黒鷲の旅団
19日目(15)行く手に暗雲
「それではお兄様、ごきげんよう」
魂縛の魔人アルメリスティーヌ、ちょこんとお辞儀。
お兄様……アンヌに何か聞いたのかな。
アルメは戦線離脱に快く応じてくれた。
相性の悪い相手に、生きるか死ぬかだった所が損害軽微。
加えて素養も1つ伸びたとかで、恩義に感じた様だ。
捕虜悪魔達も一時預かり、アンヌの所領へ連れて行くと言う。
淫虐の魔人ジェニフェレーヌは飽きたのか、早々に撤退。
姉妹間に大きな被害は出ていない。
ジュス姉の精神ダメージを除けばの話だが。
「もうやだぁー……あいつやだー……うおーん……」
ぐでんぐでんに疲れているジュス姉さん。
深く追求するなとのお達しなので、察するより無いが。
さぞかし弄ばれたんだろうな、とは思う。
お疲れ様。暫く馬車で休ませておこう。
アンヌの方は余裕がありそうだが、一緒に休んでなさい。
アンヌの馬は俺が預かる、というか貸して。
奴隷爆弾の巻き添えで、俺の馬は死んでしまった。
すまん馬。さらば馬。首都に帰ったらまた馬を揃えないと。
「しかし落ち着かないな。
アンデッドと隊列を組むなんて」
不満げというか不安げなのはディアラディア。
スティグマイト隊の女魔術師だ。
交戦の意志は無いので、仲良くは無理でも不干渉で頼む。
イェルマグ隊が集めて来た冒険者パーティ。
ガイゼル隊とランカー。パラディオン隊。
キャスティーナとスティグマイト一行。
サナトスやロッシィ達の姿もある。
ある……けど、知り合いばっかりだな。
イェルマイン達も、他にも声を掛けたのだが。
ダンジョン攻略で忙しい。ボス戦の真っ最中。
あるいは国家間戦争に関わりたくない等々。
イーディス公主に縁がある者が、優先して集まった感。
そうだ。ランカーが居るので話をしたい。
ローダとテクラの出向については同意を得る。
ただ、時々顔を見せて欲しいと。
「俺が連れ歩くよりは、あんたに預けた方が安心なんだが。
俺も、ちっさいなりに家も買っててさ。
俺なんて全然パパじゃないけど、実家か何かと思って……
ああ、そうだ。野菜作る魔法って教えてくれないか。
料理スキルが段々楽しくなって来てさー。
ただ、タマネギが品薄なのか、なかなか置いてねーんだ」
ギャンブル中毒がスローライフに目覚めた?
これは良い傾向かも知れない。
俺から農耕魔法を伝授……ちとレベルが足りない。
この際なのでスキルポイントを15振った。
他にも伝授する機会が出て来るかも知れない。
そう言えば農耕魔法、俺は花人から教わったが。
魔術師ギルドとかには置いてないのか。
植物魔法も併せ、植物由来の魔物用魔法らしい。
他に希望者があれば……いや、農耕魔法に限った話だ。
他の特許魔法は魔女協会で買ってください。
「ちぇー、しっかりしてんの」
「あ、わたし買ったよー」
「農耕って何出せるんだ?」
農耕魔法を、ガイゼル隊は魔女ベデリアとサスキアに。
スティグマイト隊はディアラディア。
キャスティーナは本人と、子供従者キュラとキュネにも。
イェルマインの隊は、マグダレーナが既に伝授可能レベル。
サナトス隊は……全員にくれと。
全員の魔法リストを埋めたがるのは、隊長の傾向だろう。
魔法が使える、という状況を至極歓迎している様だ。
「魔物の魔法、邪悪に与する物ではないのでしょうか」
「魔法はただ、力なんだよ。善だ悪だは使い手の心次第。
穏やかな夜の闇、なんて、暗いからって邪悪だなんて……
いや、あんた達は言うのかも知れないけどさ」
スティグマイト隊の女司祭プリマヴェーラの問い。
答えたのはガイゼル隊の魔法弓士ジェイン。
ジェインも魔法は魔女協会で習った口か。
神聖教会にはあまり良い感情が無いと見える。
プリマヴェーラは神人。教義には厳しくないと思うけど。
教会内での出世を狙うには、交友関係にも気を使うか?
神聖教会が話題に上って、俺の隣にいたリリヤの表情が曇る。
新入りチームの子達も、差別ってあったのだろうか。
あいつら下に見て来るのがムカつく、とフリーダ。
そうだそうだとルジェナ。マリッタも強く頷いた。
リリヤは……もっと酷かった?
半分スキュラとバレた途端に、孤児院から追い出されたと。
救済の旗頭が、こんな小さい子を路頭に迷わせるなよ。
娼婦や奴隷を非難する連中が、増やす様な事をしている。
そうでもしないと生きていけない子を増やしている。
俺の考えは変わらない。
半分亜人でも、魔族でも魔物でも、子供は全部子供だ。
大人が守ってやらないと。
勿論、神聖教会も一枚岩ではあるまい。
マイナさんみたいに、身を挺して守ってくれる人も居る。
しかし全体の傾向として、差別意識が強い。
連中の、特に石頭共の意識を変える事は出来るだろうか。
魔王軍に入って人間種虐待を無くす方が簡単な気さえする。
実利と暇潰しさえ満たせれば、奴らの方がまだ柔軟だ。
先入観だけで剣を向けて来る、可能性がある連中。
どう折り合いをつけるか、未だに展望が見えない。
総本山にでも行って、亜人種の市民権を約束させようか。
それにはもっと影響力を付けないとダメだろうかな。
今は100人足らずの傭兵団。話を聞いて貰えるかも怪しい。
爵位でも繰り上げるか、伝手でも開拓するか……
『……さん……黒鷲さん。あっ、繋がった!』
不意に通信。フレスさんか?
阻害領域がクリアされた?
結界装置の持ち主が倒されたのだろう。
それならば、と、フレスさんとも連絡を取りながら。
片手間で探知魔法の範囲を広げてみる。
広げてみて……ちょっと後悔した。
首都周辺が敵反応、赤い光点で埋まっている。
戦況は、どうやら悪そうだな。
フレスさんの通話は取り乱していて。
俺が来たから大丈夫、と言えるレベルでないのが厳しい。
まあでも……手は尽くすぞ。
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