黒鷲の旅団
18日目（17）今一度、闇の中へ

「えー、また行っちゃうの？」
「晩ご飯はー？」
「一緒に戦いたい……」

　各門の配備から、ポータルでの帰還を指示。
　幾らか不満の声が上がっているが。
　子供達は取りあえず、健康は問題無さそうだ。

　晩ご飯は先に食べていてくれ。
　一緒に食べられなくて、ごめんなー。
　まだちょっと仕事が残っているんだ。

　どうにか言い包めて待機させる。
　対立派の魔人が待ち受ける、転移制限もある閉鎖空間。
　ハイキング気分で連れて行くには危険が過ぎる。

　俺ばかりじゃなく、子供達から報告は無いか。
　門の配備、見張り役。何か見つけた物は。
　特に目立った成果は無し、か。
　ありがとう。何事も無いと確認するのも大事な事だ。
　礼を言ったら、ションボリが少し和らいだ様子。

　俺が連れて来た誘拐被害者７名は、引き続き保護。
　誘拐のある街を夜また出歩かせても怖い。
　公子達の騎士を経由して、衛兵へ連絡。
　帰る所に無事を知らせて貰って、明日また送って行こう。

　帰る場所……が、無い子も多いが。

　行商イグナシオの娘、ロベルティナ嬢。
　求婚を断って誘拐されたミランダ。街の商人の娘。
　この２人はまあ、親元に返せば良いとして。

　奴隷ないし生贄にされる所だった４名。
　フリーダ、リリヤ、ダーシャ、ルジェナ。
　彼女らは孤児で帰る所も無い。

　対立派閥に消され掛けた騎士の娘、エルゼ。
　彼女も国外退去させないと、追手が掛かる身だ。

　エルゼの件、ヘリヤが家族を呼びに行ってくれた。
　再就職先は……そうだな。イーディスの所で良いか。
　何枚も貰った嘆願書。ここで１枚使っても問題無い。

　イェルマグ隊の方は帰還したか。
　ノインテリアさんに通信。と、マグ様が心配？
　イェルマグ兄妹はまだ会場、公子達と一緒。

　どうせ魔人が壊滅させるなら、調査は無駄も良いトコだが。
　エドヴァルトが顔見知り達に避難を促している。
　悪ぶった所もあるが、慕われるに足る器らしい。

　少年兵チームは帰還、お姉さんチームは加勢に向かう様だ。
　相手方には高レベルの魔人が居る。無茶をしない様に。

「こちらの加勢は必要かな？」

　そうだった。ロンネフェルト伯爵。
　吸血鬼一行が自宅に到着している。

　吸血鬼が砦を越えるのは難しい。
　ので、彼らには少し回り道して貰った。

　１回使い捨ての携行ポータル、というのがある。
　アンゼさんにこれを持たせ、ブカレスト側に転移。
　吸血鬼達は北上ではなく南下し、彼女と合流。

　ん、当のアンゼさんは……

「ああーう、ビックリした〜」

　遅れて到着。やっぱりか。
　使い捨てポータルで吸血鬼達が転移。
　の後、置き去りにされてしまったのだろう。
　そんな事もあるかと２個持たせておいて良かった。

　携行ポータル……１個50万。
　魔女協会でも取り扱いがあります。

「ぬ、すまぬ。置き去りに気付かなんだ」

　伯爵。俺もよく分かってなかった。
　どうやら１パーティが通過すると消滅するらしい。
　幸い想定内なので、気にしないでください。

　夜間に入るので、吸血鬼は活動可能。
　問題は、魔人側が魔物を放ち、混戦になった場合。
　守備隊と咄嗟に対立する可能性がある。
　俺が仲裁して回るとして、大勢で分散した活動は難しい。

　結論。加勢はクラウディオさんを借ります。
　伯爵を連れて行くと、他が皆来るって言うだろう。
　伯爵は子供達の話を聞いてやってください。

　黒鷲団、選抜メンバー。
　俺、フレスヴェーナ、クラウディオ、ジュスティアーヌ。
　再出撃。転移魔法で暗黒舞踏会の転移中継端末へ。

　と、転移した途端に白刃が顔に飛んで来た。
　咄嗟に義手で払う。が、追撃には至らず。
　ジュス姉さんが戦槌の横薙ぎで粉砕。
　崩れ落ちるのは武装したスケルトンか。

　索敵……相変わらずの探知阻害が邪魔だが。
　認識できる範囲に７〜８体。
　レベル50前後のスケルトンが徘徊している。

　魔人達が放った、とは想像に難くないが。
　アンヌの追跡がバレた？
　それで事を急いだのだろうか。

　どうもスケルトン、無差別に住民を襲っている様で。
　後方で悲鳴。左翼で罵声と金属音。
　全部構うのは無理だ。方向を決めよう。

　まずは味方と合流を果たしたい。
　通信魔法。イェルマイン、公子達はまだ無事か。
　どこかの店に立て籠もっている様だ。

　援軍は。ヴァランとベルナが街の門に着いた。
　シャンタルが迎えに行ってくれた様子。

　グレッグ、イメル、ロッシィ……既に戦闘中。
　アシュリィは通信先から高笑い。元気そう。

　あと、アンヌ……アンヌは大丈夫か？
　通信は繋がったが、返答が無い。
　荒い息遣いと、乱れた視覚映像。
　それから、血。出血しているのか？

『う、大丈夫よ……先に、リュドミラ達を』

　朦朧としている様子。
　お前も放って置けんだろう。
　待ってろ。すぐに迎えに行く。

　ジュス姉とフレスさんを公子達の元へ。
　俺とクラウディオさんでアンヌを探そう。

　子供達は安全圏だ。たまには強行軍も良い。
　アンヌの救出がてら、少し暴れさせて貰う。