黒鷲の旅団 >18日目(11)喋る尻尾と闇の入り口


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18日目(11)喋る尻尾と闇の入り口

「へ、へへへ、今に見てろよ、クソどもが。
 舎弟の俺に何かあったら、兄貴が、組織が黙っちゃいねえ。
 今に見てろ。地獄を見る事になるんだぜ。へへ、へへへへ」

 気でも触れたのだろうか、ラタトスク。
 組織が如何ほどの物にせよ、国1つ相手にするだろうか。
 俺が幹部とかだったら、尻尾を切って済ませると思うんだが。

 とは言え、その組織とやらの事は気になる。
 随分と得意げなので、この尻尾にはもう少し喋らせておく。

 判明したのは、まず組織の名前。
『暗黒舞踏会』なる犯罪者の集まりの様だ。

 レベル上げに飽きたが魔王には敵わない、ヤサグレた神人達。
 彼らの突出した戦力を利用する、唯人の悪党ども。
 麻薬密売、人身売買。犯罪の依頼人と請負人の温床。
 顧客には大富豪や高位貴族なんかも居るらしい。
 金や権力の後ろ盾か。なるほど、一筋縄では行かなそうだ。

「へへへ……だろうが。更にスゲェ事にはだなあ」

 余程、俺を困らせたい、怖がらせたいのか。
 ホント、ペラペラと喋ってくれる。

 規模は数千人。レベルは100を超えた様なのがウジャウジャ。
 ウジャウジャかー。困っちゃうなー。

 幹部クラスになると300を超える様なのも居て。
 おおー、それは凄い凄い。

 ちなみに一番強いのは。
 聞いて驚け、ボスが課金勢でレベル500とか600とか。
 はっはっは。もう笑うしか無いな。

 あと、場所は? 街外れの古い屋敷。
 地下に入る入口があるという。
 超強い見張りが居るから見に行ってみろとまで。

 聞きたい話は大体聞いた。もう良いよ。
 騎士達に手を振って、ラタトスクを下げて貰う。

「えっ、あれ? 逃がす流れじゃねえのか?
 ちょっ、待てこら! おい! おおおおおい!」

 ちょっとヤカマシイ。防音魔法。

 さて、どうするよ、リュドミラちゃん。
 街道のモンスター強化、闇の気配の出所の1つが出た。
 しかも顧客には高位貴族も居るのだとか。
 上手くやれば政敵の力を削ぎ、名声にも繋がる。
 討伐に値する、とは思うのだが。

「すぐに騎士団を差し向けて壊滅させましょう」
「待って、リュドミラ。ウジャウジャでは規模が分からない」

 ヴィンフリードの懸念。そこだ。
 およその最大レベルから、対抗できなくもないとは分かったが。
 人数次第では取り逃がす可能性も出て来る。

 内情を調査する必要がある。
 問題は、どうやるか、だな。

「内情を調査って、出て来た奴を締めるとか?」
「出て来るかあ? 入ってった方が良くない?」
「人身売買って言ってた。売り物のフリしたら」
「えー、危ないよー」

 子供達もあれこれ提案してくれる。
 売り物のフリは俺も反対だけれども。
 自分から頭を使おうとしてくれるのは嬉しい。
 普段から頭を使って、賢く育っておくれ。

「あっ、じゃあ、こういうのは?」

 アンヌより提案。売り物がダメなら買い手ではどうか。
 顧客に紛れて会場に入る。

 魔王の娘が奴隷を買いに来た、か。
 なるほど筋書きとしては、そう不自然でもない。

 内情を調べて、必要な戦力を整える。
 然る後、討伐作戦を決行する。
 手順としてはそんな所だろうか。

 あとは、ヴィンフリード派の貴族が居るかどうか。
 まさか身内だからと野放しにもするまいが。
 しかし、居るなら別で逮捕して内密に処理しないと。
 悪党は壊滅したが身内も恥を曝した、では締まらない。

「それじゃあ、僕が同行しよう。
 どの道、誰かが面通ししなきゃいけないし。
 魔軍の姫が一人で出歩いたら不自然だろう?
 エスコートもそれなりの上位者が行かないと」

 ヴィンフリード自身から申し出。
 それなら自分も行くとリュドミラが言い出して。
 護衛の騎士達、オロオロ。
 まあ、お前達は来るなとか言われても困るよな……
 選抜メンバーを組もう。護衛も幾らか居て良いだろう。

 俺も行ってみたい。人身売買が気になる。
 人攫いが繋がっているなら、子供や何か売りに出されるかも。
 全部助けられるか分からんが、なるべくなら保護したい。

 悪いが子供達は留守番……と、もうそのつもりでいた。
 魔法教わったりして待ってる?
 そうか、みんな良い子だな。

 しかし、揃って得意げな顔して騎士達を振り返るのは何だ。
 聞き分けの良さか何かで張り合ったのか?

 入り方については、アンヌが見張りとやらに接触。
 噂を聞いたが誰か紹介が要るのか、といった探りだ。
 ヴィンフリードも詳しそうな人物に心当たりがあると。
 万全を期す為、そちらにも当たってみて貰おう。

 潜入は、可能なら今夜。まあ、今夜でなくとも。
 急ぐより万全の態勢で臨もう。

 という事で、一時解散。
 それぞれの役割へ。

 俺は街へ出て、人攫いの足取りを探してみる。
 ダイダロスさんとか見つかると良いんだが。
 錬金術師協会……呼び出して貰えるだろうか。

 支部はどこだろう、と探していると。
 酒場の前に行商のイグナシオ一行。
 途方に暮れた様子に見えるが、どうした。

 ……お嬢様が攫われたって?



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