黒鷲の旅団
19日目(8)4/21

『お兄さん! お兄さんっ!』

 通信、ユッタの声。
 泣きそうな声に目が覚める。

 大丈夫……俺は、大丈夫だ。
 血だらけは血だらけだが。
 ほとんど俺の血じゃない。

 爆発の中で浴びせられた血と肉。
 元は奴隷兵だった物。
 血と臓腑の酷い臭い。
 浄化、洗浄、風魔法で振り払う。

 負傷箇所……後頭部に鈍痛がある。
 あるけれども、自己診断。
 そう致命的でもない様子。
 軽く治癒魔法だけ掛けておく。

 俺の事は良いとして、状況確認。
 周囲の血の海……探知。
 生存反応ありだが、弱い。
 死に瀕している。
 反応が、光点が、萎む様に縮んて行く。
 凹んでいる暇も無いと来たモンだ。

 急ぎ救助に掛かる。
 爆発で残った煙がある。
 敵本陣からは見られていない。
 すぐチョッカイを出して来ないだろう。

 右手前、子供。
 手足が千切れて気を失っている子供。
 最初に解呪が成功した子か。
 他にもあったという釘は。
 どうやら急所を外れていた様だ。

 応急処置。止血、縫合、造血。
 治癒、活力、鎮痛魔法。
 HP表示、残量2割程度。
 減少は停止した。処置済み。

 治療としては足りないが。
 少し待っててくれ。
 他にも居る。
 もう幾つか反応が消え始めている。

 火傷を負った赤ん坊。
 足を怪我して弱々しく泣いている。
 か弱いのに一命を取り留めた。
 恐らく母親が庇ったのだろう。
 その母親はもう人の形をしていない。

 治癒、止血、鎮痛、造血、培養。
 形成外科、精神、夢操魔法。
 赤ん坊は身体が小さい。
 火傷も足もどうにか治ったが。
 後の人生、どうしてやったものやら。

 他は……生存反応、無し。
 無しだが、消えて1分足らず。
 間に合ってくれ、除細動魔法。
 縫合魔法で傷を塞ぐ。
 手近な者から蘇生を試みる。

「かふっ! けほけほ!」

 間に合ったのは子供2人。
 追加で息を吹き返した。
 次。次は……ダメか。
 救助可能な時間を超過した様だ。

 横隊1つ辺りの奴隷兵が、ざっと20人程度。
 助けられたのは員数外の赤ん坊含め4人。
 放っておいても全滅しただけとも思うが。
 逃げ散るに任せた方が良かったか分からん。

 子供は総じて、爆発釘が急所を外されていた。
 慈悲ではあるまい。
 いたぶって楽しむつもりだったのだろう。

 赤ん坊に刺さっていなかったのは何だ。
 刺したら死ぬからか。
 そして子供が居た方が、母親を苦しめられる?
 サド魔人と、それに従う悪魔達。
 どいつもロクでもない。

 子供達の急所は外されていた。
 しかし手足の損壊が酷い。
 治癒。縫合。形成外科魔法……間に合うか。
 魔力は薬で補うとして。
 時間的な猶予に不安がある。

 正常な状態に戻して行く形成外科魔法だが。
 損壊状態で長く経過すると治せなくなる。
 何分何秒まで大丈夫か試した事は無い。
 後の人生がどうなるか。
 せめて片手だけでも治してやらんと。

 敵の追撃はまだ来ないか……どうか。

「あははっ、お医者さんだあ」
「これも直して直してぇ〜」

 羽音。飛来した人影。悪魔か魔人か。
 コウモリ状の翼の生えた少年と少女。
 生首と、首のもげた死体を持って来る。
 壊れたオモチャ感覚だが、生首か。
 それはちょっと治せないな……

「ちぇー、残念」
「人間はプチプチして遊ぶんだよぉー」

 うーん……そうかね。

 背伸びしたり、横から覗き込もうとしたり。
 こちらの子供を狙う様な素振り。
 僅かに助けた4人だが、僅かならば尚の事。
 オモチャにくれてやるワケには行かない。

 何かされる前に避難させる。
 転移、転移、転移魔法。
 周辺の負傷者、赤ん坊含め4名。
 先に子供達の所へ。

 アンヌに通信。
 赤ん坊を送るから受け止めてくれ。

『ええっ、ちょ、ちょっと!
 私、お乳なんて出ないわよ!?』

 そこまで期待しとらんわ!
 とにかく預かって。頼む。

 助けた子供をうちの子達に預けた所で。
 さあ、俺が代わりに遊んでやる。
 子供悪魔達を振り返り……おや。

「貴様がジュスティアーヌ様の従者か?」
「我が主より、存分に持て成せとの命令だ」
「お前はどんな悲鳴で泣いてくれるのかしら」

 男3人、女2人。
 頭に巻き角の生えた大人。
 子供悪魔を下がらせ、取り囲んで来た。
 その内2人は見覚えがある。
 先ほど目が合った奴ら。
 爆発釘を起爆した奴らか。

 子供悪魔を虐めるよりは良いだろう。
 せいぜい相手してやるとしようか。



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