黒鷲の旅団
19日目(9)是非とも何とも
「誰から行く?」「私が」「あっ、ずるい」
「待て待て。公平にジャンケンをだな」
悪魔達は俺を格下とナメているのか。
あるいは1対1で戦って来いという命令でもあるのか。
紳士的、でもないだろうが、1人ずつ掛かって来る様だ。
「確かハインリヒだったな。銃を持った魔道士。
貴様の手の内は知れているぞ。
残念だが、貴様の矢弾は我が障壁にて弾かれる。
おまけに鎧は、我が領地が誇る名工のミスリル鎧。
織り込まれた魔法紋が8つの属性に対応防御する優れモノだ」
先鋒に決まった青年悪魔。
これでどうだと言わんばかりに解説して来る。
手の内を隠そう、とか思わないんだろうか。
まあ、それを指摘してやる義理も無いんだが。
8属性……解析してみても?
お伺いを立てると、得意げに晒して来た。
炎、水、氷、雷、風、土、毒、重力、神聖。
なるほど確かに8属耐性。豪華な事だが……暗黒は?
「知らんのか、我らこそが魔族!
魔族は暗黒属性には強い耐性があるのだ!」
そうですか……じゃあ、試してみよう。
ロードメイアに聞いたコツ、同属性濃縮強化を試す。
暗黒、暗黒、暗黒、濃縮、強化、暗黒魔法。
合成発動は暗黒上位、深淵魔法アビスボルト。
濃縮還元された暗黒の矢が、青年の鳩尾に食い込んだ。
「ぐぶおおっ!? ぐええっ!
ふ、ふははは……やるではないか」
魔法を食らって前屈みになる青年。
嘔吐。蒼い顔。無理に笑って見せるのはプライド故か。
まあ、笑っているんだ。もう少し行けるよな?
2発目。3発。4発……同じ所を目掛けて当て続ける。
青年は痙攣して動けなくなった。
「あら、無様だこと」
「はははは、だらしないぞロストハルト」
仲間の負傷にも笑っている悪魔達。端的に言って冷たい。
血とか苦しむ奴が見られたら、何でも良いんだろうか。
えー……はい。次の方。
「私が相手よ。可愛がってあげる」
片手剣を持った女。
刀身に手を振れ、光る紋様を浮き上がらせる。
魔法剣士の類に見えるが……どうか。
「我が剣に秘められた魔力を見るが良いわ。
行け、凍結魔法ディープフリーズ!」
違った。剣を触媒に、杖代わりにしているだけだ。
女が剣を振りかざすと、魔法が飛んで来る。
後退、左ステップから右横転回避。速射の反射魔法。
対応出来なくはないが、単発にしては発射間隔が短い。
「むむむむ……何で逃げるのっ!」
いや、何でって言われても。
埒が明かんので銃を向ける。
慌てて障壁魔法を展開して来る。
左手で熱閃魔法スラッシュレイ。
「ぎゃっ! あ、あっ! ああああっ!?」
右脚を切り裂いたら、痛がって転げ回って暴れる。
おい、落ち着け。無駄に失血するぞ。
「お、おまっ……お前! 治しなさい!」
怒って涙目で要求して来る。無茶苦茶な。
無茶苦茶とは思いつつ、止血と鎮痛で処置。
全部治すのは全員終わってからね。
傷が残ってどうのとブチブチ言っていたが。
治せると分かると途端に明るくなった。忙しい奴だ。
「両利きとは器用な奴め……次は俺だ。
ちょこまか避けようとしても無駄だぞ。
逃げた先まで薙ぎ払ってくれよう」
次、やや屈強な、2m程の長い剣を持った男。
まあ……長いけれども。
どうもこいつら、オツムが緩い。
戦闘中に自分の技とか狙いとか、ペラペラと喋る物ではない。
俺が魔王に解説したのは、あいつと戦う気が無いからだ。
連中は普段、奴隷、目下を虐めるばかりなのだろう。
同格以上と戦ったりしないのかも知れない。
基礎パラメータだけで生きているみたいな連中だな。
こいつらを戦地に寄越した奴、気は確かだろうか。
成長でも促したいか、愛想が尽きたのか……うーん。
しかし繰り返すが、それを指摘してやる義理も無い。
付け込める所には付け込ませて貰う。
装備変更。刀を腰に。
腰を落として居合いの体勢で待つ。
一撃目、横薙ぎが来る。宣言通り。
迎撃。音速剣・居合い、縮地・音速剣・返し刃・斬鉄の袈裟。
払って横に返さず、縦に抜き打ちして袈裟に返した。
初手で長剣の先が折れて飛び、返す刃が肩口から切り裂く。
派生した技は『浪返し』……夢想流、だったか。
よく分からん異世界の、異世界神様経由でのスキル伝達だが。
取っ掛かり程度でも、剣豪に近い境地に至れたとは光栄だ。
夢想流。俺も文献に触れた程度だが。
流派の気構えみたいな奴が記憶に残っていた。
大罪人に直面するとも、懇切に説法し善人に導くべし。
万一従わずして是非ともなれば詮方なく。
袈裟打ちかけて成佛せしめよ、だ。
先人に倣い、懇切は無理でも、せめて勧告しよう。
奴隷兵への待遇を改めると約束しろ。
その後、尻尾を巻いて逃げるなら、追わないでやっても良い。
「ふ、ふははは! 調子に乗るなよ、若造!
次の一撃こそ、我が最大最強奥義ぃぃ!」
……もうちょっと痛めつけないとダメそうだな。
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