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19日目(17)城塞爆弾

「きょ、きょ、距離! しゃんびゃく!」

 サンドラちゃんより、距離300切った。
 陣地放棄、後退する。総員、駆け足!

 首都を攻める敵陣より南、丘の上。
 魔法で築いた、幅5km厚さ100mに渡る氷と霜の防衛陣地。
 建設は氷花魔法13位、フロストキングダムから。
 氷と霜の城砦には、ご丁寧に城門までついて来る。

 俺達はここから、首都側の魔王軍後方へと狙撃。
 様子見程度に繰り出して来た1個連隊を誘い出して叩く。

 遠射で迎撃していた子供達が、城壁の上から下りて行く。
 陣地を捨てて後退、後方の第2陣地へ向かう。

 俺は最後尾。子供達を見送りつつ。
 付与、解錠魔法。敵側の氷の門を開け放つ。
 反対の門を抜けて、こちらには施錠魔法。
 これで敵は城内に足止めされる。

 遊撃に出ているパラディオン隊に念押し。
 こちらは脱出した。手筈通り、城を迂回して後退する様に。

 次の陣地に走る。走りながらカウント。
 60……70……80……フェドラ、撃て!

 ぴょう、と矢が飛んで、元居た陣地に落ちた。
 爆炎が上がる。仕込んだ罠は燃料魔法12、爆薬魔法4。
 結界と断熱魔法が4、更に燃料気化爆発魔法。
 結界・断熱で閉じ込められた空間に、爆炎と猛火が満ちる。

 敵損害……ログ解析、集計。撃破表示1191匹。
 最初の連隊の半分強が丸焼きになった。
 もう少し引き込んでも良かったが……まあいい、次だ。
 後続を馬鹿正直に相手する必要は無い。

 次の陣地に駆けこんで、子供達は敢えて素通り。
 俺は魔法罠を仕込んでいく。

「わん! わんっ!」

 ん? 犬語の女悪魔シュトルメータ。
 アルメリスティーヌと帰ったんじゃなかったのか。

 シュトルメータの見上げる先、城壁の上。
 リリヤが外向けにクロスボウを構えている。
 リリヤ、こっち。ここでは防戦しない。
 繰り返し説明したんだが、緊張で忘れてしまったか。

「あ、あっ、ごごごごめんなさいい!」

 慌てて城壁から駆け下りて来る。
 怒らないから、そんな泣かないで。

「リリヤ、居た!」
「気が付いたら居ないんだもん」

 フリーダとダーシャ、同じ新設第2弩兵隊。
 気が付いて探しに来てくれた。
 よしよし、みんな良い子だ。

「わんっ!」

 あ、はい。あんたもよしよし、シュトルメータ。
 何でこの人は戻って来ちゃったんだか。
 この際、お手柄だったから良かったけれども。
 オツムが犬化していて、意思の疎通も難しい。

 まったりしている場合じゃないな。
 次の一波が攻め寄せて来る。
 ほら、みんな早く行きなさい。

 爆炎罠を抜けて来た連中、構成は如何ほどか。
 今度は炎耐性の敵を、冷気系統で改めて振るいに掛ける。
 罠は水、凍結、氷結、霧霜、氷花、水脈……少し足そう。

 氷結、凍結、水脈、氷花、重力、濃縮。
 氷河魔法グレイシャル、で、どうだろう。
 大量の氷を堆積、流動させ、冷気と質量で押し潰す。
 コイツを設置発動……

 げふっごふっ!
 咳に血が混じった。

 ちょっと消費魔力が俺の保有量をオーバーしている。
 しているけれども休んでいられない。
 ドリスさん、通信。魔力薬の追加を。

 本当に、通信が届く様になって良かった。
 手元に無くても、在庫の譲渡に同意して貰えば良い。
 受け取り自体は転移魔法で叶う。
 1本5千の魔力薬を40本追加する。

 俺は果たして、魔力切れで体調が悪いのか。
 それとも魔力薬の飲み過ぎで具合が悪いのか。
 両方かな。一段落したら静養したい。
 丸一日ぐらい、のんびりしたいモンだ。

 氷の門を叩く音。お客さんが来た。
 解錠魔法付与、銃撃。門を開く。
 また罠だと思って躊躇するだろう。
 しかし敵将が、俺が居るなら話は別だ。
 魔軍の兵が、魔物が押し寄せて来る。

 まあ、ずっと居てやるワケじゃないんだが。

 敵を避けて城壁に上る。
 迎撃は拳銃、付与は空間侵食魔法。
 一発毎に空間を抉り取って大穴が開く。
 面白いんだが消耗がヤバい。
 節制発動でもフルゲージの3割持って行かれる。

 尚も押し寄せて来る敵影。
 カウント、5、4、3……こんなモンだろ。
 城壁を飛び下りる。
 浮遊魔法で落下速度を緩和。

 その後ろでバキバキミシミシ。
 時限発動した設置氷河魔法が敵を押し潰す。
 結界魔法で前後左右を阻まれ、氷柱が空へ伸びて行く。

 ……ほぼ物理攻撃になった感。
 結界と氷に挟まれ、少なからず擦り潰されている。
 この際だ。倒せれば何でも良いんだが。

 奴隷兵を回して来ないのが幸いだ。
 奴隷は首都防衛部隊への嫌がらせに使われている。
 お陰でこっちは手加減しなくて良い。

 敵損害、集計。撃破表示1355匹。
 先の連隊が全滅、続いた後詰まで巻き込んだ計算。
 実際そんな綺麗な内訳でもないだろうが。
 それでも後詰を送って来た。それなりに危険視されている。

「あっはは! 城を使い捨てるとは豪気ですねえ」

 後退する俺に並走して来る人影。
 誰かと思えば魔王様か。こんな戦場付近をウロウロと。
 仲裁に入るタイミングを図っているのだろう。

 敵の足も止まった様子。
 次の陣地で一旦状況を整理しよう。



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