黒鷲の旅団
19日目(13)最善手を探し続けて
「あ、あ、お兄さ……うっ、うわああああん!」
ユッタ、俺が戻るなり泣き出してしまった。
緊張の糸が切れたんだろう。
連鎖的にサンドラやマリナ、カリマなんかも泣き出して。
よしよし。みんな、よく頑張った。よーしよしよし。
抱き締めて、宥めて……しかし、時間も掛けていられない。
うん、落ち着け。もう大丈夫だから。
ひとまずは要救助者の治療に当たらないと。
「とっ、途中まで、やっといたんだよ!」
「血は止まったんだけど、手の形とかが」
アイリスとノイエが駆けて来た。
俺もすぐに加勢しよう。
軍隊戦闘が終わるや、分業に掛かった子供達。
周辺警護は花人・魔物・骸骨騎士団。
狙撃手を戦場監視に残し、魔法が得意な者は治療班に。
縫合、止血魔法の使い手は、衛生担当以外にも少なくない。
ノイエには整復魔法まであり、しかし形成外科魔法が無いか。
骨折まで処置済み。欠損部位はまだ止血のみ。
形成外科魔法。欠損部の治療を試みる。
火傷には培養魔法に寄る皮膚の再生。
感染症には解毒、浄化、浄血、抗生、抗血清、免疫魔法。
『ご主人、ちょと困た。たすけてー』
花人隊からカトレアーネの通信。どうした。
投降した奴隷兵が集まって来ている?
通信と、視線を向けてみる。
「あーう、だめー」「まだだめー。待ってー」
「そんな事言わずに助けてくれ!」
「だめー。だめなのー」「待ってー」
「お願いします! 子供だけでも!」
押し寄せる奴隷兵を花人達が抑えている。
茨の柵で進行を阻んで……しかし続々と詰め掛けて来る。
奴隷兵らも死に物狂い。どこから乗り越えて来るか分からん。
抑えている方の理由は、危険性だ。
奴隷兵に付与された、呪いの爆発釘。
遠隔操作で起爆可能で、起爆の有効射程が分からない。
捕虜悪魔はともかく、他にどこから見ているか。
雪崩れ込まれた所を爆破されても怖い。
勿論、奴隷兵達も助けたい……助けたいのだが。
先の要救助者、手足を欠損した子供達も気になる。
形成外科魔法の効きが悪くなって来ている。
タイムリミットが近いのか、俺の疲労のせいか分からんが。
疲労のせいだとして、やはり手が足りていないという事だ。
「わ、私がやろうか?」
名乗り出たのは女の捕虜悪魔。
剣から魔法を出す、えーと、ルーメンディアか。
剣から飛ばせば怖くないから、解呪の方なら手伝う?
狙いは何だ。悪魔が奉仕の心でもあるまい。
移籍したいのでアンヌ達に口を利いて欲しい?
それぐらいなら良いか。解呪魔法を伝授する。
「な、ならば我も」
魔法鎧のロストハルト。爆発にも耐え得るか。
負傷者が居たら優先で頼む。
残りの4人には、解呪が終わった奴らの誘導を頼もう。
まだの奴と距離を置いて、座らせといて。
その辺の労役を以て、捕虜からは解放としよう。
命令か自発的にか、奴隷兵の命を弄んだ悪魔達。
少しぐらい手伝ったからと許される物でもないのだが。
被害者と仇を一緒に連れ歩くのも落ち着かない話だ。
せめて反省と仇討ちの機会は残しておく。
人類擁護派に鞍替えするなら、また会う事もあるだろう。
「承知した」
「やってみるよー」
「わんっ、わんわん!」
口数が少ないのはヘイルバート。
子供悪魔のミストルフとフラムニーナ。
あと、犬語?で喋るシュトルメータ。
「……わん?」
わん?じゃねーよ。
このシュトルメータという女悪魔、どうしたんだ。
元気そうだし危険は無さそうなので、後に回すが。
何か心でも病んでいるんだろうか。
まあ、主人がジェニフェレーヌだからなあ……
処置の済んだ負傷者。俺が助けた赤ん坊含め4人。
それと子供悪魔が追加で拾って来たのが3人。
後から詰め掛けて来た奴隷兵。
大人の男11人。女14人と、赤ん坊2人。
それから子供が男女9人。
首都なり誰かの領地なりで保護を求めたい所だ。
しかし首都に向かうと、国軍と魔王軍と交戦中か。
都合の良い所に領主の知り合いなんて居ただろうか。
首都の情勢も気になる所ではあるが。
ヘトヘトで着いて、足を引っ張っても仕方がない。
態勢を整える。治療が済んだ所で、まずは昼飯か。
ぐう、とユッタの腹が鳴る。お腹で返事しちゃった。
「あ、あっ、ごめんなさい……」
ユッタ、俯いて赤面。気にしなくて良いから。
ずっと気を張っていても持たないだろう。
手の空いた者から食事の支度を……
「おっちゃん! 探知!」
カーチャから呼び掛け。
探知魔法、共有している探知情報を見ろと。
友軍らしき光点が帯状に並んで街道を来る。
友軍……と思うが、カーチャ。何か気になった?
カーチャの認識でも、ほぼ緑。友軍で。
しかしノイエからは一部黄色や赤も見えたのだと。
それぞれに向けられる意識で色が違うんだった。
花人隊、アンゼさん……黄色と赤。中立か敵対。
骸骨騎士クラウスさん……ほぼ赤に見える。
これは、アレだな。
国軍だが神聖教会寄りの集団だろう。
無駄な衝突は避けたいな。
食事の支度は一旦中止。全員森へ移動。
俺は残って、奴隷兵の保護を求めてみる。
まったく、次から次へと。
気が休まらない状況が続くな……
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