黒鷲の旅団
19日目(6)敵の敵の敵?
「あのっ、見つけた……んだけど」
丘の下を指差し、首を傾げるユッタ。
うん……どうしようかな。
丘の上から見渡した草原。
数km先に魔王軍が見えるのだが、動きが無い。
魔王軍の塊、2つ。
対立派閥らしく、睨み合う形で対峙している。
探知反応……赤、黄。敵対と中立反応だと。
アンヌ、連中の内訳は分かるか?
「迫害派と根絶派かしら。
根絶派の方が中立に見える理由は分かんないけど」
アンヌに解説して貰う。
左翼、複数の横隊と、後方に主軍らしき方陣。
大将は人類迫害派、淫虐の魔人ジェニフェレーヌ。
対する右翼は不死兵団。陣形は密集、ファランクス。
大将は人類根絶派、魂縛の魔人アルメリスティーヌ。
向き合っているのは派閥間の対立だとして。
動かないのは……何だろう。
決め手に欠いているのだろうか。
ジェニフェレーヌの配下の陣営を見る。
供回りは艶やかな男女の悪魔。淫魔か何かが並ぶのだが。
主軍の前に出されている横隊は身なりが悪い。奴隷兵士か。
それと、統率を任されている下位悪魔、レッサーデーモン。
魂縛のアルメリスティーヌの方は死霊使い。
人間の兵士を殺されると、アンデッドにされる。
前衛の奴隷兵士は、死んだらすぐ再利用されるだろう。
他方、レッサーデーモンも、低位とは言え悪魔族。
人間、凡人のアンデッドでは太刀打ち出来ない。
このまま戦端を開くと、泥沼の消耗戦になる。
それでも時間を掛ければ、死なない方が優位の気もするが。
どうやら窮地に陥っているのはアルメリスティーヌの方だ。
ジェニフェレーヌ、レベル1354。
アルメリスティーヌ、レベル819。
大将同士の力比べになれば、アルメに勝ち目は無い。
普通に考えれば、根絶派が首都を攻めている。
アルメが敗走に追い込まれるのは願ったりのハズだ。
しかし、探知反応の色分け。
交渉の余地があるのは根絶派の方なのか。
「その、コンゼツ派?が攻めてるんだよな?」
「そうだけど、危険度は迫害派の方が上なのよ」
マルカの問いにアンヌの答え。
探知情報は共有しており、疑問も出るだろうが。
迫害派の危険度、とはどの程度か。
人類皆殺しの根絶派より酷い扱いが待っている?
ふと、両軍がどよめいて見えた。
スコープ……ユッタ、見るな。
全員、隊列へ戻って戦闘準備。
振り返ると、もう見ちゃった後か。
怯えているユッタとカーチャ。
抱き締めて鎮静魔法。落ち着かせる。
……なるほど、ああいう事をする連中か。
迫害派というか、虐待派というか。
統率役の悪魔が2匹、奴隷兵を吊るしていた。
吊るして生きたまま、剥いだ。皮を剥いでいる。
遠くとも微かに悲鳴が聞こえている。
更に悪魔達が槍で突いて、奴隷兵達を前進させ始める。
アルメのアンデッド兵団は慄いて、じりじり後退している。
大将ジェニフェレーヌは、薄ら笑いを浮かべていた。
もう損害とか気にしない事にしたのだろう。
阿鼻叫喚の有様をご満悦の様だ。
対するアルメリスティーヌ、あたふた。
アンヌが言うには、ジェニフェは重度のドS。
兄弟姉妹にも同じ様な事をするという。
虐待される奴隷兵士達。
アルメにしたら、次は我が身か。
アルメリスティーヌ、あたふた、キョロキョロ。
キョロキョロ……ん、スコープ越しに目が合った。
『あっ、きゅ、休戦を! 今少しの猶予を!』
慌てた通信がアンヌ経由で俺に来て。
アンヌやジュスは俺に判断を任せると言う。
待ってって、まあ、待っても良いけれども。
その間、こちらはどうしたら良いんだろうな。
戦っている間に距離を取る……取れるのか。
迂回する、逃げ回るのも確実ではない。
新人達には息を切らしている者も多い。
片付けて行かないと、残った方が追って来る。
協力して、もう一方を……いや、どっちとだよ。
中立と敵対。うーん。どうする。
人類迫害派。繋がれた奴隷兵士。
魔王様の言。3人脱落したら仲裁を。
……提案。休戦期間について。
今その前に居るそいつと決着がついて、さらに先。
次の機会で俺達とまた対立するまで、でどうか。
提案を受けてくれるなら、何か協力できると思う。
「んふっ、何、手を貸そうっての?」
アンヌの問い。問いだが、楽しそうに聞くね。
首都を攻めている人類根絶派に、何故手を貸すのか。
主軍から3人脱落したら仲裁する、とは魔王様の言。
ジェニフェは主軍に属さない。
首都攻略を中断させる上では、無駄な戦闘になる。
無駄な……まあ、3人『倒す』のが前提ならな。
しかし脱落と言っても、倒せとは言われていない。
恩を売って引き上げさせられるならば、それでも良い。
結局後で戦うとしても、ジェニフェの方よりマシだろう。
アルメリスティーヌは少しして、提案を受けると。
もう少し悩むかと思ったが、どうやら焦ってるな。
立場上、敵の敵の敵、となるが……もうどっちやら。
それじゃあ、少し手を貸してやろうか。
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