黒鷲の旅団
19日目(14)名誉は無くとも得難い仲間と
「奴隷? 戦利品だろう。
貴様の好きにせよ」
「保護だと? 他を当たれ。
平民なんぞにかまけて遅参するワケには行かん」
あー……これ、ダメな奴だ。
接触した集団は、どうやら領主貴族の私兵団の様だ。
解放した奴隷兵の保護については消極的。
献上しろと言って来ないだけマシだろうか。
連中は公主を助けるべく、首都決戦に向かう様子。
まあ、逆らって待遇が良くなるでなし。
元奴隷兵達には別の方法を探そう。
と思っていたら、派手な鎧甲冑の騎士が1人。
ひときわ偉そうな貴族様に何か耳打ちをする。
貴族様はこちらに馬を向けて来て、
「その方、亜人の従者を連れた冒険者だそうだな?
亜人どもはどこだ。我が兵卒の前に出せ。
一番槍の栄誉をやるぞ」
それは要するに、肉壁にしろという事か。
自分達の兵の盾となって死ねと。
亜人種の命は相変わらず軽んじられている。
しかし、あの派手鎧。俺を冒険者だと知っている?
誰だ。解析……何だ、ダニエルか。
貴族の息子、ペトリナに暴行を働いた冒険者。
兜でトレードマークのモヒカンが隠れていた。
お偉い貴族様の方は、アーレンベルク候。侯爵。
ダニエルの実家は子爵。身内ではなかろうが。
しかし、あいつを重用しているのは何だ。
やっぱり身内由来のコネなんだろうか。
えー、どう言い逃れよう。
栄誉なんて俺達には勿体無いです。
どうぞお構いなく、先へいらしてください。
「栄誉は要らぬと。では、褒美ではどうだ。
今は一兵でも惜しい。参戦せぬか。
死んだ兵の数だけ金貨を積んでも良い」
1人頭、金貨1枚……とは安く見られたな。
うちの可愛い騎士達を捨て石には出来ませんので。
「へっへへ……紹介しといて、すいませんね。
あいつ思ったより腰抜けですぜ」
「むう……しかし、亜人が騎士と申したか。
その方、貴族であったか? 名は何と」
名も無き名誉貴族の冒険者ですよ。お構いなく。
侯爵様はまだ何か言いたそうだったが、引き下がる。
にやにやするダニエルなんか、今は眼中にも無い。
……情勢、戦況ぐらい聞いてみても良かったかな。
しかし、ゆるゆると進軍して来たんだ。
近隣で魔人姉妹がケンカ中とも気付いていない。
斥候の不足、あまり現状は掴めていないのだろう。
元奴隷兵達を呼び集めながら、森へ。
保護を断られた元奴隷兵達は不安げな表情。
魔王軍の捕虜だったが、元はどこから。
地中海沿岸部の出身だという声がチラホラ。
魔軍の版図拡大に飲まれた文明圏、だな。
まあ、悪い様にはしない……つもりだが。
魔王軍が進行中で、情勢が不安定。
そこらで解放しても、また捕まるか分からん。
帰そうにも、故郷はまだ魔王領だろうし……
今少し、同行して貰おう。
俺が森に近付くと、子供達が顔を出す。
大丈夫だよ。昼食の支度に掛かろう。
しかし、遠目に連中も見ているだろう。
骸骨騎士団は、悪いが引き続き森の中で頼む。
花人達が農耕魔法。イモを中心に生産。
そろそろ肉も仕入れたいが、狩猟の機会が足りないな。
野菜スープとフライドポテトを作っていく。
「イモ、んまい……」
「本当だ……」
「覚えて帰りたい……」
フライドポテトはどこへ行っても好評。
こればっかりでも身体に悪いと思うけれども。
赤ん坊孤児は、他の赤ん坊連れが母乳を与えてくれた。
放って置けないのでと言ってくれる。
やっぱり母性って、母親って偉大だな……
俺の母は、俺を放って蒸発してしまったが。
父、暴力。母、蒸発。姉貴が心を病んで入院。
俺と兄貴が人殺し。傭兵と軍人になった。
我ながらロクでもない家庭環境だと思う。
そんな俺にマトモな部分があるとしたら。
それは家庭ではなく、周囲の人間関係に育まれたものだ。
関係……そうだ、新人達は大丈夫か。
仲良く出来そうだよ、とフェドラだが。
腕前の方は、マルカとフレヤが首を傾げる。
ハーフドワーフのフリーダは技量、腕力とも優秀。
ダークエルフのルジェナ、パワー不足だが技量は満点。
竜人、水竜のマリッタは少々不器用だがパワーが充分。
ハーフスキュラのリリヤは可も無く不可も無く。
先天的に水系魔法が使えるのが強み。
問題は、人間種のダーシャとアルメルか。
秀でた所が無い初心者、つまり全体的に弱い感。
クロスボウのが良いんでない?とティルアの提案。
お古を取ってあると言うので、数は揃う。
しかし、本人達の希望は?
ダーシャはどっちでも、というのだが。
アルメルは弓が、マリッタと一緒が良いと言う。
闇オークションの裏手での事。
死んだフリをして難を逃れたアルメル。
戦い負傷、死ぬ思いをしたマリッタ。
強者の務めを果たしただけだ、と気高いマリッタだが。
アルメルにしたら、見殺しにしたみたいで居心地が悪い。
この借りは返したいだろう。
俺としても、各隊に1人は人間種を置きたい。
亜人の話を聞かん奴とも、交渉する必要が出るかも知れん。
どっちも使えるフリーダを第2弩兵隊隊長に。
リリヤとダーシャを第2弩兵隊員にします。
第2弓兵隊はルジェナを隊長に。
マリッタとアルメルは頑張って技を磨いて貰おう。
編成は決まって、目的地は首都。
イェルマイン達からの通信が届いた。
アンヌ達も戻って来る様だ。
それぞれ合流次第、出発しよう。
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