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黒鷲の旅団
19日目(11)40カウント・ヘル

「こちらから、で、よろしいかしら?」

 ちょっと待って、と言っても聞かんか。
 迫る魔人ジェニフェレーヌ。

 迎撃は拳銃。抜き撃ちからバースト4連射。
 一瞬で姿が消える。縮地か。
 行方も分からんままだが、止まったら死ぬ。
 悠長に探知解析している間に首を折られる。

 伏せ。頭上を槍が掠める。
 そのまま横転、半回転で急停止して起きる。
 俺の頭があった場所を槍が抉る。

 あの槍、厄介くさいな。突きも薙ぎもある。
 一見ランスだが、銃剣みたいな切断用部位を持っている。
 希少素材、1本での用途を増やしたのかも知れない。

 縮地。右。前。右……肩が触れた?
 当てずっぽうで行先が重なった。
 左転進、右反転。すぐ飛んで来る横薙ぎをパリィ。
 続く蹴りが左から右、踵側で左、再度右、踵落とし。
 それぞれガードしつつ後退する。
 防御魔法重ね掛け。重力付与。それでも重い。

 再度、槍。逆手の横薙ぎが飛んで来る。
 伏せて躱したと思ったら目前に石突きが迫る。
 掠めた。側頭部を切り裂かれながら、もう一段伏せ。
 掌で地面を打つ。横転から縮地。
 続けて踏み出そうとするジェニフェの足元に光。

「んうっ!?」

 設置・時限発動の温泉魔法、間欠泉。
 極小高圧の温水を発射。
 ジェニフェの右頬に赤い線を引いた。

「ふっ……くふふふふ。面白い。
 こんな物とは言え、私に傷を付けますか」

 全然余裕だな。アンヌやジュスはまだか。
 強化、防御、加速、抵抗魔法からパラメータ増加。
 重力付与で物理エネルギーを底上げ。
 洗脳魔法に寄る自己暗示。
 鈍感魔法の痛覚鈍化まで使って、劣勢。

「次は、もう少し力を出しても良いかしらねえ」

 もう少し……手加減されている。ですよねー、だ。
 諸々強化やって、手加減があって尚、劣勢。

 本当に、魔人のお嬢さん方はまだか。

 チラと見る。アルメ。アンデッドの指揮に忙しい様子。
 ジュスは奴隷兵が邪魔。思う様に走って来れない。

 アンヌは……大急ぎで丘を下って来るが。
 あちらもレッサーデーモンを潰しながらだ。
 目算、あと30。いや、40秒といった所。

「さあ、行きますよお?」

 こきりと肩を慣らすジェニフェレーヌ。
 俺は治癒、活力、整脈魔法と、各種バフの再点火。
 さあ来い、と言いたくも無いけれど。
 あと40秒。持たせるしかない。

 槍。4連突き。両手剣でガードしたら2撃目で折られた。
 3撃目を速射障壁魔法で反らし、4撃目は後退して回避。
 相手の姿が霞む。縮地。確認する間に右横転回避。
 飛び起きてガードした所に蹴りが飛んで来た。
 弾かれて跳ね回って、起きて直ぐ反転、左。
 背中を掠める槍。間髪入れずに追撃が来る。

「そらそら、どうしました。
 打って来ても良いんですよ?」

 スキップ気味に追って来るジェニフェ。
 無茶を言ってくれるな。

 至近で銃を撃っても縮地で躱される。
 近接武器をぶつけ合っても、あの槍には勝てん。
 あとはせいぜい魔法ぐらいだが。

 爆薬・障壁・障壁・着火。
 指向性爆薬魔法ディレクショナルボム、散布。
 任意の限定方向に爆炎を吹き出す魔法になった様だ。
 予測進路上に爆炎の壁を作って阻む。
 これをバラ撒きながら逃げる。距離を取る。

 ジェニフェ、爆炎を前に足を止め、方向転換。
 被弾を避けてジグザグに追って来る。
 恐らく突っ切れば突っ切れるのだろうが。
 そうしないのは、服でも焦げ付くのを嫌ったか。

「ふうっ!」

 追って来るジェニフェ、反転。
 足元から飛び出しているのは設置発動した溶鉱魔法。
 指向性の爆発の合間、足元からのトラップ。
 これを発動を見てから高速で躱している。
 あんな超反応、当たる物も当たらんわ。

 お返しとばかりに、何かがボボボと足元に刺さった。
 極小範囲の速射念動魔法。自動小銃並みの連射。
 ジェニフェ、にやにや。嫌な感じに焦らせて来る。

 反射。反射魔法。反射魔法が使い難い。

 反射魔法は基本的に固定型だ。
 魔法を反射する魔法。操ろうとする魔力も弾いてしまう。
 結果として、近距離機動戦闘に向かない。
 持って歩けないし、重ねてしまうと相殺して消える。
 しかも撃つ奴がまた超高速で動いて来る。
 死角を突かれがちで効果が薄い。

 せめて動かせれば。防御・浮遊・障壁。防盾魔法。
 半透明な魔法の盾。角度を付けて跳弾……無理か。
 熟練レベルも初級の初級。弾くどころじゃない。
 多重展開。物量で防ぐ。
 ベースを物理障壁にしたから相互干渉しない。

 念動魔法の射撃。防盾魔法で防御。
 防御している所を槍で払われる。
 盾が消えた所で、また念動魔法が飛んで来る。
 側転回避しつつ短機関銃で反撃……
 ダメだ。速過ぎて捉えられない。
 ジェニフェは回避しながら突っ込んで来た。

「うふふふ。捕まえたあ」

 両肩を掴まれ、そのまま押し倒された。
 怪力に肩を砕かれ、両足は太腿骨を膝で折られる。
 魔法。思念発動は……発動出来ない。
 何かのバッドステータスが発動している。
 自覚症状が無い。鈍感魔法の使い過ぎか。

「そこまでよ!」

 アンヌが来た。ジュスの姿も遠くない。
 四肢が使えず治癒魔法も発動出来ない俺。
 どうフォローしてやった物やら、だが……



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