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18日目(18)強行

「見事。守り役など不要ですかな」

 ロンネフェルト伯爵付き、執事クラウディオ。
 今回は敵との相性が良いだけだろう。

 敵は主にアンデッドだが、更に主にがスケルトンだ。
 ゾンビと違って構成分子が少ない。
 分解魔法付与による粉砕が捗っている。

 次、スケルトン3体。刀に分解魔法付与。
 縮地で左脇を抜けながら、音速剣の袈裟斬りで斬る。
 爆散するスケルトン1体目を尻目に、縮地、半歩前。
 音速剣返し刃、右への斬り払いで2体目の腰椎を断つ。

 分解魔法さえ効いてしまえば、俺の腕力は関係無い。
 痛みがちな刀剣類も、手持ちが多数ある。交換すれば良い。

 問題は魔力消費だろうか。
 高レベルのスケルトンは、人間の骨より強度が高い。
 一撃当てて要所を全損させるには、相応の魔力量が要る。

 それでも『狙って』『飛ばす』が省かれている。
 魔法として発射するよりは幾分消費が少ない。

 次、3体目……手練れか?
 俺が繰り出す巻き撃ちを、斜め後方半身引いて回避。
 続けて返す刃を刀で受け止めて来た。
 刀。甲冑も東洋式だな。サムライのスケルトンか。

 鍛錬の途中なら、このまま斬り合うのも良いのだが。
 生憎と急ぎだ。さっさと片付ける。

 水、分解、雷、濃縮、精製、炎。
 重水素、重陽子爆発魔法デューテロン。
 範囲を絞ったつもりだが、派手に爆発した。
 危ないな。衝撃は障壁魔法で緩和。
 サムライスケルトンは跡形も無い。

 威力はともかく目立ち過ぎでは、とクラウディオ。
 音か光に気が付いて、他の魔物が集まって来ている。

 これは折衷案だ。こちらに敵を引き付ける。
 その隙に住人が、非戦闘員が避難……出来たら良いなー。

 勿論、アンヌを助けるのが最優先なのだが。
 そこかしこで悲鳴。気にならないと言えば嘘だ。
 嘘だけれども、戦力を割く余裕も無い。

 強行。強行だ。アンヌを探す。
 戦闘は終了していた様だが、深手の様だった。
 あの頭に弾丸が入っていてもピンピンしている娘が。
 いや、あの時のダメージも残っていただろうか。

 探知の攪乱された状況。
 捜索はクラウディオ氏、吸血鬼の感覚が頼りだ。
 魔人の血は霊力がケタ違いらしく、気配で分かるとか。
 最寄りの気配を追って行く。
 これで、もし違う魔人に当たる様なら……
 その時はその時だ。アンヌの場所を聞いて逃げよう。

 次……重装騎士のスケルトンと、サムライ型の連座。
 盾が分解される間に、という構成だろうか。
 悠長に凌ぎを削る暇は無いってば。

 魔法だ。空間、裁断、分解、転移、重力、崩壊。
 発動は空間侵食魔法ヴォイド。
 限定空間を切り取る様に物質を崩壊させる。
 スケルトン2体が鎧諸共、球状に切り取られて消えた。

 直径数mの小範囲だが、強力。
 重力・崩壊はSFの真似事が捗るというか……

 ごふっ。俺は唐突に血を吐いた。
 寒気、頭痛、眩暈……何だ、これは。魔法の反動?
 解析を自分に。HPゲージが3割ほど削られている。

 保有魔力より大きな魔法を発動してしまったらしい。
 らしいが、警告は何も……そうか。
 この前、警告ウインドウを連続で表示キャンセルした。
 表示されない設定、みたいな物が残っていたのだろう。

 幸い、死ぬほどの消費オーバーじゃなかったから良いが。
 再設定が要るな。警告表示は1回でもあった方が良い。
 クラウディオ氏に先行して貰い、一息。
 脳内ウインドウで警告表示を探しつつ。
 魔力薬を2本かっ食らって、すぐ後を追う。

 足元を大型のオオカミが駆けて来る。
 敵側の放った魔物の一部か。鑑定はダイアウルフ。
 拳銃で撃ち殺すと、すぐゾンビになって追って来た。

 これ、やっぱり死霊使いが居るなあ。
 スケルトンが居るだけなら、搬送して来た線もあったんだが。
 その場でアンデッドを作り出している奴が居る。
 まあ、今考えても仕方がない事だが。
 ゾンビはスケルトンより分解が効き難いから困る。

 ダイアウルフゾンビは粉砕魔法で排除。
 分解魔法よりも力技だ。消耗が大きい。
 かといって、閉鎖空間で火が出る技は使いたくなし。
 重陽子魔法も、正直使って後悔した感。
 何か他に丁度良い手段があれば……

「ぬう!?」

 ふと、クラウディオ氏が声を上げた。
 前方に魔人……魔人ベレンジェリエと、もう1人。
 しかし、満身創痍といった様子に見える。
 1人は気を失っていて、ベレンが担いでいる。

「貴様か……くそ、命運尽きたという事か。
 神人なんぞと刺し違えた所で……」

 ベレンジェリエ、レベル944。残りHPは2ケタ程度。
 一撃貰えば致命だが、クラウディオ氏がレベル322。
 上手くやれば、トドメを刺せなくはない……のか?

 ……やめとこ。リスクも小さくない。
 今はアンヌを探すのが先だ。

「情けを掛けるつもりか。我らは魔人ぞ。
 例え弱っていても、人間種ごときに」

 強がるベレンだが、こっちも急いでいるんだ。
 外への転移端末は……と、そこを曲がって右。
 撤退するなら追わない。戻って来るなよ。

「……フン、礼は言わんぞ」

 それは、礼は言わんけど内心感謝するって事だろうか。

 ベレン達とすれ違い、数十m。
 クラウディオ氏がアンヌを見つけた。
 瓦礫に囲まれた空き地で、ぺたーんと尻餅をついている。
 あまりに力無さげで心配になるが……
 こちらに気付いた。一応笑顔だな。

 無茶をした様だが、それはお互い様か?
 とにかく生きていてくれて良かった。



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