黒鷲の旅団
19日目(18)それぞれに乗り越えて
『すまない、助かった。
君が彼らを寄越してくれたって?
お陰で西区は何とかなりそうだ』
『こちらは今、良い所だ。手を出すなよ?
折角のラブコールには答えてやらんとなああ!』
首都城壁内、西区のランスロット。
城壁外、東から敵陣攻撃中のアシュリィ。
それぞれ通信した所、戦況は優勢。
こちらの陽動で、キャスティーナ達は無事に到着。
ランスロット達と共闘し、既に魔人1人を敗走させている。
魔王様の提示した停戦条件まで、あと1人。
アシュリィは優勢。公主は、城の方は?
『ズィルバァァァ・ライヤァァァアアッ!!』
イーディス公主、奮闘中……は、良いとして。
俺の作った槍の名前を、必殺技名みたいに叫ぶな。
負けてはいない様なので良しとするが。
「うちの子達、どうやらお説教が必要ですねえ。
もう損害が全体の2割を超えています。
ここから、包囲して兵糧攻めに移るならまだしも。
侵略側が全滅まで戦うなんてナンセンスですよ。
まったく、今まで何を研究して来たんだか」
霜の城壁の上、戦況を値踏みする魔王ペーター。
変身魔法から人間の姿になっている。
お陰で大きな混乱は無いが、気付く人は気付いてしまう。
「あ、あの……父上、あのね?」
アンヌちゃん。魔人デルフィアンヌ、おずおずと。
魔王様に怒られても構わないと言って、うちの団に残留。
しかし、いざ目の前にすると怖い物があるか。
そんな彼女に、魔王様は珍しく穏やかな顔をする。
「成果を上げろと言って、君は成果を上げている。
成長株、席次89位、軍略のデルフィアンヌ。
もっと堂々としていてよろしい。
神降臨の際には呼びつけます。
それまでは、そのまま自由にしていなさい」
最後はまた、いつものニヤニヤ魔王に戻っていたが。
残留を認められてホッとした様子のアンヌ。
こちらと目が合って、むふっと笑う。
「それじゃまたよろしくね、おに〜ぃちゃんっ♪」
聞いていたのか、魔王様がブフッと吹いた。
その呼び方、何か照れ臭いんだけど。
気を取り直して……こちらの状況は。
子供達、魔物従者隊、元奴隷兵。脱落者は居ないな?
新人達には疲労の色も見えるのだが。
先輩チームが交代で馬を貸してくれた様だ。
元奴隷兵に至っては、矢弾の配布を手伝わせている程度。
交戦が始まると先に逃がしていて、損害は無い。
戦果の方は、迎撃と城塞内の爆破で魔物2546匹を撃退。
大物はアイアンゴーレムやアーマーサイクロプス。
細かい物では、各種兵科のゴブリン、スケルトン。
パペット兵……人形?変わり種も混じっている。
中隊指揮官のレッサーデーモンも30匹ばかり巻き込んだ。
こう簡単に罠に掛かったのは、魔王軍事情。
アンヌが最初に言っていた、指揮官が足りないという奴だ。
魔人に使役されるレッサーデーモンは、知能は高くない。
言われた通りに前進や後退、命令を遂行するのがせいぜい。
自発的に何かを考え、即時対応は出来ていない。
なるほど、人類検証計画なんてのが浮上するワケだ。
魔王曰く、損失2割。
俺が見た時、8万前後は居たと思ったが。
仮に初期兵力10万だとして、損失2万程度?
公主達、ハイレベルプレイヤーが奮戦したかな。
他に目立った情報は無いか。
戦場を広く見回して……あ、壊滅しとる。
アーレンベルク侯爵の向かった方向だ。
死体ばかりの領域があるのは戦場跡だろう。
解析。ログ集計。
侯爵を始め、主立った貴族は戦死した様子。
ダニエルの死体は無い様だ。逃げたか。
まあ、多かれ少なかれ意気消沈しただろうし。
ペトリナの仇討ちはこんなモンで終わらせない。
『おーい。聞こえる?おーい』
公主から通信。敵のラッシュを凌いだか。
魔人を見たか?帰った?なら良し。
「「各々、そこまで! もう良かろう!」」
魔王ペーターの若い声に、野太い声が重なる。
何か音響系の魔法か?
「変声魔法ですよ。良いでしょう?
魔王には威厳とか演出も必要な物で。
今度、魔法の教えっこしたいですねえ。
それじゃ、僕はお先に」
魔王様、ひょいっと城壁を飛び下りて。
変身を解いて、ばさり。コウモリ状の翼を広げた。
イーディス公主との停戦会談の為、城へ向かう。
行かなきゃ?と首を傾げるアンヌだが。
急がなくて良いだろう。
俺達が協定内容に口を挟む事もあるまい。
新人達の疲労もある。少し落ち着いたら街へ帰ろう。
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