黒鷲の旅団
19日目(16)モンスター・ディヴィジョン
「え、えっ?」
「早く行かないと?」
そうなんだけど、ちょっと待ちなさい。
駆け出そうとする新人達を制止する。
「理屈なんかいいから突っ込もうぜ?」
「市民が困っているのだ。捨て置けんだろう」
スティグマイト隊のシースパロー、エトワール。
無策のまま敵の注意を引くのはダメだ。
敵が多過ぎて飲み込まれてしまう。
俺達神人は生き返るが、唯人、特に子供達はどうする。
市街の被害状況も分からん。どこから助けたら良い。
「し、しかし……師匠っ!」
「進軍中止だ。私も我が子の命は惜しい」
「わ、分かりました……」
キャスティーナの説得に折れるエトワール。
シースパローも渋々戻って来る。
ルーシャ、敵の数をカウントしたい。
城壁の塔と塔の間、魔軍の魔物は何匹見える?
大体で良い。スコープ越しに数えてみてくれ。
その間に、戦況はフレスさんの通信から。
魔王軍は南の城門を破り、既に市街に侵入している。
国軍は城まで後退して籠城戦の様相。
巡回して逃げ遅れを探すどころではないらしい。
「ママ……」
「お爺ちゃん……」
マリナとユッタが不安げ。避難状況は?
東区の住民は、速やかに魔女協会に集まった様だ。
炊き出しをやって信頼を得ていたのが良かったか。
ヘリヤかシャンタル、手が空いていたら安否確認を……
と思ったら、通信映像の中にハミルトン爺さん達。
『おう、ユッタは無事か? こっちの安否確認だな?
ユッタの友達の母ちゃんとか、ボロ教会の連中も避難してる。
怪我人も居るが、死んだ奴は居ねえ……よな?』
『はあい、愛しのシャンタルたんだよー。なんつって。
あっ、ちょ、怖い。フレスたん、顔怖い。
除細動魔法の出番は来てない、って言えば大体分かる?
逃げ遅れ、は……あ、ああ、大丈夫だって。
居たけど探知して、フリアたん達が助けに行ってる。
ただ、中央通りから西は分かんない。敵反応、多過ぎ』
『筆頭大魔女ジズデリアだ。まずはよくぞ戻られた。
魔女協会の結界は強固。そこらの魔物では破られまい。
ただ、魔人クラスが出て来ると、正直自信が無い。
注意は王城、中央通りに向いているとは思うが……』
方針が少し見えて来た。
例えば魔女達と合流して反転攻勢する場合。
合流するまでは注意を引かない様、戦闘を避けるべきだ。
あるいは南門、敵軍を後ろから派手に突っつくなら。
敵の注意の大多数を引き付けられれば、と条件は付くが。
魔女協会への応援は一先ず考えなくて良い。
この条件が結構重いな。
足りなくても陽動に至らないのだが。
しかし突っつき過ぎてもこっちが持たん。
ルーシャ、敵の数は?ざっとで。
ルーシャから見えたのが、ざっと……
多過ぎて、ざっとも難しいか。
分かった。別の手を考えてみる。
空間魔法で脳内地形表示。
探知魔法で敵の光点を示す。
演算魔法で集計する……どうだろう。
範囲が広過ぎて、演算にも時間が掛かる。
計算結果がなかなか出て来ない。パス。
もっと範囲を絞ろう。検索対象を限定。
測量魔法で面積を割り出して、探知集計。
指定面積当たりのモンスターの数、割る、指定面積。
こいつを平均モンスター密度(仮)とする。
更に分布している面積に掛けましてー、と。
はい出ました。7万8千……およそ4個師団だと?
いや、少なからずブレがあるだろうけれども。
よくもまあ、こんなに集めてくれやがったな。
全部ゴブリンとかなら、いざ知らず。
ゴーレムとかサイクロプスとか、デカいのもゴロゴロ居る。
余程効率良く、上手に叩いて行かないと。
「な、なあ、今の何? もうアレ数えたのか?」
「数字にも必殺技があるにゃあ?」
マルカとジェマ、数字苦手そうな子が興味を持ってくれた。
そうだな、ただ数字を眺めるより面白いか。
帰ったらまた色々教えてやろう。
そう、帰ったら。あの大軍をブッ飛ばして帰る。
全員無事で家に帰ろう。
腹は括った。後は方法だ。
探知に反応が引っ掛かった。
アシュリィとランスロット達が、それぞれ交戦中。
アシュリィが優勢。ランスロット側は一進一退か。
城のイーディス公主らも持ち堪えている様子。
連中を後押しすれば、魔人撃退は叶うと見た。
最大レベルは1500強。各個撃破出来れば勝ち目はある。
ランスロットの援護にスティグマイト達を送る。
キャスティーナは……行くけど子供達を置いて行く。
キュラとキュネ、弓を持たせてマリナ達の後ろへ。
他の隊は、ここに残って迎撃準備。
敵後方の連隊を順次おびき寄せて叩く。
主戦力はアンヌ、ジュス、パラディオン達。
今回も頼りにさせて貰うぞ。
まずは……ここに城を築こうか。
氷花魔法第13位、フロストキングダム!
前へ
/黒鷲の旅団トップへ
/次へ
|