黒鷲の旅団
19日目(21)毛髪はともかくとして
『ふぉっ! お父さんなのです』
『ふぇっ? 何かあったのです?』
リンク終了後、現実側。
ふと思い立って、留学中の養女と連絡を取ってみた。
孤児だった双子のエディスとディアーヌ。
俺と、同僚のグラディスが義理の親をしている。
企業間抗争を離れ、安全な地域で留学中。
自分達の所に居るよりは安全なハズだ、と。
しかし、あちらはあちらで苦労は無いだろうか。
戦いが無いだけでは平和と言えないのではないか。
被差別者の子供達を見て来て、改めて実感した。
どこにでも諍いはある。
何か不自由していないか?
言われてすぐ何か出来るとも限らないから。
何かあったら早めに言ってくれな。
『ふししし。全然大丈夫なのです』
『お父さんこそ、何か困ってないのです?』
悪戯っぽく笑うエディス。
逆に気遣って来るのはディアーヌ。
俺は……困っては、ないけれども。
折角だから、意見を求めてみる。
例えばなんだが、魔法を好き勝手に作る事が出来たら。
どんな魔法があれば面白いだろうな。
『んーとねー……ファゲル?』
エディス、えー……何だって?
『アニメに出て来た、毛根を死なす魔法です。
ファゲル、ファゲルガ、ファゲチロスなのです』
ファ……ハ、ハゲ散らかす? 何だって?
見ている分には面白いかも知れんけれども。
食らう方は堪ったモンじゃないな。
参考になった様な、ならん様な……
まあ、ありがとう。それじゃ、また何かあれば。
通信を切って。しかし、疑問符が残った感。
脱毛魔法、毛根根絶魔法だと。
今時のアニメはどうなっているんだ。
仮に作ったとして、禁呪だな。禁呪級生活魔法。
魔法の分類……あの世界の場合、と前置くが。
生命を増減する攻撃魔法、治癒魔法。
強化の支援魔法、弱体化やステータス異常の阻害魔法。
その他、転移や探知なども纏めて補助魔法と呼ぶ。
それとは別に、冒険・戦闘に直接役立たない雑多な魔法。
これらを一緒くたに生活魔法と呼んでいる節がある。
攻撃魔法は生活にも使えるが、生活魔法とは呼ばない。
生活魔法に分類される物に、直接生命を脅かす力は無い。
あってはならない……様な分類がされている。
これは魔法が戦いに使われて来た結果だと聞いた。
『攻撃魔法が使える者は前へ出ろ』
『生活魔法しか使えないので兵役を免除して欲しい』
『気を付けろ。そいつは攻撃魔法を隠している』
文献に、日常会話に、そんな内容が散在する。
およそ武器の様な扱いなのだろう。
大分類とすれば、生活魔法と戦争魔法、といった所か。
全部武器として禁じられると、立ち行かなくなる者も居る。
かといって、全部容認しても危険が残る。
術者全般への危険視は、術者迫害の危険に繋がる。
善良なる術者が戦争屋のトバッチリを食らわない様に。
大陸魔法機関は、審査に頭を悩ませているのだろう。
そんな分類、魔法体系において。
脱毛魔法ファゲルとは、恐らく攻撃魔法とは呼ぶまい。
直接生命を脅かす魔法ではないからだ。
まあ、絶対死なないという物でもないのかな。
極端な話、恋愛中の若者に使って、結果破局したら。
その若者はショックで身を投げるかも知れない。
しかし、その因果関係を立証するには……
と、何でネタ魔法を真面目に分析しているんだ、俺は。
対象をハゲさせる魔法なんて、十中八九がネタ魔法だろう。
アニメのネタ魔法なんて適当で良いじゃないか。
疲れているんだろうか。思考の方向性がおかしい。
ゲーム世界と記憶を圧縮同期して。
現実世界の経験情報も整理して。
電脳に疲労が溜まりがちだな。
一息入れようと、社内のカフェテリアへ。
サナトスが何か図面を広げていた。
携帯端末でスキャンを掛けて、データ化している。
内容は……古いバイク、重二輪の設計図に見えるが。
「これか? まあ、ちょっとな」
またガラクタでも拾って来て修理しているのだろうか。
彼は傭兵だがメカニックの知識もある。
仕事に支障が無い程度にな。
俺もあまり、他人の事は言えないが。
あのゲーム、『7th Earth』だったか。
もうすっかり趣味になってしまった。
趣味というか、もう1つの生活というか。
こちらの俺として、もう少し何かしてやれないか。
しかして、持って行けるのは知識ぐらいだからなあ……
知識、データ……んん?
あいつ、もしかして。いや、まさかな。
他人を気にするより、自分の事だ。
空き時間はデータベースを読み漁る。
何か子供達に役立つ知識が見つかると良いんだが。
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