんけれども。
 しかし探す手間が省けたのは良いか。

 さて、小麦粉の袋が揃った。
 アンヌに通信すると、フシュンと音がして袋が消える。
 転移魔法で回収されていく。
 アンヌが向かったのは、廃教会近くの森。
 窓が見える位置に潜伏して貰っている。

『配置オッケー。袋よぉーし。
 まだ投げちゃダメー?』

 ダメです。タイミングが重要なので。
 しかし用途を察してくれているのは助かる。

 物資が揃ったので、配置に付きます。

 空間、解析、測量、演算魔法。このラインだろう。
 中庭の壁際、屋根で敵から陰になる範囲を割り出す。
 この撃ち返されない位置に弓弩兵を整列させる。

 測量魔法による射線の可視化。
 遠見魔法を組み合わせて屋根の向こうを見る。
 フレスさん達が補助についてくれる。

 弓兵隊、斉射。続いて弩兵隊、斉射だ。
 ヘレヴィより観測状況。矢は教会の屋根に当たっている。
 引き続き射手と観測手で連絡を取ってくれ。
 着弾点を窓に近付けて行こう。

 ただ、これだけで当てるのも難しいだろう。
 当たるまでに相手が逃げてしまう恐れもある。
 という事で、銃士隊は俺に続いて移動してくれ。

 アンヌは次の通信の後、小麦袋の投擲を開始。
 俺を投げたより軽い袋・短い距離だ。
 精度は、全部入らなくても良しとする。

 それだと張り合いが無い?
 じゃあ、20袋中15袋以上入ったら。
 その時は何かご褒美でも考えようか。

『やった! ワクワクして来たわ』
『あーズルい。ボクもー』

 ジュス姉さんは充分活躍しとる。
 言われんでも何か用意するよ。

 銃士隊は屋敷の中、上部階の一室を借りる。
 窓を開けてカーテンを閉める。
 ユッタがカーテンの下から銃を出し、狙う。
 今回はユッタに任せよう。

 授業の一環として、他の子は待機。
 長距離狙撃は周囲が疎かになり易い。
 観測班がついて、周辺警戒。
 当たったとか逃げるぞとか判断するんだ。

 弓弩隊、一度斉射を中止。構えて合図を待て。
 ヘレヴィに通信。窓から顔が出たら言って。

 ……来た。弓弩隊から一斉射。ばららっと揃って矢が飛ぶ。
 驚いて顔を引っ込める所に、続いてアンヌ、投擲開始。

 アンヌが小麦袋を窓へ放り投げる。
 同時期、ヘルヴィから通信。
 小麦の袋が飛び込んで、白煙を上げる窓の映像が来る。

 飛んだ袋が18……19、20。今だ。ユッタ、撃て。

 ターン………………きゅぼっ!
 着弾と同時、廃教会の窓から爆炎が噴出した。

「うぇっ、燃えた!」
「え、ユッタ、なに撃った?」
「えっ……えっ?」

 戸惑う子供達。あれは粉塵爆発だよ。
 非破壊オブジェクト。下手に密閉しているのが悪い。
 探知反応も消失。ひとまず倒しただろう。

 ベイクド・スナイパーなんて別に美味そうでもないが。
 3人だったな。ひとまず顔を拝みに行ってみよう。



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