黒鷲の旅団
19日目(2)最短の回り道
「なるほど。それでこちらへ参ったと」
出迎えたのは不死者ソルヴェーグ。
急に大勢で押し掛けてすまん。
ブカレストが交戦中らしく、ポータルで転移出来ない。
関所や開拓中の村々にはポータル自体が無かった。
で、転移出来る先を探したら、ソルヴェーグの地下墓地の前。
元々が鉱山町の跡地。ポータルが残っていた。
問題は、首都ブカレストの情報がまるで足りない。
シュテルン公国軍に慌ただしい動きは無かった。
反対方向、となると、恐らくは魔王軍だが。
シュテルンとの連携を待たずに、どうしたのか。
アンヌやジュスにも通達の類は来ていない。
首都が戦闘中だとして、戦力は。戦況は。
様子見程度なら、外部から挟撃して追い払うのも良い。
遠距離戦に徹して、遠巻きに新人を鍛えるのも良いだろう。
しかし、あまり大規模攻勢だと、焼け石に水。
下手に刺激するより、やり過ごして再起を図るべきだ。
公主や市民、魔女達は救出する必要がある、として。
その場合、救助や何かは少数精鋭で当たるべきだろう。
どうする。状況は……判断材料が足りない。情報が欲しい。
未だに魔女達とは通信魔法が、連絡がつかない。
調べるには、行ってみるしかないのか。
「行こう! 早く行こうよ!」
気が急いているのはユッタ。お爺ちゃんが心配か。
マリナも母が、ジルケも姉が居る。気が気じゃない。
すぐにも駆けつけたいだろうが、斥候には出せないな。
何かあった時、そのまま突っ込んで行きそうだ。
まずは前進を開始するが、慎重に。
探知距離を最大にして行く。
ヤバそうだったら一旦退いて作戦を考える。
新人達の育成は、今回は見送りだ。
ポータルから自宅側に帰還させる。
リータ達と畑の面倒を見て貰おう。
保護者役の魔女が不在。
代わりにマイナさんに残って貰う。
それとアンヌ、ジュス姉さん。
ここまでで十分だ。敵は魔王軍だろう。
対立派閥を邪魔するぐらいは良いかも知れんが。
同派閥と克ち合ったら、反逆扱いにならないか。
「怒られたら怒られれば良いのよ。
追い出されたって、あんたの子になるんだから」
マジか。そりゃあアンヌは味方に欲しいけれども。
その一方で、魔王様とかに目を付けられそうだ。
でっかいリスクにならなければ良いが、どうだろう。
落ち着いたらまた遊びに来ればいいから、とも思うんだが。
「お願い! ちゃんと仲間に入れて欲しいの!
ご褒美2回分、それで良いから!」
アンヌの決意は固い様で。
ちょっと前向きに考えてみよう。
魔王ペーターの思惑は、人類征服ではない。
その先、降臨して来る神の打倒を狙っている。
侵略も競合も、戦力強化の一環でしかない……とすると。
アンヌの強化成功を以て、留学の価値を認めさせる。
まあ、説得材料が無い事も無いのかな。
と、考え込んでいる場合じゃないか。
早く早くとユッタが手を振っている。
分かった。引き続き頼らせて貰うぞ。
第1第2竜騎兵隊と、弓騎兵、弩騎兵隊。
2列横隊、アンヌを先頭に進軍を。
ザコの排除は任せるが、魔王軍を見つけたら行軍中止。
開戦前に通信をくれ。すぐ追い掛ける。
アンヌはそれとして、ジュス姉さんはどうする。
「ボクは……どうしよう。うーん。
キミの言うリスクで考えると、今すぐ飛んで帰りたい。
でも、孫ちゃん、師匠。アンヌもか。気にはなってる。
途中で投げ出すのも……でも、うーん?」
こちらは葛藤がある様だ。
ジュスでどうにもならない状況なら、それは俺達も同じ。
その時はこちらも撤退を決め込むとしよう。
頼まれている鉱石は俺が後で届けても良い。
無理せず、何かあったら言ってくれ。
アンヌと子供達が先行。
後発部隊は花人・魔物従者隊。
指揮はサンドラ、トゥーリカ。
それとマリナの父クラウスさんら、骸骨騎士団精鋭12名。
ソルヴェーグが厚意で派兵してくれた。
「愛妻が窮地の上に、愛娘が助けに向かうのだ。
夫として父親として、おちおち死んでもおられまい。
聖人共の除霊には巻き込まれん様に。
いや、いっそ、その方が救いかも分からんが」
ソルさん、好んで死者の魂を縛っているのでも無い様な。
部下になったクラウスさんにも気を回している。
やっぱり、あの骸骨フェイスは話が通じる顔なんだろう。
さて、後発部隊も進軍開始。
一緒に転移して来たイェルマグ隊は迂回。
ダンジョン前でキャンプ中の冒険者を拾って来る様だ。
分かった。気を付けてな。
「旦那もお気を付けて。
ってか、まだ行かないんですかい?」
俺は、そこに隠れている人に話を付けてから行く。
「え、あっ……あ、あ、ああああのさ!
キミにも護衛とか要るんじゃないかとかって!」
気が付いたジュス姉さん。
その気なら、もう仕掛けられているだろう。
大丈夫だとは思うが……一応頼もうかな。
サンドラ達が進み始め、距離を取るのを確認して。
俺は誰も居ない、様に見える所へ呼び掛ける。
そこにいらっしゃるのは魔王様。
いや、普通にペーターで良いのか?
「ふふん、お気付きでしたか」
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