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黒鷲の旅団
18日目(14)思惑はそれとして

「あ、そっちも出発ー?」
「行ってらー」

 潜入作戦開始がてら。公子達の屋敷の入り口。
 駆けて行くツェンタ、アイリスとすれ違った。

 子供達は小隊ごとに分かれ、街の各門に向かう。
 守衛の詰め所に置いて貰って、監視や探知に当たる。
 見るべきは怪しい馬車の出入りが無いか。
 ロベルティナ嬢が街の外に連れ出されないかどうか。

 こっそり追跡する気だったマルカ達だが。
 別の任務を任されて、どうやら納得してくれた様だ。
 冒険心の発散、というだけでなく。
 お嬢様の救出の為、何かしたいというのもあったのだろう。

 ちなみに転移魔法による搬送は監視出来る。
 各都市の魔法管理局にログみたいなのが残るらしい。
 少なくとも、どこに飛んだぐらいは分かるはずだと。

 犯罪者サイドも、その辺は知っていて。
 だから、足がつく転移魔法を使う可能性は低い。
 一応ヘリヤとシャンタルが局に詰めてくれるのだが。
 門を見張る意味合いも小さくはない。

 勿論、門の監視にも危険はある。
 奴隷商人の護衛、人攫いの集団と遭遇する可能性がある。
 格上、あるいは多数が相手だと、返り討ちに遭うかも知れん。

 緊急対応用の戦力として、ジュス姉さんが屋敷に残ってくれた。
 酷使する様で悪いが、またお願いします。

「いいよー。ボクもこっちのが性に合ってるし。
 あーでも、昼間の分と合わせて、ご褒美よろしくぅー」

 そうだった。何か用意してやらんと。

 アンヌも小麦袋を20袋中17袋ぶち込んだ。
 目標達成、ご褒美の約束がある。
 怪我を、怖い思いをしたイェンナにも何かやりたい。
 しかし、裏社交界なんかで何か見つかるだろうか。
 別で探した方が良いかな……

「よっ、準備はもう良いのか?
 意外とちゃんとしているな」

 正面玄関でエドヴァルト公子に声を掛けられた。

 ちゃんと、とは礼装の事か。
 裏社交界でも、社交界は社交界だ。
 みすぼらしい恰好で行くと侮られる。
 頑丈さではなく金銭価値が防御力になる世界だな。
 何だかんだ、ドレスコードを用意して良かったと思う。

 それにしても……協力してくれるのは有難いとして。
 どういう思惑から協力してくれるのか。
 エドヴァルトは解析した限り、ディートリッヒと母親が同じ。
 第2公子・第2公女派閥だと思ったんだが。

「ただの善意、つっても信じないか。保身だよ。
 俺は別に、派閥のトップってワケじゃない。
 上がヘタ打った時、連座で処刑はご免だろう?
 だから恩を売る。何かの時に口添えして貰うのさ。
 お前も、兄貴か弟になったら頼むぜ?」

 なったら、って……なるの?
 リュドミラとの仲を邪推しているのだろうか。
 それともアンヌの方かな。
 他方、兄貴とブランがくっついて、的な。
 ディート何某が兄さんとか、あんまり想像つかないが。

 それにしても、兄弟間、派閥内でも保身が必要とは。
 エドヴァルト側の兄弟仲は良くないんだろうか。

 少し遅れてヴィンフリード達が合流。
 フレスさんもドレスを着て来てくれた。
 相変わらず少しモジモジしているが。
 それでは裏社交界、『暗黒舞踏会』への潜入に移ろう。

 選抜メンバーは、案内のエドヴァルト公子を筆頭に。
 ヴィンフリード公子、リュドミラ公女。
 リュドミラの騎士ジャンナ、ヴィンフリードの騎士マクシーネ。
 俺の方からは、俺とアンヌ、トゥーリカ、フレスさん。
 イェルマイン、マグダレーナの兄妹。

 子供達は先に述べた通り、各門へ配備。
 イェルマグ隊の従者、お姉さん・少年兵チームも同行する。

 花人・魔物従者隊は自宅に戻って貰った。
 特にアンゼさんは、日が落ちたら吸血鬼達を迎えに行く。
 手隙の者は農業にも当たって貰う。

 それと、アンヌが連絡した魔人姉妹。
 双子の妹デルフィエンヌは、来たがったが都合が合わず。
 魔道のヴァラン、騎獣のベルナが来訪予定。
 ただ、少し遅れそうだとか。
 ブランディエーヌは他に用事がある様だ。

 あとは俺から声を掛けた自由陣営。
 グレッグとイメルさん、ロッシィが先行。

 暗殺教団は暗黒舞踏会にも繋がりがある様だ。
 イメルさんの方で紹介状を用意出来ている。
 サナトスは領地経営で忙しいらしい。
 代わりにロッシィだけ送って寄越す。
 グレッグ達と合流して先に会場へ向かった。

 他に……傭兵アシュリィ。
 声を掛けたらウエルカム的な事を言っていた。
 あいつは元々あっちの常連なのか。

 人員はそんな所として。
 段取りは、まず受付で人攫いの受け渡しを確認。
 そこでお嬢様が見つかれば交渉へ。
 見つからなければ探索しつつ、オークション開始を待つ。

 暗黒舞踏会の探索。内部調査。
 規模、何が出回っているか、貴族の誰々が居ただとか。

 というか、内部調査。
 詳しいんならエドヴァルトに聞けば良いのでは。

「いやあ、男なら一度はリアルに行くべきだ。
 凄いぞー。ふっふっふ。まあ、行けば分かる」

 何だか含みのあるエドヴァルト。
 あの顔は何というか、悪い遊びに誘う悪友みたいな。

 まあ、とにかく潜入だ。現地に向かう。
 行かない事には始まらない。



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