黒鷲の旅団
20日目(1)雇われ官吏
「そういう流れだから。とにかくお願いっ」
いや、待て。順を追って説明してくれ。
朝食後、登城。イーディス公主に会った。
申し渡されたのは、地方に行って領地経営を代行してくれと。
まず、代行。俺の領地という訳ではない。
領地が欲しいな、という話をして久しいが。
しかし、俺の領主就任については反対の声も多い様だ。
亜人擁護の話は知れていて、神聖教会教徒から印象が悪い。
魔王軍との内通も疑われているらしい。
アンヌ達の方が内通してくれているんだけどな。
ホントにね、と公主も苦笑い。
領主として実績を示せば、印象も変わるだろうか。
それで、領地を経営する……代行するという事だが。
どうやら聞く所、元凶は魔王軍。その侵攻の爪痕だ。
首都に難民が押し寄せて来ている。
支援の為に大量の食糧が必要になる。
この流れ自体はまあ、通常の戦闘と大差無いのだが。
魔物の軍団は人間と違って、田畑や住居に執着が無い。
かなり手酷く荒らされており、被害が大きい。
加えて、領主貴族が少なからず命を落としている。
領地運営が滞り、無事な地域からも食料が回って来ないのだ。
神聖教会、魔女協会にも炊き出しを要請するとして。
しかしシュテルンの侵攻とは被害の、難民の規模が違う。
とても難民を難民のままにしておけない。
新規で集落を作り、早々に自給自足して貰う必要がある。
その指揮を執る……為の、領地経営。
傭兵将軍、というのは聞いた事があったが。
雇われ官吏、傭兵代官とは。
幾ら人材不足、金くれるっても、なあ……
赴任の指定先は東。ドブロジャ地方、トゥルチャ。
黒海に面した地域になる。
沿岸部に港町を1つ。内陸に鉱山町、農村と。
黒海から首都へ向かって並ぶ、3つの集落が俺の任地となる。
……いきなり3つ掛け持ちか?
やるのはともかく、ノウハウも何も無いんだが。
内政に使うつもりで見たら、俺なんて素人。
言う事を聞くだけマシ、程度の人材だろう。
「ホントごめんって。
冒険者から領主にした奴らとか、言う事を聞かないのよ。
経営メンドクサイ、自分達はダンジョン行くーって。
そりゃあサポートするとは言ったけどさ」
うん……まあ、鬱憤は分かるけど。
それを俺に愚痴られても困るんだが。
とは言え、市民を放っても置けないか。
やるだけやってみよう。
黒海沿岸、子供達にも海を見せてやりたい。
集落の基礎は公主の神人ウインドウから手配。
金を振り込んで、最低限度の資材が現場に設置される。
後は、現地に向かって、家を組み立てて。
畑や何かを整備して、住人を住まわせる、と。
住人となる人員の手配は?
待っていても集まるが、募集、派遣しても良い様だ。
自然に集まるのを待つよりは、集落の成長が早い。
保護した元奴隷兵達を港町に送ろうか。
港が、船が、移動手段がある。
経営が安定したら、故郷へ繰り出す者が出ても良いだろう。
帰る先があるかどうかは、時世次第だと思うが。
農村の方には、マルカ達の故郷出身者から募集してみる。
悪徳村長が逃げたきりで、残った連中は概ね真っ当な人物だ。
新しい職が決まっていなければ、まだ東区の教会に居るハズだ。
職が決まって……どうだろう。まずは声を掛けよう。
移動手段はポータル。任地最寄りの領主の館前から。
館の名義はキャスティーナさん。
館には不在だが、通信からアドバイスをくれるそうだ。
経験者の彼女に至っては、領内の官吏を駆使。
実に十数か所の集落を担当するという。
ちょっと前まで無頼の剣士みたいな印象だったんだが。
領地経営にも飽きてブラブラしていた、とかだろうか。
まあ、詮索しても仕方ないな。
子供達の所に戻って支度に掛かろう。
「あ、おっちゃん帰って来た」
「次どこ行く?」「えっ、海?」
「海だって!」「やった!」「わあい!」
集まって来た子供達……わあい、って。
そんな無邪気に喜んでくれるとは思わなかった。
特に水棲系種族のテンションが高い。
まあ、海も行くけど仕事込みだ。
浮かれるのは程々に頼むよ。
新人達は、仕立屋に寄って自分達の服の手配。
それが済んだら魔女協会の初級授業。
治癒、通信、転移魔法から覚えて貰う。
素質に差はあるが、レベルは上がっているので大丈夫だろう。
昼食時に合流、午後から参加して貰う。
その間に、花人隊は農耕魔法による食糧生産。
自給自足っても、数日暮らす程度の食料が要る。
自宅の敷地、農地2つと果樹園をフル稼働。
収穫は魔女さん達を中心にお願いします。
魔物従者隊の他、吸血鬼達、骸骨騎士団も手伝ってくれる。
薄曇りで、日照が弱いのが幸いした様だ。
先輩チームの子供達は、装備の点検、矢弾の手配。
行った先での安全確保や狩猟を行う。
治安が悪化しているとの事だった。
買い出しには必ず、小隊で固まって行く様に。
その他、細かい指示は通信魔法で。
それと……弩兵隊はペトリナが引率を。
レーネはちょっと手伝ってくれ。
住人達の移動手段として馬車を手配したい。
一緒に馬商人の所へ。道すがら、少し話もしよう。
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