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黒鷲の旅団
19日目(1)未だ平穏は遠く

「ホントに……これ、貰って良いの!?」

 朝食時、イェンナにお土産を渡した。
 ロッシィに貰った狙撃銃、ユニークアルパインTPG−1。
 型式でなくメーカー名だが、アルパイン。深い山。
 ユッタの、PGWティンバーウルフの相方にどうだろう。

「へぇ〜……へぇー……ほぉおー……」

 ぐるぐると回して眺めるイェンナ。
 感嘆符だらけだが、顔は嬉しそうだ。
 同じ銃士隊のカリマ達も興味津々。
 お前達にも、また今度探してやるからな。

 朝食の場所は公子達の館で。
 誘拐被害者の家族にも集まって貰った。

 ロベルティナ嬢の家族、行商イグナシオ達。
 ミランダの父、地元商人のパターソン氏。
 エルゼの父、騎士ユルゲン・ディンドルフ、妻フロリーナ。

 彼らには俺よりも、公子達から話をして貰った。
 誘拐組織を取り締まれていなかった事について。
 救出に掛かった費用は公王家で負担する。
 治安維持についても体制を見直していくと約束する。

 要は、良い領主として勤める。
 だから変わらず支持して欲しい、という事だ。

 俺からは礼を要求しない。
 他国の商人に伝手が出来ただけで十分だ。
 娘を嫁に、とかは勘弁してください。
 人助けの度に嫁を貰っても困る。
 気まぐれや成り行きでも、あと何人助けるか分からん。

 謝礼は要求しない……が、そうだ。
 ジュス姉さんの買い物。
 鉱石を買い付けに来たんだった。
 取り扱う商店を紹介して貰おう。

 それから、騎士ディンドルフについて。
 忠義の人らしく、ニ君に使える気は無いのだと。
 生涯を公王家に捧げるつもりでいた。
 兵卒上がりで、公女シャルロッテに恩義がある。
 国外退去については否定的な様だ。

 しかし、助かった娘をまた危険に晒すのか。
 覚悟は出来ています、とエルゼ。
 たかが騎士の身分で重過ぎないか、とエドヴァルト公子。

 そもそもは、対立派閥を狙っての犯行と聞いた。
 派閥……どこの。公子公女じゃないのか。
 同じ騎士団の中で意見、派閥が割れている様だ。

 代案として、国外派遣ではどうか。
 他国の内情を探りに行く。
 当面の危険から遠ざかりつつ、家臣の関係は保たれる。

 騎士団内の派閥については、エドヴァルトが対応を表明。
 仲間割れしている騎士団など、実践で役に立つものか。
 騎士団長には募兵の許可と脱退の制限解除を迫る。
 対立しているメンバーにはもう1つ騎士団を作らせる。

「ま、ちょっと兵を増やした所で。
 こいつには、良い様にやられちまうんだけどなー」

 俺を指すエドヴァルト。
 まあ、俺と当たるかは状況次第だけど。

 状況。少なくとも今の所、戦争に来たワケじゃない。
 今日の予定としては、ポータルでブカレストに戻ろう。
 ジュス姉さんが買い付けた鉱物資源をハミルトンの店へ。
 物資を補充したら、また訓練に出るとしよう。

 今度は広い所が良い、とティルア。
 見回すと、子供達の頭が揃って上下に頷く。
 森林での射撃戦は気を張って疲れるか。
 確かに今回は準備不足だったな。

 一生森を避けて暮らすのは無理だとして。
 次に来る時はもっと装備や戦術を増やしたい。
 難度の低い所で新人も慣らさないと。

 新人。帰る所の無い孤児達。
 誘拐被害者のフリーダ、リリヤ、ダーシャ、ルジェナ。
 闇オークションの裏手で殺され掛けたマリッタとアルメル。
 編入、という事で……異論は無さそうだな。
 先輩達は揃って笑顔。受け入れムードの様相。

 新人側の方は……ちょっと顔が暗い。
 これから酷い事するの?とリリヤ。
 ご飯くれたから我慢する、とフリーダ。

 いや、確かに奴隷商人から身請けした子も居るが。
 奴隷みたいな扱いをするつもりは無いから。
 危険もあるが、守る。まずは先輩達を見て覚えて貰う。

 解析で見た限り、人間はダーシャとアルメル。
 ハーフドワーフのフリーダ。
 ハーフ……スキュラ?のリリヤ。
 ダークエルフのルジェナは、なるほど褐色の肌。
 半竜人、水竜のマリッタ。

 やっぱり孤児には半亜人が多い様だ。
 人間側の親が親権を放棄したりだとか。
 亜人側の親が何か不幸に見舞われたりだとか。
 あるいは、仲睦まじく貧困で死んでしまったりとか。
 それぞれ事情はあろう。酷い事情が。

 ホント、差別だけでも無くなんないかな……
 ボヤいても仕方がないが、ボヤいてしまう。

 さて、公子公女にお暇を告げて。
 みんな集合。ポータルへ集まってくれ。

 指で銭のマークを作るエドヴァルト。
 分かってるよ。借りた金。帰る前に返しちゃおうか。
 フレスさんに連絡。売り上げの回収を。

 はて、通信魔法。混線していて繋がらない。

「おっちゃーん!」
「大変だよ! 大変だよう!」

 城内ポータルから走って戻るイェンナとマリナ。
 ん、どうした。ブカレストに転移できない?

「これ! ここだよ!」

 見に行って、イェンナが指差す先。
 浮き上がるウインドウ表示を見て愕然とした。

『対象が戦闘中の為、転移が制限されています』



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