黒鷲の旅団 >18日目(20)知覚外の不意打ち


黒鷲の旅団
18日目(20)知覚外の不意打ち

「ハーちゃ……あっ、あらららら?」

 ごすっ。どん。がしゃん。ぐぇっ。

 リンクを切った途端、カシューさんが膝の上に居た。
 驚いた俺は、椅子ごと後ろに引っ繰り返った。
 倒れながら頭を打って、テーブルが転倒。
 痛過ぎる。顔に降って来た柔らかい物を意識する余裕も無い。

「あああ、大変! ハーちゃん、痛い?
 どこ痛い? ああん、ごめんねー?」

 ちょっ、どいて。カシューさん、一回どいて。
 締めながら頭とか撫でるとかしなくていいから。

 引っ繰り返ったテーブル。端末は、諸々の機材は無事か?
 ああ、ダメか。ちょっと割れてしまった様だ。
 画面の花人達は、ひび割れを避ける様な姿勢をしている。

『ご主人、だいじょぶー?』
『ヒールするかー?』

 いや、ゲームのブラウザ越しにヒールは届かんだろう。
 気持ちだけ貰っておこう。

 しかし、何だってカシューさんが。
 仮眠がてらのリンク。鍵は掛けていたハズだが。

「あっはは。サプライズ失敗?」

 部屋の椅子、もう1つ。回る奴がぐるりん。
 座っているのはボーイッシュな娘……ロッシィ。
 鍵を開けて侵入したのはお前が首謀者か。

 産業スパイ。自称怪盗ロッシィ。
 専門はピッキングから暗号解読、電子キーの解除まで。
 何かと手癖の悪い娘なのだが、俺の部屋で何をやっている。

「ん? そこに鍵があったから」

 鍵があったら破るのか。
 そこに山があるから、みたいな格言を作るな。

 テーブルを起こしてブラウザを設置し直す。
 椅子を起こしてカシューさんを座らせて。

 と、手を取ったら、握ってなかなか放してくれない。
 一回放して。はい。放して。おーい。
 放してくれない。一体どうしたんだ。

「だってアンちゃんばっかりラブラブですもの。
 お姉ちゃんだってイチャイチャしたいでーす」

 むすー、と頬を膨らませる。
 アンちゃんというのはアンヌちゃんですか。
 ラブラブ?はともかくとして。
 一体どこから見てたんですか、このお姉ちゃんは。

 どうも聞く限り、神人の特権というか機能というか。
 血縁者。跡継ぎNPCみたいな、血を分けた唯人達。
 その子供達の体験を、神人は追体験、垣間見る事が出来る?
 乗り移ったり干渉は出来ないらしいのだが。
 それでも、自分の物語のサブストーリーとして。

 しかし、だとすると。
 ペーターも見ているかも知れんという事か。
 あいつ、何かと茶化して来るからなあ……

 まあ、とにかくカシューさんだ。
 アンヌの近況を垣間見て、構って欲しくなったのだろう。

 はいはい、可愛い可愛い。
 カシューちゃん可愛い可愛い。
 頬をさすっていると、デレデレした顔になった。

 別に、年相応にどうこう言うつもりは無いが。
 年上ながら子供みたいな要求をする。
 挙句、全身義体。戦闘用でないにせよ。
 見ただけで彼女の年が分かる奴は、そう居ないだろう。

 そういうのがまた、手練手管なんだろうなあ……
 時に大人びたり、弱みを見せたりだとか。

 ふと、メールの着信音。
 見ると、すぐそこに居るロッシィから。
 内容は、レアアイテムの譲渡?

「ほら、分け前、分け前っ。
 結構掃除して貰ったじゃない。モンスターとか。
 可哀想な子も助けたし、結構ボクら良いコンビじゃん?」

 どうやらロッシィも、先ほどまでリンクしていた様だ。
 俺みたいに寝ながらじゃないが。

 闇オークションの倉庫からくすねた品々。
 好きなのをくれるというので……
 見ると、狙撃銃が1つある。
 イェンナの土産に貰っとこう。

「へへ、毎度〜。また今度、一緒に冒険しようぜぃ。
 ダンジョンとか潜ったりさ」

 ダンジョン……子供らを連れて行くのは怖い。
 活発な子達は喜ぶだろうけど、準備不足だな。

 まずは本当の相方を誘えよ、と。
 しかし、サナトスは領主の仕事が忙しいんだったか。
 まあ、何か機会があったらな。

 満足した様子のカシューさん、仕事に戻る様だ。
 ロッシィ共々、戸口まで送って……

 ぴき。ちゃりちゃり。
 室内で何か細かい音がした。何だ?
 振り返っても端末があるだけだ。

 そうだ。修理の手配をしないと。

 社内の総務に連絡を取る。
 返答。交換って線もあったか。
 どの程度の損傷か聞かれる。
 端末……端末の被害は、と。

 あれ、画面、ひびが無い。
 割れてなかったっけか。
 おかしいな……アンゼ達、ひびは?

「直ったー」
「錬成の魔法したー」

 ……は? え? 何だって?
 ブラウザの中から、現実世界に干渉した?



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