黒鷲の旅団
18日目(10)狙撃手のカード
「クソがあああ! おらああああああ!」
暴れている男。暴れているけどイモムシ。
縄でグルグル巻きにされた男が暴れている。
暴れているけどイモムシだ。別に何もできない。
廃教会の時計塔で、襲撃犯、狙撃手を3名捕獲した。
案の定というべきか、3人とも神人。
生き返る前にヘルヘレが突入、捕縛してくれた。
神人の狙撃手。一番高レベルがアーヴァレイン。
紅一点、女狙撃手ノクターナ、
あと、暴れイモムシがラタトスク、レベル38。
……はて、ラタトスク。
どこかで会った気がすると思ったら、あれか。
イェンナの居た盗賊集団の一員だっただろうか。
さて、話ぐらいは聞きたい所だが。
「うるせえ! 運営に通報すんぞ!
不当な拘束はペナルティなんだぞ!」
あくまで抵抗姿勢のラタトスク。
未遂でも殺人犯を捕縛するどこが不当だというのか。
同意の無いままPVPを仕掛けたペナルティはどうする。
「は、ちげぇし。俺らが撃ったのはNPCだしぃ〜」
憎たらしさ満載だな、この男。
余裕ぶっているが、余裕の根拠が甘いぞ。
被害者がNPCなら、それを裁くのもNPCの法律になる。
NPC、唯人に暴行・犯罪を働いた場合について、だ。
相応の犯罪者として裁きを受ける事がある、と記載がある。
不当な拘束云々と同じマニュアルに書いてある。
えっ、という顔になるラタトスク。
さては都合の良い所しか読んでいないだろう。
公子公女の管理する屋敷に向けて発砲した。
お前らには公女暗殺未遂の嫌疑が掛かっている。
処刑されれば生き返ると簡単に考えているだろうけれども。
それは生き返られる唯人だって承知の上だ。
生き返った所で、反逆者の烙印は簡単には消えない。
既に退路は断たれた。大人しく縛に付け。
というか、そもそも無駄同然な処刑をするのだろうか。
リュドミラ公女護衛、騎士ジャンナさんに説明を求める。
処刑相当の罪状で、しかし神人の場合はどうなるんだ。
「そうですね。処刑してもすぐ生き返りますよね。
ですので、えー、まず脱力系の呪いの拘束具を付けまして。
後は壁に塗り込める、とかでしょうか。
顔さえ出しておけば簡単には死にません。
それから火で炙るなり虫に食わせるなり拷問を」
「う、嘘でしょ……やだあもおおおお!」
ノクターナが暴れ出す。
暴れイモムシが2匹になった。
そんなに嫌なら話をしろ。弁解しろ。
公女を狙ったのでなければ、俺で間違いないか。
動機は何で、お前らはどういう集まりだ。
「あ、じゃあ、俺から」
狙撃手アーヴァレイン。レベル74。自称ガチ勢。
ルーマニア銃士協会、ブラショヴ支部所属。
参戦の動機は、リアル傭兵と戦ってみたかった。
俺を襲撃する話を聞いて、ラタトスクと雇用契約。
言ってくれれば試合ぐらい……いや、分からんか。
剣士エトワールの申し出からは逃げたんだった。
「お仕事は……お仕事は、選んでください!
銃を撃つのは、差別で石を投げつけるのとは違います!
嫌がらせでも何でも、撃ったら人が死んじゃうんですっ!」
「ああ、うん……ごめんな、ティンバーウルフのお嬢ちゃん。
腕前だけじゃない、スナイパーの矜持か」
ユッタに怒られて、幾らか考えを改める様だ。
子供達を狙って来た事に憤りはあるが、急所は外す腕前。
ラタトスクに比べれば、まだ和解の余地はあるか。
「あーうー……絶対、裏があると思ったんだけどなー。
超懐いてるし……うーん……」
次、ノクターナ。レベル41。ソロの冒険者。
俺の噂の悪い所を耳にして、一泡吹かせたいと思った。
悪い噂って、具体的に何だ。子供達を食い物にしている?
誤解は誤解として、俺から子供達を守る為にと襲撃。
それで子供を傷つけたら、本末転倒じゃないか。
狙撃銃を買ったのは最近。
ソロでは近接戦闘に限界を感じたらしい。
狙撃手としては素人。標的を狙って撃つのが精一杯。
対象がどうの、影響がどうのに気が回らない。
じゃあ、もう、アーヴァレインが指導したら。
ガチ勢なんだろう。腕はある。
「えっ、いいの!?」
「俺はまあ……あー、でも、逮捕が」
殺人は未遂、主犯でなし。
二度としないなら、こちらとしては遺恨にしない。
ただ、公子公女の屋敷に発砲したペナルティが要るか。
保釈金と奉仕活動を条件に釈放、で、どうだろう。
奉仕。何かの折には、狙撃手として手を貸して貰う。
回数限定でも、強制力を持った依頼を出す。
その気は無くとも騒がされた公子公女に権限を譲る。
腕の良い狙撃手、という強力な手札を得る。
政争に掛かるリュドミラとしては望む所であり。
腕を買われたという意味で、アーヴァレインも満足げ。
ノクターナの方は追っ付け腕を磨いて貰おう。
さて、残ったのはラタトスクだが。
どうもこいつ、まだ幾つか物騒なネタを持っている様で……
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