黒鷲の旅団
19日目(5)遺恨を投げ捨て今は君と
「あ、あっ、良かった! ここに居たああ!
あああああうわあああああ!?」
どどどどどずるんごすどしゃあああああ。
ちょっ、おい、大丈夫か。
マイナさんが馬で突っ込んで来て落馬。
顔から落ちて、草原にスライディングしてしまった。
助け起こす。症状は打ち身と捻挫、鼻血。あと泥だらけ。
治癒、鎮痛、浄化、洗浄魔法で処置。
居なくなった新人達を探してくれていたのだろう。
責任を感じたのだろうけれども、落ち着いて。
救助する側に救助が必要になってどうする。
「うう、すみません。私が見てるって言ったのに」
半べそマイナさん。ホント落ち着いてな。
子供は得てして思い通りにならない物だ。
幸い全員無事だし、起きてしまった事は仕方ない。
ただ気がかりなのは、残して来たリータとラケル。
特にラケル、色々と拙いが活発な子だ。
コッコの散歩中、水路に落ちたりしないだろうか。
「それは……大丈夫です。多分。
執事さんにお願いして来たので」
執事さん。伯爵の執事クラウディオさん。
室内なら大丈夫だからと、預かってくれた様だ。
室内……コッコ達まで入れてくれたらしく。
養鶏団ラケル小隊、吸血鬼伯爵の屋敷を探検中。
これは後で、何かお礼を考えないといかんかな。
ひとまず一安心として、マイナさんをどうしよう。
1人で戻らせるのも不安だ。
魔王軍が侵攻中。どこで敵と出くわすか分からん。
取りあえず一緒に来て貰う。
あとは、魔女達と通信が繋がれば良いんだが。
新人達の分も、帰還スクロールとか買い足したい。
通信……相変わらず繋がらないな。
断続的に呼び掛けているが、応答が無い。
もっと距離を詰めた方が良いのだろうか。
しかし今は首都に向かわず、迂回して南東部へ。
イェルマイン達の向かったダンジョンがある。
連中の帰り道と首都との間辺りを目標にする。
念入りな探知、看破、遠見魔法も加えた索敵。
音紋解析魔法、気象観測魔法もレベルを上げた。
解析結果に、更に汎用の解析魔法を掛けて分析。
今の所、魔王様ほどヤバげな物は見つかっていない。
敵も気になるが、新人達の様子はどうかな。
「へっほ、へっほ」
「ひい、はあ、ひい、はあ」
軽快にジョギングするのはフリーダ。
ユッタに似て小柄だが、タフだな。
他方、分かり易く息も絶え絶えなのはリリヤ。
フェドラ似のグラマー体形が少し重いだろうか。
乗せて乗せてと手を伸ばして来る。
馬に乗せちゃったら鍛錬にならんのだけれども。
せめて、ちょっとペースを落とそう。
馬を降りて隣を小走り。ほれ、頑張れ頑張れ。
活力魔法を掛けつつ応援して回る。
「あっ、あたしも」
「頑張れ頑張れー」
ティルアやカーチャも馬を降りて新人を励ます。
早く友達になりたかったか、単に俺を真似したのか。
ふと、キョロキョロっとした動きはマリナ。
首都の状況が気になるけれども、新人達も置いて行けない。
音紋……大丈夫。戦闘の音や大型の魔物は検知しない。
各隊、隊長と斥候役は先行して良い。
念の為、アンヌも同行してやってくれ。
次の丘の上まで行って、何が見えるだろうか。
首都以外の方向も気にする様に言って、先に行かせる。
と、そうだ。銃士隊の斥候はカーチャだった。
折角、馬を降りてくれていたんだが、すまんな。
はにかんで笑う彼女は、特に気を悪くした様子も無く。
片手でイェンナとハイタッチ、役目を引き継いで行った。
他の皆も新人チームを護衛しつつ、励ましてやってくれ。
「え、あ、あの……何で?」
「え、え、何でって?」
何か疑問符が浮かんでいるのは、ルジェナとアイリス。
理由を聞いてみた所、ルジェナの種族的な先入観の様だ。
アイリスがエルフで、ルジェナがダークエルフ。
エルフは一般的に、ダークエルフと仲が悪いのか。
父母が存命の頃、故郷を追い立てられた話を聞いたという。
エルフはダークエルフを狩る、怖い連中なのだと。
それでアイリスに気遣われたのを不思議に思ったらしい。
種族間の対立か。負の遺産だな。
親の世代の軋轢が、子供達の未来に影を落としている。
自分の目で見て、触れて、自分の頭で考えて欲しい。
親の仇なんてのが居るなら、それは憎しみもあるだろう。
しかし、今この目の前にいる同世代は、仇自身じゃない。
遠ざけたりする必要は無い、と思うんだが。
どうかな。仲良くしてくれないだろうか。
ごめんね、とルジェナ。
あたしもエルフ嫌いだからさ、とアイリス。
アイリスは同じエルフから虐められたんだ。
視力が弱くて弓が苦手だという理由だったか。
被差別者同士でまた差別し合うなんて、不毛過ぎる。
少なくとも、うちの子同士での憎み合いは無しだ。
競争するぐらいは良いのだろうけれども。
短所でも何でも、蔑むより補い合おう。
助け合って生きて行かないと。
他の子は……大丈夫かな。
水竜のマリッタに話し掛ける火竜のマルカ。
こちらの話を聞いていたのだろう。
人間種のダーシャ、アルメルも、ぎこちなくだが笑顔。
フェドラや花人達の応援に返事をしている。
頑張って、少しずつでも距離を縮めて欲しい。
ユッタ達から通信が来る。待機中の魔王軍を見つけた様だ。
総員、丘の上まで。次の戦闘準備に掛かろう。
前へ
/黒鷲の旅団トップへ
/次へ
|