黒鷲の旅団 >19日目(7)魔人突貫、悪意の横陣


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19日目(7)魔人突貫、悪意の横陣

「ふぉっ……で、ででで出来てる?」

 サンドラちゃん。大丈夫、上出来だ。
 サンドラ、測量魔法バリスティクスを試用。
 射撃の弾道が視覚化されるアレだ。
 俺の伝承と自分で行う儀式。習得に至った。

 腕力等の強化系魔法はマリナやテルーザ、花人達が得意。
 電磁加速魔法はルピリエッテとラベンダリアが習得していた。
 特に推奨していなかったが、好奇心から覚えてくれたらしい。
 結果、放物線軌道による超遠距離攻撃が問題無く行える。

 矢弾が届いた所で、恐らく障壁系の魔法が出て来るだろう。
 ダメージを徹すには物理+魔法だ。付与魔法が要る。
 魔法の選定は各隊参謀に委任。色々試して良い。

 それと攻撃目標。可哀想な奴隷兵士さん達は狙わなくて良い。
 狙撃自慢は、統率役のレッサーデーモンを狙っても良いとして。
 それ以外の子は、後方の敵本陣を狙ってみてくれ。

「あの、赤くて角生えてる奴だよね」

 もうデーモンに当てる気になっているユッタ。頼もしい。
 相棒イェンナもユニークアルパインを試す気満々。
 ルーシャにも俺のラティオを貸しておく。上手く使ってくれ。

 サンドラはとにかく測量魔法の維持を。
 トゥーリカは周辺索敵。集中して頼むぞ。
 マイナさんは子供達の健康管理。
 魔力切れや精神状態に気配りを。

 魔物従者隊も弓弩。骸骨騎士団にも弓を持たせる。
 敵が流れて来る様なら、花人達と共に抜刀、近接戦担当。

 方針が決まった所で、アンヌ、引率を頼む。
 うちの主軍は迂回。アルメ隊の斜め後方へ向かって貰う。
 配置に着いたら、あとは手筈通りに。

 アンヌと子供達がぞろぞろと移動を始めて。
 他方、俺とジュスは丘を下った。

「くらえ! ダスターソニック!」

 ぴゅん、きゅぼっ、ぶしゅっ、しゅぱーん。
 魔人ジュスティアーヌの単騎特攻。

 縮地で懐に飛び込むのではない、
 更に向こうへ殴りながら抜ける。
 空と肉を裂く音が響く。
 レッサーデーモンの胸倉から上が弾け飛ぶ。
 彼女は立ち止まらず縮地を続け、次々に血煙を上げて行く。

 俺は馬で後を追うのだが、とても追い切れんなあ。

 手下が苦しむのも余興気取りの敵将、魔人ジェニフェレーヌ。
 奴隷兵を解放して回れば、こちらに注意を向けるだろう。
 誘いに乗って前に出て来るかは、まだ分からん。
 まあ、出て来ないなら別の策を考えるけれども。

 魔人ジュスティアーヌ、現在レベル1024。
 対するジェニフェレーヌはレベル1354と格上だが。
 戦闘適性はジュスの方が上。
 加えて俺の統率系スキル。補正でレベル差を覆せる。

 問題は他の素養。
 ジェニフェは魔法適正が最高位、SSSだという。
 何か搦め手を使われると怖い物がある。
 魔王様の隠密魔法が良い例だ。
 魔法のレベル差、正面から覆すのは難しい。

 俺の工夫で補ってやれるかどうか。
 あるいは、数で押すのもアリだろうか。
 ザコを掃除したら、アンヌとアルメを呼び込むとか。

「奴隷兵士は殺さなくて良いよね?」

 不意に横からジュス姉さん。
 さっき前に行ったと思ったんだが、縦横無尽だな。
 向かって来ない奴は放っておいて良いです。
 とにかくデーモンから潰して行く方向で。
 確認を取って、また突っ込んで行くジュス姉さん。

 向かって来ない奴隷兵は殺さない……が。
 どれだけ助けられるやら。
 敵方の奴隷兵、本当に状態が悪い。扱いが酷い。

 装備からして全裸に近い半裸。武器持ってるだけ。
 中には老人、子供、赤ん坊を抱えた母親まで。
 それぞれ悪魔の槍につつかれて、泣きながら向かって来る。

 3人ばかり軽くいなして束縛魔法。
 動きを停止させて転がすと、少しして爆発した。

 ……いや、ちょっと待て。
 今のはどういう仕組みだ?

 探知情報に解析魔法。周辺の奴隷兵を詳しく解析する。
 と、奴隷兵の反応上に、時計みたいな数字の羅列が並ぶ。
 注視していると徐々に減っていく……タイマー?
 仕組みは魔法的だが、時限爆弾か何かなのか?

 空間魔法で捜索する。
 奴隷兵の身体のあちこちに、釘みたいなのが刺さっている。
 これが怪しい。解析。呪爆の何とかいうアイテム名。

 手で触れる。爆発の危険、警告表示ウインドウが出る。
 ならば転移魔法で除去……途端に爆発した。

 くそ、上手く行かない。また1人死なせてしまった。
 誰なら死んでもいいとは言わないが。
 せめて子供、抱えられた赤子ぐらい助けられないか。

 詳しく解析。鑑定・看破・洞察・推論スキル。
 用法。付与した相手を爆発させる、のは見た通りとして。
 解除。解呪方法……解呪の奇跡、が必要らしい。

 残念ながら、奇跡の御業の持ち合わせは無い。
 しかし魔法と奇跡、根っこは同じだったハズだ。
 解呪の魔法さえ作る事が出来れば。

 過去の履歴。節制毒と抵抗を起点に抗血清魔法を作った。
 呪詛魔法とやらを覚えたのは魔女の図書館だったか。
 全然使っていなかったが、何でも取っておくものだ。

 呪いを弾き、鎮め、浄化する……これならどうか。
 節制呪詛、神聖、鎮静、浄化、分解、解錠。
 解呪魔法ディスカースを発動。
 近くに居た子供に試すと、ポロリと釘が抜けた。
 爆発する様子は無い。大丈夫そうだ。

 他にも刺さってる? どこだって?
 助けて貰おうと、他の奴隷達も駆け寄って来て。
 分かってるから。順番にやるから。

 しかし、こんな悠長に解呪していて大丈夫か。
 こちらに仕掛けて来る悪魔は居ないだろうか。
 ふと、奴隷兵の外側に目をやって。
 敵本陣側、ニヤついた悪魔2人と目が合った。

 途端、爆発。閃光と衝撃。
 四散する奴隷兵達。

 しまった。あの悪魔達。外部操作でも起爆できたのか。
 俺は身を守るも甲斐無く、何かに頭を打たれた様だ。
 一時、昏倒。意識を失ってしまった。



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