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19日目(12)錯綜する思い

「「あ、ちょっ……あ、あ……おおぉー」」

 ……何やってんの、君達。

 アンヌとジュスが来てくれた、までは良いのだが。
 どうもジェニフェレーヌに遊ばれている。

 ジェニフェは俺を抑えたまま、退こうとせず。
 俺にキスをする様なフリをして……止めてみたり。
 俺のズボンに手を掛け……止めてみたり。
 ジェニフェが煽る度、ジュスがオロオロ、アンヌがワクワク。

 ……おい、アンヌ。ワクワクすんな。

「面白いわ。お前、随分と大事にされてるのねえ。
 お前はお前で、あまり反応しないし」

 変な所を触ったり触らせたり。
 ここへ来て淫虐の淫の方を発揮するジェニフェさん。
 鈍感魔法が効いたままなので、感覚自体も朧気だが。
 遠目にスコープで見ている子も居るだろう。
 いやホント、教育に悪いからヤメテクダサイ。

「ふうん? 紳士ぶった奴らとも違った反応ねえ。
 あの2人に対しては恋愛感情が無いの?
 じゃあ、頑張った褒美に私が抱いてやりましょうか。
 姉様達はどんな反応を……おおっと」

「キシャー!」

 ジュス姉さんの飛び蹴りが飛んで来て、ジェニフェ後退。
 言語崩壊して動物の威嚇みたいになっとる。

「ホント姉様ときたら、破廉恥な体型して頭がウブだこと。
 人間1人落とせないなんて、200年処女は大したものねえ」

「フシャーッ! ファーッ!」

 飛び掛かって行くジュス。猫か。
 ヒラリヒラリと躱すジェニフェ。
 完全に遊ばれているな。

 と思ったら、こそこそっとアンヌが寄って来て。
 今の内にと治癒魔法を掛けてくれる。

「ごめんね。私、魔族だから。
 光側に属する治癒系魔法は上手くないのよ」

 苦手と言いながら、しかし基礎魔力の高さで相殺する。
 どうにか肩を回せる程度に回復した。
 あとは自分で治せるが……それよりも。
 あのじゃれ合いが終わったら本気バトルだろう。
 優先してするべき事をやっておきたい。

 防盾魔法にスキルポイントを30振る。
 アンヌに急ぎ伝授する。上手く使って。
 ジェニフェの特徴とか傾向は、姉妹だから知っているか。
 ここまでの経緯でジュス姉さんが冷静でないのが心配。
 アルメリスティーヌと合流し、フォローしてやってくれ。

 それから……子供達の状況は。
 アンヌ曰く、ユッタを褒めて欲しい。
 飛び出すより撃った方が早いから。
 自分達が行くよりアンヌを行かせた方が強いから。
 そう言って、他の子達の突貫を抑えてくれた様だ。

 救助した子、赤ん坊とか……
 と、詳しくは子供達から聞こうか。

 遅まきながらアルメリスティーヌが到着。
 兵隊での戦闘はおよそ集結した様だ。
 ジュスとジェニフェも仕切り直しに掛かっている。
 アンヌの出番も近いと思われる。

 魔王様の通達も、死なない程度に競って研鑽しろと。
 しかし死なない範囲で何をして来るか分からん。
 気を付けて行っておいで。

「分かった……1つ聞いて良い?
 あんたにとって、あたしって何?」

 唐突に凄い事を聞くね……
 ジェニフェに俺の感情云々言われて、気になったのか。

「あっ、や……ああー、ごめん。
 今聞く事じゃなかったかも。
 答え難かったら戻ってからでも良いから。
 複雑な感情があるって言うのも、それはそれで、ね?」

 そんな物分かりの良い事を言って、内心どうなのか。
 気がかりが残っていると、何かの拍子に判断が鈍る。
 モヤモヤは戦いの前に解消した方が良いだろう。

 まあ、その……恋だ何だは置いといて。
 少なからず力になりたいと思っている。
 守るなんて全然おこがましいんだがな。
 何というか、自分より出来の良い妹みたいな。

 いや、100歳超の魔人。年上で妹は変か?
 小柄だから、つい頭とか撫でそうになる。
 大事に思っているのが伝わると良いんだが。

 ……こんな説明で、どうだろう。

「ふうん……そうね。思う所はあるけど、少なくとも。
 あんたの大事な物を入れる宝箱に、あたしは入ってるんだ?
 んー、よし。前向きに受け取っておくわ。
 じゃあ行って来るわね、おに〜ぃちゃんっ♪」

 妙に媚びた呼び掛けを残し、アンヌ前進。
 見た感じ高揚した様子で、話すだけ話して良かったか。

 恋愛感情、なー……

 俺はどうにも、異性に関する欲求が薄い。
 俺が俺自身の血筋、遺伝子を嫌っているのが一因だろうか。
 加えて傭兵稼業、軍属、人を殺しがちな仕事でもある。
 俺なんかが安穏と幸せになって良いのか、甚だ疑問だ。
 ただもう、子供達さえ健やかであってくれれば。

 もう1人の妹、というか妹弟子は大丈夫だろうか。
 魔人同士の全開戦闘が始まったら、もう見守るしか無い。

 俺は俺に出来る事をしよう。
 要救助者が残っている。
 整復魔法。砕かれた骨を元に戻す。
 ひとまず子供達の所に戻らないと。

「あ、ああ、待って」
「我々はどうしたら」

 あ、そうだ。捕虜悪魔達。お前らどうしよう。
 抵抗の意志は無い様なので、一旦連れて行こうか。



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