黒鷲の旅団
19日目(20)取り零し掛けていた物
「ご、ごはんですよー。起きてくださーい」
俺の顔を、小さな手がぺちぺち叩く。
小さな……トゥーリカ?じゃない。
コロボックル姉妹の、えーと、ヘーゼルの方か。
首都の往来が復旧、ハミルトンの店から戻った様だ。
そうだ、夕食がまだだったな。
窓の外を見ると、もう日が落ちている。
疲労と不調で、そのまま寝てしまっていた。
子供達は……もう食べた? なら良し。
新人達には、戸惑いの声もあった様だ。
従者が勝手に先に食べて、等々。
しかし、起こしても可哀想だよ、とフェドラ。
健康でいるのも任務だから、とはマリナから。
作っといてビックリさせようぜ、とカーチャが結んだ。
うん、それで良いんだよ。
ちゃんと自己管理してくれていて助かる。
夕食、俺の分にはシチューが残してあるらしく。
ヘーゼルと別れ、食堂へ向かってみる。
「あっ、お兄さん!」
「オヤジ! あっ」
「パパさん! あ、ああー……」
ユッタ、マルカ、ペトリナと順に駆けて来て。
出遅れたマルカとペトリナ、残念そう。
ユッタも少しバツの悪そうな顔をする。
それぞれに話したい事があるのだろう。
みんな順番に聞くよ。まずは食堂に入ろう。
ペトリナがシチューを温めてくれて。
その間、ユッタから報告が幾つか。
魔女協会との通信内容。
戦場となった首都。治安が悪化している様だ。
暗くなったら出歩かない様にと、釘を刺されたらしい。
東区の損害は軽微。重症者も居たが死者は出ていない。
ただ、建物が多かれ少なかれ壊されている。
避難している人達は、そのまま魔女協会に泊まるという。
それと、新人達の装備。
第2弓兵隊、第2弩兵隊に旅の装いセットを配布。
これは体型の近い先輩達から貸し出している。
ボロ着だったのを見るに見かねて。
しかし思い出の品で、最終的には返して欲しいか。
明日、仕立屋に寄ってみよう。
隊員達は元気? とにかく疲れたかな。
いっぱいレベル上がってたよ、とユッタ。
分かった。後で確認してみよう。
ペトリナがシチューの皿を持って来て。
ん、みんなの分も?
腹減っちゃった、とマルカ。
太っちゃうかな、とユッタ。
沢山動いたし、軽めなら大丈夫だろう。
「すんすん、すんすん」
「ごはん? ごはんー……」
後からツェンタ、フリーダ、ダーシャ。
鼻を鳴らしながら食堂に入って来た。
眠い眼をショボショボさせながら席に着く。
まだ朝ご飯じゃないんだが……食べ盛りか。
あるいは、食べられる時に食べなきゃという習慣か。
お代わりある? あるよ、とペトリナ。
すまん。用意してやってくれるか。
幾らかシチューを口にして……マルカの話は?
ユッタほど大した事無いんだけど、とモジモジ。
些細な事でも、気が付いたら言ってくれ。
マルカの悩み……マリッタが余所余所しい。
半竜人、水竜族のマリッタ。
同じ竜人族で仲良くしたいマルカなのだが。
マリッタは誇り高き水竜として、英才教育を受けていた。
火竜はライバルであり、相容れないという。
他方マルカは、親の顔も知らない。
両親の教えも何も無い。
火竜と水竜がどうと言われても困ってしまう。
同じ竜なんだし仲良くしたい。
あたしがおかしいのかな、とマルカ。
案外、お前みたいなのが種族間の懸け橋になるんだろう。
そうめげるな。マリッタには俺からも話してみる。
ペトリナは?復讐心を抱えた子達が心配。
ゴブリンを憎むジルケと……あとレーネも?
貴族軍にダニエルを見つけて、あわや飛び出す所だったと。
大事なペトちゃんを虐められた仕返しに、だな。
てへへっと笑う、大事なペトちゃん。
しかし貴族に正面から手を出してはマズイ。
止めに入ったのはヘルヴィ。気遣いが成長したか。
以前なら殺しちゃおうとか言いそうだったが。
復讐なんかより平和に暮らしたい、とペトリナ。
ペトリナはペトリナで、レーネに何かあったら心配。
しかしダニエルは、向こうから手を出して来る事もある。
何かしら対策はする。対策はするから。
レーネには、今暫く踏み留まって貰わないと。
突っ込みがちなジルケは……程々にと言っても聞かないか。
だが、そこらのゴブリンと刺し違えた所で、まだまだ居る。
根絶は難しくとも、自己保全した方が長く戦って行ける。
本人の為にも、無茶はしない様に言い包めたい。
と、ユッタは報告だったが、マルカとペトリナ。
相談したかったが話し掛けるタイミングが無かった。
これは改善しないと。もっと交流する時間を作ろう。
魔王軍の侵攻が止まったなら、時間も出来るハズだ。
新人、フリーダとダーシャにも声を掛ける。
少し慣れた?不自由してない?
ここはご飯があるよー、とフリーダ。
眠い顔のまま、幸せそうにシチューを啜っている。
うん……みんな幸せだと良いな。
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