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黒鷲の旅団
18日目(19)戦果それぞれ

「ん? ふふ、なあに? そんな顔して。
 ちょっと、ぼーっとしてるだけだから」

 座り込んでいるアンヌ。笑顔だが覇気が無い。
 レベル3ケタの魔人元気娘がぼーっとする状態。
 一体どれだけ消耗しているんだ。
 手は出すなと言ったつもりだったんだが。

 心配なので診断と解析。
 症状……『進化更新中』とは何ぞや。

 進化、何を更新して……と、1つ思い当たる。
 蟲毒の儀の話。同格以上と競って研鑽する。
 敵対する魔人と戦って、何か素養を得たのだろう。

 治癒、活力、鎮静、整脈、解熱魔法。
 疲労回復を助けつつ、詳しく解析する。

 アンヌの戦闘適性が『A−』から『A』に。
 耐久適正が『S−』から『S』に上昇。
 敏捷適正が『A+』から『S−』。
 魔力適正は『S』が『S+』になった。らしい。

 パラメータは……遡って更新されるのか。
 レベル×成長係数に成長曲線で補正して、基礎パラメータ。
 レベルが上がった後になって、成長係数が進化した現在。
 最初からその適正だった、という強さに再計算される様だ。
 その急成長が身体に馴染む過程が、今ぼーっとしている状態か。

 あとは……何かログに気になる表示があった。
『魔人デルフィアンヌの席次が114から89に上昇しました』
『冒険者ギルドにおける脅威度判定が更新されました』
 魔王軍に介入とか、強化に手を貸しちゃった……様な。
 これはちょっと、手放しで喜んで良いのやら。
 ムフムフ笑っているアンヌを見ると、これで良い気もする。

「むふふふ……やったわ。褒めて褒めて」

 褒め……うーん、褒めるけど、1個叱るぞ。
 危ない事して、あんまり心配させるな。
 頭を撫でてやる。と、両手で俺の手を掴む。
 掴んで、頬にすりすり。何だか甘えている?
 そのまま撫で続ける。よしよし。頑張った頑張った。

「無事か……ふふん、邪魔したかな?」

 イメル、グレッグ、アシュリィが合流。
 連中は俺より先にアンヌと合流して、しかし動けない彼女。
 代わりに周辺の魔物を掃除してくれていた様だ。

 そう言えば、敵方の動向は何か分かったのか。

「もう解決したぞ。これだ。
 闇オークションにコイツが出るのを奪いに来たらしい」

 アシュリィが投げて寄越すのは、槍。
 槍だが、誰かの斬られた腕がくっついている。

「それ。ジェル姉のだわ。焦土の魔人ジェルヴェリット。
 レベル1477なのに、よく斬れたわね。まあまあだわ。
 剣の技だっけ? ゴバ……何とかって」

「碁盤斬り、だ。防御を貫通する剣技スキルを持っている。
 そういう貴様もまあまあだったぞ」

 拳を突き合わせるアンヌとアシュリィ。
 先にアンヌが戦っている所、後からアシュリィが来たらしく。
 3対1でも怯まないアンヌに、アシュリィは一目置いたのか。

 アシュリィは戦闘狂といった印象が強かったのだが。
 社交性も身に着けた様で、おじさん嬉しい。

「ふふん、ほらまた保護者気取りだ」
「ねー。もうちょっと対等に見てくれても良いよねー」

 揃って口を尖らせる。もう大分仲良しか。

 で、肝心の槍だが。鑑定してみる。
 レア度7のP、プレスティージアス級。
 神銀合金製騎士槍エーデルシュトラール。
 純神銀製でなく、俺が公主に贈った槍には少し劣る。
 とは言え高性能。魔王軍に渡ったら脅威になっただろう。

 その肝心の槍を奪還して、じゃあ敵方の魔人は撤退したか。
 俺の知らぬ間に事態が終結している。
 まあ、異世界人も俺だけじゃなし。
 人それぞれが主人公なのは、現実も異世界も同じだ。

 ジュス姉さんに連絡。状況は。
 公子達にはフレスさんをつけて、既に避難を開始。
 自身はイェルマグ隊と、残ったモンスターの掃除中。
 ベルナとヴァランも?まだか。
 まだだが合流を目指している様子。

 件の槍は、グレッグ達が持って行く。
 暗殺教団に奪取の依頼が出ていたらしい。
 どこかの貴族経由で、真っ当なオークションに掛けるとか。
 アシュリィは通り掛りみたいなもので、これを取得。
 グレッグ達に同行して報酬の分け前を貰う。

 そう言えば、もう1人居ないな。
 通信。ロッシィさん、今、何だ。火事場泥棒か。

『げっ。バレてるし』

 げ、じゃねーよ。連絡ぐらいくれ。
 俺だって別に逮捕権は無い。
 ただ、その手があったか、とは思った。

 名残惜しむアンヌをクラウディオに預ける。
 俺は闇オークションの会場、更に裏手へ向かった。

 階段を降り、更に地下へ。
 魔人が魔物を放ち、自分達でも槍を探し回った場所だ。
 出会ったであろう奴らは大体挽き肉になっている。

 出品を待つ商品だのはどこの部屋だ。

「おっ、来たじゃん」

 宝物庫らしい所でロッシィがモソモソ動いていた。
 持ち切れずに遺棄された商品が山の様に残っている。
 目玉商品は無いが、それでもレアとかSレアとか。
 そっちは任せる。分け前は別に要らん。

 更に奥には格子のついたドアが開いていて。
 血と死体……無抵抗な奴まで、わざわざ殺したのか。
 生存反応が2。一方は死んだフリで逃れたらしいのだが。
 もう一方は要救助者。瀕死。すぐ処置に掛かる。
 縫合、造血魔法で一命は取り留めた。

 誘拐被害者2名を追加で救出、と。
 俺の方の戦果としては、こんな所だろうか。
 2人を連れ、ロッシィにも声を掛けて脱出へ。
 まあ、出来るだけの事はやった……かな。



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