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黒鷲の旅団
18日目(15)見ちゃったものだから

「きゃー、可愛い。エドちゃんの知り合い?」
「あらあらぁ、赤くなっちゃって」
「良いのよ? お姉さんに触っても良いのよ?」
「え、あ、あの……た、助けて〜」

 エドヴァルトの言っていたのは、これか。

 暗黒舞踏会、場内。さしずめ地下歓楽街といった所か。
 お色気給仕だの、破廉恥なダンサーだのがウロウロしている。
 そんな所に連れて来られた美男子ヴィンフリード。
 オロオロしているのを可愛がられ、連鎖的に囲まれて行く。

「まあ、これだ。ちょっと想像以上だったが。
 貴族がウロウロしてりゃあ、金目当てぐらいは寄って来る。
 しかし真面目な話、ヴィン兄は女に免疫付けた方が良いぞ。
 ハニートラップなんて初めてじゃないだろ。
 お前の方は平気そうだな。意外と遊んでるのか?」

 俺は……慣れてるって程じゃない。
 むしろエドヴァルトが慣れ過ぎだろう。

 しかし、そこまで慣れていれば心配も少ないか。
 リュドミラやアンヌはエド兄さんに預けて行く。
 俺は同伴者随行の体で、フレスさんの肩を抱いて離脱。

 フレスさん、身体が熱い。具合でも悪いのか?
 演技でも触れられて嫌だったら言ってくれ。

「だだだだ大丈夫です。すみません。
 お嬢さんを探す、お嬢さんを探す。
 よし。はい。行きましょうっ」

 気合を入れ直すフレスさん。
 ちょっと無理している感。
 大人の女性っても、純真な人だ。
 連れて来るべきじゃなかっただろうか。

 ともあれ、攫われたお嬢様を探す。
 人攫いだとか、誘拐の請負人はどこだろう。
 どうもこの界隈は、壁越しの探知が効かない。

 案内所の様な所があり、聞いてみる。
 と、まさにその場所だった。
 暗黒舞踏会、事務局。ギルドの受付の様な所。

「攫われたお嬢様を買い戻そうって?
 まあ、何でもアリが暗黒舞踏会のモットーさ。
 客と交渉する分には、こっちは干渉しない。
 さて、どうだい、お目当ての娘は居るかい?」

 用件を申し出て、裏手へ通して貰った。
 案内された先、パッと見は牢屋の様相。
 引き渡しを待つ誘拐被害者の檻が並ぶ。

 探知スキル、目視でも確認。
 ロベルティナお嬢さんは居ない。
 別件、引き渡しを待つ、誘拐被害者が6人だけ。

 誘拐被害者で、ここに居ないとなると?
 受付・仲介役の男、マティアス。
 やはりオークションの方だろうという。
 分かった。足を運んでみよう。

 足を運び……かけて。

「助けて……助けて」
「怖いよお……」

 すすり泣く誘拐被害者達の声。
 別件だが……見ちゃうと気になるな。

 マティアス、聞いても良いだろうか。
 誘拐依頼、何の要件で攫われて来たのか。
 彼は指でお金のマークを作って……はいはい、情報料ね。
 ウインドウ表示額10万相当、金貨1枚を握らせる。

 被害者の内訳は……
 魔術の生贄用、1人。
 対立派閥の娘を見せしめに殺す為、1人。
 求婚を断った相手の男から、1人。
 あとは、用途は違えど奴隷にする目的で、3人。

 ……依頼人に交渉してみようか。

 金はエドヴァルトから2千万、遊ぶ金と称して貸してくれた。
 素行はともかくとして、素性の確かな人物だ。
 特許収入、返す当てもある。この際、使わせて貰う。

「んー、まあ、倍値出すってんなら……お、出すのか?」

 奴隷目当ての連中は、依頼金の倍値を支払うと引き下がった。
 無論、後日その金でまた依頼を出すのだろうけれども。
 その場しのぎでも、救える命を救わないのは寝覚めが悪い。

「もうやめよ? あんたホントは優しい奴でしょ?」
「だ、だけんど、俺……俺なんて」
「あんたの良さが分かる人はきっと見つかるって!」

 求婚者の件はトゥーリカが説得してしまった。
 相手の本質を見抜く洞察力……と思ったら読心魔法。
 まあ、相手の傷心も和らいだなら、それでも良いか。
 心を入れ替える様なので、依頼料は立て替えてやろう。

「お待ちなさい、ルドヴィグ!」
「くそっ、何でフレスヴェーナが!」

 生贄の件。依頼人。フレスさんが顔を知っていた。
 魔術師ギルドの幹部らしい。

 2人は半時ほど、ホウキで飛行チェイス。
 会場内は沸いたが、取り逃がしてしまった。
 それでも、受け取りを放棄したとみなして貰う。
 代わりに代金を支払って、身請けしよう。
 やっぱりフレスさんは連れて来て良かったよ。

「ぜえ、ぜえ……お役に立てて、良かったです……」

 あとは見せしめの件だったが。
 仮面をつけた代理人が来て、依頼はキャンセルだと。
 違約金を支払って、誘拐被害者はオークションへ……

 ちょっと待った。俺達で引き取りたい。
 依頼料は代わりに支払うので。

 仮面の男は少々難色を示したが。
 家族共々、国外に連れ出すというと納得してくれた。
 政敵側に誘拐の件を触れて欲しくなかったのだろう。

 仮面の男が去って、一段落。
 支払いは誘拐依頼料1件100万の立替えが3件。
 その倍値を払って引っ込ませた200万が3件。
 痛い出費だが、目の前の被害者は助けられて良かった。

 さて、後はロベルティナ嬢を探さないとだが……

 不意に通信魔法。イェルマインから。
 お嬢さんが見つかった?
 オークション会場……ではない。
 え、何、どこだって?



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